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第20話 KAMON ◆wzJSYC0I 投稿日: 2002/08/15(木) 15:30
「ガイム城の怪」

ここは、夜のガイム城。
誰もいないはずの城内に、でっかいカメラを持った怪しい影が潜んでいました。
かすかな星明かりを反射して、丸めがねと真っ赤な髪飾りがきらりと光ります。
人影はアサヒちゃん。
今夜、ガイム城内で多額の賄賂の受け渡しが行われるというたれ込みを元に、決定的瞬間をとらえてやろうとこっそり忍び込んだのでした。

「おかしいわねえ・・・。真っ暗だし、誰もいないわ。やっぱりガセだったのかしら・・・。
いや、善良な読者を疑っちゃダメよ。どこかに隠し部屋があるかもしれないし・・・。」
そういいながら近くの壁により掛かろうとしましたが、アサヒちゃんはそのまま後ろに転倒。
その壁は、なんとどんでん返しになっていたのでした。
隠し部屋の中には、いくつもの本の山が・・・。
アサヒちゃんが1冊手に取ってみると、「ガイムカンリョウの愚痴全集」とありました。
早速中をパラパラめくってみると・・・。

「同僚の送別会やってる間に喧嘩が始まっちゃったよ、どうしよう」
「アメリー家と仲良くしようとするとサヨックさん襲いかかってくるんだもん・・・鬱」
「マキコさん・・・俺はもうあなたについていけません・・・」

そこには、ガイム城始まって以来今に至るまでここで働いてきた人たちの愚痴の数々が、
何千ページ何万ページにも渡って赤裸々に書きつづられていたのでした。
それを読んでいくうちに、アサヒちゃんの目が輝いてきました。
「ふふふ・・・これはスクープよ。
この本を調べれば、ガイム城のあることないことぜーんぶ分かっちゃう。
賄賂はわかんなかったけど、これは収穫だわ。」
今時唐草模様の風呂敷に、くだんの本を山のように包んでづらかろうとしていると、
パチ、パチパチ。どこからともなくラップ音が・・・
「え? 何? 私はマル教信者だから幽霊なんか信じないわよ・・・。」

すると突然、今度ははっきりと笑い声が・・・・・・
ヒヒヒヒヒヒヒヒ・・・・・
「ひいっ!」
ふははははははははは・・・
「きゃっ、」

いい加減涙目になり、それでもスクープの種は手放さず、アサヒちゃんは走りました。
もうすぐ出口だと思ったところで、アサヒちゃんの目の前に、雲つくような大男が立ちはだかりました。
よく見るとそれは老人。軍服を着て、軍刀まで提げています。
「もしや・・・あなたはニッテイ!」
「いかにもわしはニッテイじゃ・・・
わしが生きていた頃もここのバカ共には悩まされたもんじゃが・・・
輪をかけてバカだったのがお前じゃ!
アサヒよ、お前は一体何を書くつもりじゃ・・・」
優しいけど威厳のある口調でニッテイの幽霊は言いました。
「ふん! そんな脅しには乗らないわよ!
この本を元に、ガイム城とあなたの悪事を全部暴いてやるんだから!」

「大方また歪曲捏造偏向報道をするつもりじゃろう!
お前が反省するまでこのニッテイがお仕置きしてくれる!」
ぴかっ、ゴロゴロゴロゴロ。
突然雷が落ち、空はかげり、風は強くなり、草木が悲鳴を上げました。
気がつくと、ニッテイさんの部下達・・・自分が今までののしり貶めてきた者達の亡霊が、
アサヒちゃんの周りを取り囲んでいました。

「お前のせいでわしは成仏できんのじゃ・・・」
「お前の偏向報道のせいでわしはアメリー家の人間に殺された・・・」
「さあこっちへおいでお嬢ちゃん・・・」

「きゃああああああ! 分かりました、反省します、ごめんなさーい!」
荷物を抛り出し、幽霊を必死で振り切り、アサヒちゃんは逃げました。
逃げて、逃げて・・・気がつくとニホンちゃんのうちの前でした。
見ると、ニホンちゃんが庭で線香花火をしています。アサヒちゃんはニホンちゃんに泣きつきました。
「ゆゆゆ、幽霊、お化け・・・・出た出た、ガイム城・・・」
「幽霊? アサヒちゃん、幽霊信じないんじゃなかったっけ?」
「出たのよ、ガイム城で、お化け・・・」
「私はお化けなんか怖くないな、だって・・・。









私もお化けだもん・・・・・・・!」
ニホンちゃんが顔を上げた時、アサヒちゃんが見たものは、見るも無惨に崩れ落ちたニホンちゃんの顔・・・。
「きゃああああああああああああああ! やめてこないで近寄らないで・・・もう御注進やめますから・・・」
アサヒちゃんは腰が抜けて動けなくなり、恥も外聞も捨てて命乞いまでする始末。
「プッ、あはははははは!」
・・・突然、ニホンちゃんのお化けが笑い出しました。お化けのそれではなく、人間の、いつものニホンちゃんの明るい笑い声です。
「いやあ傑作だった。姉さん名演技だったよ!」
障子を開けて出てきたのはウヨ君。ニホンちゃんの両親も一緒です。
なんと、ガイム城で働いている人までいるではありませんか!

「アサヒちゃんに一泡吹かせてやろうと思ってさあ。
いや正直、あそこまでうまく行くとは思わなかったけどなぁ。」
「え、じゃああれは・・・みんなあなた達が仕組んだの?」
「そうよ。」
「ラップ音や笑い声も?」
「そう。あれだけで腰抜かほどす怖がるんだもん。」
「最初のたれ込みは?」
「あれはガイム城の人の自作自演」
そこまで聞いて、アサヒちゃんはホッとすると同時に、底知れぬ怒りがこみ上げてきました。
「なによ! じゃあニッテイの幽霊も、隠し部屋の本を奪い取るために仕組んだのね!」

「おじいちゃんの幽霊? 何それ? ウヨ知ってる?」
「え? 知らないよ。第一おじいさまの顔なんてもう覚えてないし。」
「ガイム城に隠し部屋なんてあったかなあ・・・」
「俺らがやったのは、偽のたれ込みと、ラップ音と笑い声だけだよなあ・・・」
「え、じゃあ私が見たのは・・・」
アサヒちゃんは、泡を吹いてぶっ倒れてしまいました。
その後、アサヒちゃんは何度もガイム城に行き、隠し部屋を探しましたが、
そんなものはついに見つからなかったと言うことです。

解説 KAMON ◆wzJSYC0I 投稿日: 2002/08/15(木) 15:36
連続投稿すいません。KAMONです。
今回の元ネタは、ありません! 季節柄怪談ネタをひとつ出してみました。

おまけ:
その後、靖国墓地にて。
部下A「いやいやニッテイ隊長、あの子のあわてふためく様を見ましたか?」
部下B「一寸懲らしめてやろうと思ったらものの見事に当たりましたな。」
部下A「これで煽り報道をやめればいいのですが・・・」
部下B「無理でしょうね。まあお盆までの暇つぶしということで。」
ニッテイ「諸君、この度の作戦、大儀であった。おかげでばあさんにいい土産話が出来たわい。」
部下A「若い頃を思い出しますなぁ。」
ニッテイ「これでニホンもジミンも今年こそはちゃんと墓参りしてくれるといいんじゃが・・・」

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