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第1082話 JY53 投稿日: 02/07/01 23:30 ID:6R7PUVgS
「シオン、彼女の場合」


生きる。
私は死なない。


私は夢を見ていた。
それはつかの間の夢だった。
流されるように夢を見ていた。
ただ、流れていた。
私はおぼろげな平和の夢を見た。


褐色の砂、厳重な柵と警備に囲まれたコンクリートの城壁。
私の家はこの街の新興の地主。
とてもとても罪深いことをした家。
でも、厳格な信仰につつまれた家。
これら2つは矛盾しない。
どちらも、私たちの信仰と最高神の思し召しによるものなのだろう。
うちの親は、『そのうちおまえにもわかるさ』と表情のない顔でいう。
でも私は、その言葉を初めて聞くその遥か前から、
その意味を学んでいた。


このこと知ったのは、それはとても、とっても小さな頃から。
わたしは生まれながらにして嫌悪であった。
道を歩けば、同じ年の子から石をなげられる。
老人が口を開けば罵声を浴びせる。
「俺たちの土地を返せ!豚!
「おまえ等なんか、大昔に絶滅させられればよかったんじゃ!!!

軍靴に踏みにじられた人々、
暴力に虐げられた人々、
無くした物の大きさに行く当てなくさまよう人・人。
私の強くない、そして人からは氷のようだといわれる私の心は、鋭く痛む。
そして凍ってゆく心。
彼らの痛みは、わかり過ぎる位良くわかる。
私の心は細かな傷で曇ってゆく。




でも、

私は家を背負っている。
私は歴史を背負っている。
私は原罪を背負っている。

だから、

引かない、
私は引かない。
私の手は汚れた手。
掴むのは砂。

こんな私に、一族は『美しくあれ、崇高であれ、希望であれ。』と名前を付けた。
プレッシャーと自尊心。
絶え間ない信仰と迫害。
生まれながらの矛盾として私は産まれ、そして生きてゆく。




私の痛みは生存の痛み。
我が民族存在の痛み。
そう私は世界のすべてを否定しても、
傲慢に生きつづける。
私の名は希望。
周囲にとっては悪意と投石の対象。

そして、
私は生きる、存在しつづける。
そう、この場所に。
それは約束の場所、ここは血塗られた希望の丘。


私は夢を見ていた。
それはつかの間の夢だった。
流されるように夢を見ていた。
ただ、流れていた。
ある朝、私はおぼろげな平和の夢を見た。
END


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