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第1078話 KAMON ◆wzJSYC0I 投稿日: 02/06/28 18:23 ID:Ree19g9R
「アメリー君の自由好き」

5年地球組の番長、アメリー君は、何よりも自由が好きな男の子です。
おや、今日はアラー組のアフガンちゃんにイチャモンをつけているようです。

「こら、アフガン、いつまでも布を被ってちゃいけないって言っているのにまだ分からないのか!」
「いいじゃない、私んちは先祖代々ずーっとこうだったんだもん!」
「そんな仕来りなんかもう古いよ! 何でも、君の家は女の子の兄弟にみんな布をかぶせちゃうそうじゃないか! これからは自由の時代なんだからそんなものは脱がなきゃダメだよ!」
「肌を見せるなんてみっともなくて出来ないわよ!」
「君は自由を妨害する気かい?」
「あなたの価値観を押しつける自由なんかいくらだって妨害してやるわ!」
「何だとこのアマ!」
「なによ、やる気?」
あわや大げんかかと思われたその時!
ばしゃっ、がっちゃーん!
アメリー君の頭に何か硬いものが当たりました。同時に視界にティーカップが入り、それが床で粉々に砕け散り、アメリー君の頭が焼けるように熱くなります。
「うわっ、あち、あち、あちーーー! 何するんだよエリザベス!」
アメリー君がティーカップの飛んできた方を振り向くと、教室の隅で、澄ました顔の、しかしこめかみに青筋を立てたエリザベスちゃんが睨んでいました。
さっきまでスコーンを食べながら一緒に談笑していたニホンちゃんはオロオロ。
「お静かになさい! お茶がまずくなるじゃありませんの!」
「うるさいなあ、今俺は・・・」
「お静かになさいと言ってるんです!」
「ちっ、分かったよ・・・やいアフガン、次こそは絶対布を脱いでおけ! いいな!」
砕け散ったティーカップを拾い集めながらアメリー君は怒鳴りましたが、アフガンちゃんはそっぽを向いて行ってしまいました。
「まったく・・・アメリーときたら、あのときと全然変わってないわね!」
エリザベスちゃんが吐き捨てると、ニホンちゃんがおそるおそる聞いてきました。
「そういえば、アメリー君は昔エリザベスちゃんの家にいたらしいけど、あのときからずっとああだったの?」
唐突にきかれ、エリザベスちゃんは一瞬固まりましたが、すぐに予備のティーカップを取り出すと、お茶を淹れ直し、ミルクをかき混ぜながら、ぽつりぽつりと話し始めました。
それは、アメリー君もエリザベスちゃんもまだずっと小さかったときのことでした。
親戚同士だったアメリー君とエリザベスちゃんは、当時義理の兄弟になっていたイン堂君やカナディアン君・セネガル君と共に同じ家に住んでいました。
アメリー君は、今でこそクラスの番長ですが、当時はエリザベスちゃんに頭が上がらなかったのです。
エリザベスちゃんは、それを良いことに、ことあるごとにアメリー君からお小遣いを巻き上げていました。

「今度から日記を書いたらあたちに見せるでちゅよ!」
「日記にはこのシールを貼らないとダメでちゅ! シールは1枚3ポンドでちゅ」
「お茶はあたちがぜーんぶいただくでちゅ! アメリーにはお小遣い払わないとあげないでちゅ!」

アメリー君は、こういった言いがかりに頭に来ていたのですが、当時エリザベスちゃんちは今よりもずっとお金持ちで、アメリー君ちの大事なお得意さまだったので、逆らえません。ただただ、エリザベスちゃんの言うことに従うしかありませんでした。
が、こう何回もやられたのではさすがに堪忍袋の緒が切れます。ある日、アメリー君は、エリザベスちゃんのお気に入りのお茶を、頭に来て全部お池に放り込んでしまいました。
ぼっちゃーん、ぼっちゃーんと音がするのでエリザベスちゃんが様子を見に行くと、ちょうどアメリー君は最後の茶筒を手放したあとだったのです。お池には甘い香りが広がり、たった今飛び込んだばかりらしい茶筒がいくつかぷかぷか浮いていました。

「ああああああああ! アメリー、なんてことするでちゅか!」
「うるさい、いつも偉そうにしやがって、今度という今度はもう我慢できないぞ!」
騒ぎを聞きつけて、アメリーパパが飛んできました。
「いったい何なん・・・あああああ! アメリー、なんてことを・・・
謝れ! 今すぐエリザベスちゃんに謝りなさい!」
「いやだ! 今度こそは、エリザベスをぎったんぎったんにして、こんな家、出ていってやる!」
「最近生意気になってきたと思えば・・・ いいでちゅわ、こうなったらあとで泣いて謝ったって絶対に許してなんかやらないでちゅ!」
斯くして、大人も止めることの出来ない大げんかが始まってしまいました。
互いに、殴り、蹴り、引っ掻き、何でもありのバーリトゥードマッチです。
すっかり暗くなって、大人たちが漸く止めに入るまで喧嘩は続きました。

次の日も、また次の日も、2人の喧嘩は続きました。
アメリー君の両親も、この一件でエリザベス家との仲が決裂したので、アメリー君を応援しています。
やがて、騒ぎを聞きつけて、ロシアノビッチ君やフランソワーズちゃんもアメリー君に味方し、ついに、アメリー君はエリザベスちゃんを降参させました。
「わ、分かりまちた、あたちの負けでちゅわ・・・。もう無理なこと言わないし、出ていきたいのならそうしてくだちゃい。」
「やった、やったぞ! 僕は自由だ! ヤッホー!」

こうして、アメリー家は独立し、がんばってお金を儲けて、今ではエリザベスちゃんもニホンちゃんも敵わないほどのお金持ちの家になったのです。お金を儲けたのも、独立したのも自由のおかげと言うことだったので、その後、自由は、アメリー家の家訓になりました。
「・・・もっとも、それが時に過ぎて価値観の押しつけになることもあるのですけどね・・・。」
最後のスコーンをつまみながら、エリザベスちゃんが教室の対角線上を見やると、アメリー君が今度はマレーシア君に言いがかりをつけています。
「やい、お前の家は、この間俺ンちの庭石をぶっ壊したやつの味方をしてるんだろう!」
「何を根拠に! 同じ家訓の家だからって一緒にしないで欲しいな!」
「それと、お前の犬、この間、俺を咬んだぞ、どうしてくれる!」
「マハティールはわけもなく人を咬んだりしないよ。大方アメリーがちょっかい出したんだろう!」

遠くからでもよく聞こえるその騒ぎを、エリザベスちゃんはしばらく見ていました。
「しょうがありませんわね、喧嘩を止めるのが番長の役目でしょうに・・・。
ちょっと止めに行ってきますわ。」
席を立ってアメリー君の元へ向かうエリザベスちゃんを見て、ニホンちゃんは、2人の複雑な関係に思いを馳せるのでした。

解説 KAMON ◆wzJSYC0I 投稿日: 02/06/28 18:30 ID:Ree19g9R
どうも、KAMONです。
今回は、ボストン茶会事件〜アメリカ独立戦争です。
テスト勉強してたら、そういえばアメリー君がどうやってエリザベス家を逃げ出してきたのかという話がないなあと思い、書いてみました。

>>132
パリの犬の糞害は聞いていましたが、想像以上にすごいようですね。
しかし、このチョンイル新聞、うんこうんことうるさいな・・・。
糞とか大便とか科研のか?

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