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第1194話 XSF 投稿日: 02/08/30 08:46 ID:HdOfCKar
血と涙と憎しみの大地
(1)
人間という生物はその最後の一人が息絶えるまで戦い続けるのだろうか。
地球町にもそう思わせる場所がある。アラブ町の一角、地中海の池に面した小さな土地・・・。
ここを舞台に長きにわたる凄惨な戦いが行われている。
シオンちゃんとパレス・チナちゃんの戦いは果てることなく続いている。
以前はシオンちゃんにはエリザベスちゃんフランソワーズちゃん。パレス・チナちゃんにはアラブ町のみんなが直接間接に支援していたが、
今はどちらも公然の影の援助で戦っている。シオンちゃんの後ろにいるのは地球町のキング、アメリーくん。それに対してパレス・チナちゃんはアラブ町内会の影の支援を受けて戦っている。
シオンちゃんはアメリー家から援助してもらった多くの武器を使ってパレス・チナちゃんを追い回しその土地を奪っていきます。
高価な武器を持たないパレス・チナちゃんは物陰に隠れてシオンちゃんが油断しているところを石や木の棒で決死の抵抗をします。
それに対するシオンちゃんの返答は機関銃の一斉射撃。誰が見てもパレス・チナちゃんに勝ち目のなさそうな戦いです。それでも彼女は戦いを挑み続けます。
そもそもこの戦いの発端はシオンちゃんの一族がユーロ町を追い出されこの地に流れ着いたことに始まりました。
シオンちゃんの一族は遠い遠いはるかな昔この土地を追われ地球町のいろいろなところに間借りして生活していました。
しかし、居候の上お金をもうけるのが上手なシオンちゃんの一族はユーロ町では常にいじめと軽蔑の対象でした。
いつかは屈辱の生活を抜け出し自分の家を持ちたい。そう願いながら働いていました。そしてついにユーロ町の名家の援助でかつてご先祖様が住んでいた土地に家を建てることが認められたのです。
しかし、その土地にはもうすでにシオンちゃんのご先祖さまと一緒にすんでいた人々が生活を営んでいたのでした。

「私は私の家に住みたい。共存?そんなの真っ平よ。ここは私の土地。貴方たちは出て行って。」
シオンちゃんはパレス・チナちゃんのお父さんとお母さんにそう言うとエリザベスちゃんが貸してくれたピストルの引き金を引きました。
2つの銃声が乾いた大地に響き、其の日以来この乾いた大地は血と涙を憎しみを吸い続けています。
そのときパレス・チナちゃんは家におらず無事でした彼女が家に帰って見たものは物言わぬ両親と自分の家の半分がもぎ取られ全く新しい家が建てられようとしているところでした。
それは小さな女の子の心に修羅を植えつけるには十分の光景でした。
ショートカットで短パン、アラブ町では村八分にあいかねない活発な女の子はこの日から己の存在すべてをかけて終りの見えない修羅の戦いに身を投じることとなりました。
シオンちゃんが言います。
「ここは私の土地よ。何で貴方はずっと居座るの?」
「それはこっちのセリフよ。貴方こそなんで。何のためにここにいるの?」
とパレス・チナちゃん。さらにシオンちゃんが答えます。
「私のご先祖様は、わたしのお父さんもお母さんも自分の家をもてないばっかりに地球町であらゆる差別を受けてきたわ。
私はいつか生まれる私の子供たちにそんな目にあわせたくないの。アメリーもエリザベスもアーリアも自分の家をもってるからいい気になって、一度家を失って私たちの苦労を味わってみないとわかないのよ。
それなのにあいつらは・・・・・・そこをどいて。私は地球町中の同情を受けながら死んでいくよりすべてを敵に回してでも生き残るわ。私にはそれしかないのよ。さあ、どきなさい。」

>>333(2)
(3)
身を乗り出してパレス・チナちゃんが言い返します。
「なに言うのよ。あなたにどんな事情があるかしらないけど、返してよ! 私のお父さんとお母さんを返してよ!! 昔の平和な暮らしを返してよ!!!
私は絶対にどかない。あの日を取り戻すために何だってやるわ。」
「あなたは何を言ってるのかわかっているの。あなたのやっていることはテロなのよ、犯罪なのよ。」
小さく、しかしはっきりと聞こえる声でシオンちゃんが言います。
「テロ、犯罪。それがどうしたのよ。そんなのあなたとアメリーたちが勝手に決めたルールじゃない。アメリー家も国連先生も私の話なんて聞いてくれない。私にはこれしか方法がないのよ。そう仕向けたのはあなたたちじゃなかったの。」
「じゃあ犯罪者を私が逮捕しても文句ないわね。」
「勝手に言ってなさいな。あなたたちの文明国では外交官が宣戦布告すればナパームでも花火でも何をやっても許されるそうじゃない。
東の果てにある島国にアメリー家が花火を打ち込んでもそれは犯罪じゃないそうしゃない。アラブ町の家々に火をつけても国連先生のお墨付きさえあればなんの問題もないんだってね。文明国?先進国?人権? 笑わせないでよ!」
パレス・チナちゃんの言葉に答えたのは機関銃の一斉射撃だった。

かろうじて致命傷をさけたパレス・チナちゃんだったが、弾は腕をかすり腕から血が大地に滴る。まるでこの中東の大地が人間の血を欲しているかのように・・・・。
そして今日もこの大地から銃声がやむことはない。

解説 XSF 投稿日: 02/08/30 08:54 ID:HdOfCKar
ニホンちゃんでは中東問題を描くときはシオンちゃんサイドから描くのが一般的でしたが、
たまにはパレス・チナちゃんの側から描くのも面白いかなと思い作ってみました。
作ってみて思うのはアラブ諸国、第三世界からの登場人物が思ったより少ないなと感じております。
環境サミットネタは少々難しいかなぁ。

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