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第1288話 会員番号93 投稿日: 02/11/17 00:41 ID:myAcsGJD
『ウヨ君の誓い』

風を切る音が今日も小気味よく響きます。
日之本武士、通称ウヨ君はここ、ヤスクニ神社の裏で竹刀を振るのが日課。
研ぎ澄まされてゆく感覚。正面だけを見つめ、そこにある何かを斬る。ウヨ君が
竹刀を振る理由は他にも色々ありますが、彼は何よりその感覚が好きなんです。
「……なに?もう夕飯の時間なの?姉さん」
ウヨ君が手を止め、正面を向いたまま言います。ちょっと前からウヨ君の姿に魅
入っていたニホンちゃんはちょっと驚いた様子。
「気付いてたの?あんまり一心不乱だったから……」
「一心不乱と言う程じゃないよ。いつも邪念に悩まされてる。……特に最近はね」
最近……それがキッチョム君の事を言っているのかどうか、ニホンちゃんには判
りません。でも、もしそうだとしたら、ウヨ君には言っておかなければならない
ことがある。ニホンちゃんは姉としてそう思いました。
「……ねえ、武士。貴方は何で竹刀を振っているの?」
「???どうしたんだい?姉さん。僕が竹刀を振るなんて、ずっと昔からの事じゃ
ないか」
ウヨ君は何気なく聞き返しますが、ニホンちゃんの目は……真剣です。
「武士は強くなり無いの?今でも十分強いのに、もっと強くなって……、誰かと喧
嘩でもするの?」
「うん、……僕は強くなりたい。今よりもっともっと強くなりたい」ウヨ君は真っ
直ぐにニホンちゃんの目を見返します。でも彼の答えはニホンちゃんにとって、と
ても意外なものでした。「でも、僕は強くない。弱いんだ。きっとこの地球町の誰
よりも弱い。強いのは……さくら姉さんさ」
「私?どこが???」
「……本気でそういってるのかい?」目を丸くするニホンちゃんに、ウヨ君は呆れ
た声でこたえます。
「だって、私なんてイジメられっ子だし漫画くらいしか特技がないし、謝罪と賠償
が下手だから、いつまでたってもカンコ君やチュウゴ君に許して貰えないし、キッ
チョム君にも経済協力が……」
「……姉さん、よくそんなに自分を卑下できるものだね」予想以上の姉の卑屈な思
考に少々考えを改める必要に迫られたウヨ君ですが、それでもやっぱり彼のニホン
ちゃんに対する信頼は揺らぎません。
「姉さんは美人で頭もいい。それだけでも大したものなのに、お金もあるし本当は
腕っ節も強い。きっと地球町でアメリーと本気で喧嘩できるのは姉さんだけだろう
な」
「そんな、私はそんなに凄くないよ!アメリー君になんか全然敵わない」
ニホンちゃんが慌てたように強く否定します。
「そうかな?多少の誇張はあるにしても、僕は心にもないことを言ったつもりはな
いよ?姉さん。姉さんは強い」
「……強くなんかないよ。喧嘩なんか、したくない」
愁いを帯びた目でいうニホンちゃん。喧嘩を嫌うニホンちゃんの心に何があるかは
ウヨ君もある程度は理解して居るつもりです。でもウヨ君はあえてそれを否定しま
した。
「……相変わらず狡いんだね。姉さん。チュウゴやカンコがいつまで経っても許し
てくれない訳だ」
「……!」はっと顔を上げるニホンちゃん。その顔には少しの怒気も含まれていま
す。
「だってそうだろ?姉さんは本当はチュウゴもカンコも眼中にない。対等だなんて
これぽっちも思っていない。そりゃそうだよね。姉さんはあいつ等よりずっと強い
んだから、理不尽な要求に従ったって痛くも痒くもない」
「……やめて」
「心の底でそんな風に考えてる事がバレバレなのに、いくら謝ったって許して貰え
るわけないよね。相手にしてみれば対等のテーブルにも付かず、注文しただけの無
理難題を何の気無しにかなえてくれるんだから。こんな屈辱って無いよ」
「黙りなさい!武士!」
「…………」
ニホンちゃんは大きな声を出して……、ウヨ君の少しも動じていない顔を見てはっ
と、感情的になっていた自分に気付きます。
「大きな声を出してご免なさい……」ウヨ君がニホンちゃんの言葉通りに黙ってい
たので、ニホンちゃんは気まずいながらも言葉を続けます。「でも……、仕方ない
じゃない。私はもう二度と喧嘩をしないって決めたんだもん。どんな理由があって
も、私からは決して手を出さない。だから、……仕方ないじゃない。それで誰かが
傷ついても、ホントに怪我をするわけじゃない」
ウヨ君は肩をすくめます。世の中には体の傷より心の傷を重視する人間だって沢山
いるんです。そう、例えば自分のように……。でも、ウヨ君は笑って言いました。
「別に僕は姉さんのその考えを否定する訳じゃないよ?僕はそんなに好きになれな
いけど、そういうやさしさは立派だと思うし、それが姉さんの一番の強さだとも思
う。だから姉さんは自分の決めたとおりにすればいいじゃないか。今まで通りに」

「???どういうこと?」
ニホンちゃんは少々混乱してきました。ウヨ君が何を言いたいのかさっぱり判りま
せん。「私が今のままじゃ、カンコ君やチュウゴ君に許して貰えないって……」
「いいじゃないか。許して貰えなくても。どうせあいつ等は姉さんを許さないこと
を最大限に利用して自我を保っているような奴等なんだから、許して貰ったってそ
んなに変わらないよ。きっと」
「……」
確かにウヨ君の言うとおりかもしれません。ニホンちゃんは一生カンコ君やチュウ
ゴ君にたかられる自分の姿を想像し、鬱が入りました。だったら一生許されないま
まで居るのも変わらない、というか、むしろ気楽な気もします。
「でも、それじゃああんまり……」
「もしそれで不都合が起きるようなら……、その時は僕の出番だ。僕が姉さんを守
ってあげる」
「……え?」
ニホンちゃん、思わずウヨ君の目を見ます。ずっと弟で、これからも弟で、自分が
守らなくてはいけないと思っていたウヨ君の目は、ちょっと意識しない間に、ずっ
と深く成長していました。
「姉さんはさっき、僕が何で竹刀を振るのか聞いただろう?」
「え?ええ、そうね」
すっかり忘れていました。ニホンちゃん、完全に手玉に取られていますね。姉失格
です。
「人が理念を掲げるとき、誰かの理念とぶつかることは避けられない。だから僕は
姉さんの理念を守りたい。『平和』っていう理念はちょっと青臭い気もするけど、
それも姉さんらしくていいんじゃないかな。……姉さんには姉さんの考えを貫いて
欲しい。だから僕はそれを守る為に竹刀を振るんだ」
「武士……」
ニホンちゃんはあまりにも堂々としたウヨ君の態度にちょっとドキドキです。胸が
『キュン』と鳴ったのは気のせいでしょうか?
「でも、武士は何でそこまで……」
ニホンちゃんの当然の疑問に、ウヨ君は少しはにかんで答えました。
「いいじゃないか。姉さんは優しい。それは決して僕には無い強さだ。僕はそうい
う姉さんが好きなんだ。それにこれは……」
「これは?」
「いや、そういうことだよ」
ウヨ君は続けて言う言葉を飲み込みました。飲み込んだ言葉は『誓い』。ウヨ君が
ニホンちゃんを守るのは、ウヨ君が祖父、ニッテイおじいさんと交わした、生涯を
かけて守るべき誓いだったのです。

---九年前。

ウヨ君が生まれて百日の祝いに、引退して久しいニッテイさんが久方ぶりに日之本
家を訪れました。そのころ日之本家は高度経済成長に沸き、巨大な資本力を手に入
れる一方、日之本家の人間は『エコノミックアニマル』等と呼ばれ、ニッテイさん
の時代まで培われてきた日之本家の誇りが失われてゆく、そんな時代でした。
隠居してからは統合の象徴として日之本家の方針には口を挟まなかったニッテイさ
んも心の中ではそんな社会を憂いていたのでしょうか?おそらく自分が見る最後の
孫であろうウヨ君の誕生をそれはそれは喜び、名付け親を頼まれたときも『武士』
という、大層立派な名前を付けました。
そして百日祝いのこの日、ニッテイさんはまだ歯も生えそろわないウヨ君に、真剣
な面もちで語りかけたのです。
「武士。お前は誇り高く有れ。姉を守り、家族を守り、自らに決して妥協するな。
この地球町の中で、敵と味方をはっきりと見定めよ。決して敵に膝を屈せず、味方
を辱めず、そして大切なものを必ず勝ち取るがいい。日之本家はお前のものである
と同時にお前は日之本家のものだ。家のため、家族のために自らを捨てることを決
して躊躇ってはならない……」
ニッテイさんの言葉は個人主義の横行しだした当時の日之本家の家風に逆行するも
ので、ニホンママは眉を潜めましたが、未だに言葉を理解しない子供のこと。ニホ
ンパパはそれをニッテイさんの愛情表現の一種として笑って見ていました。
……そのとき、急に変化は起きました。それまで無邪気に笑っていたウヨ君の眉が
キリリと引き締まり、ニッテイさんを真っ直ぐに見返したのです。変化は一瞬のこ
とで、ニッテイさん以外は気づきませんでしたが、確かにその時ウヨ君とニッテイ
さんはお互いの意志を、そして誓いを交わしたのです。「此奴、儂の望みを判って
おる!」ニッテイさんはそういって大笑いしたそうです。
それからすぐにニッテイさんはこの世を去りました。ウヨ君はニッテイさんの顔す
ら覚えておらず、ましてその時の言葉など知る由もありません。
しかし……ウヨ君は覚えていたのです。これを人に言うと妄想や捏造扱いを受ける
ので、ウヨ君は家族にすら口にしませんでしたが、彼はニッテイさんの言葉を一言
一句漏らさず理解し、覚えていました。

風を切る音が小気味よく響きます。
ウヨ君は今日も竹刀を振っていました。雑念が混じっているとカンコ君やキッチョ
ム君、果てはロシアノビッチ君やアメリー君等、ニホンちゃんに害意を持ちうる多くの影
が現れてウヨ君の剣先を鈍らせます。しかしそれもしばらくすると消え、ウヨ君は
無心に近い状態で竹刀を振ることが出来ます。しかし今日は何故でしょう?なかな
か邪念が消えません。ウヨ君はその理由を考え、あることに思い当たりました。
「そうだ、地球町には竹刀じゃやっぱり通用しない奴もいる……」

ウヨ君は今度、木刀を買いに行くことに決めました。
                                おわり

解説 会員番号93 投稿日: 02/11/17 00:50 ID:myAcsGJD
初めましてです。ニホンちゃんのお話を書くのは初めてです。
そしていきなりですがソースもありません。
ウヨ君LOVEな気持ちをそのまま形にしてみましたが、ありがちな話なので過去作品
とかぶってるかも……。駄文長文で申し訳有りません。

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