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第1864話 有閑工房 ◆WOaKOSQONw 投稿日: 04/05/13 11:58 ID:Z0F/IeEK
『路上のルール』PART-3

 さらに二日が経過して、アメリー君にパパから電話です。
「Hiパパ、調子はどうだい?」
「順調だ。お前はどうだいアメリー?パパの息子として立派にがんばっているかい?」
「(ぎくっ)…も、もちろんだよパパ!ボクも子供同士とかじゃなくて大人相手に喧嘩
したい位さ!ゲルマッハなんてちょろいちょろい!ははははは!」
 精一杯元気にアメリー君答えます。今日もパツキン君とクーロイ君はゲルマッハ君に
返り討ちに遭って横で泣いていますが。
「はっはっはっは、頼もしいね。しかしそのちょろい相手に少し余裕を見せすぎだな。」
「は………、だ、大丈夫さ、明日にはヨハネにでも挨拶に行けるさ!」
「そうか、それはいい、ようしアメリー、パパとの約束だ。明日にはヨハネ君と仲良し
なのを町のみんなに知らせてやれ!」
「わかった!パパも頑張ってね!」
 さて、強がった後は青ざめて大混乱のアメリー君、何とかしないといけませんが、誰も
グスタフ基地に近付きたがりません。
「パツキン、クーロイ!お前らみんな誰が帰って来いって言ったんだYO!早く元の所に
行け!」
「アメリー、そんなに言うならあすこに行ってみろ、死ぬぞマジで。」
 パツキン君、しょっぱなに撃退されて以来後ろに居座るアメリー君が面白くありません。
「だからってなあ、何でお前ここでだらだらしてんだYO!」
「痛いのやだもん。」
 クーロイ君、即答です。アメリー君も言い返せません。
 しかしこのままでは埒が明かないのは当たり前の話。次の日にゴシック基地の手近に
あったサレルノの間にパツキン君を送り込み、この頃エリザベスちゃんの所に逃げ込んで
居候していたフランソワーズちゃんを従兄弟達共々強引に連れ込んで、数で何とかしようと
します。
 しかし所詮は数合わせ。パツキン君はまるでやる気がないため、サレルノの間の辺りで
モタモタしているうちに、ゲルマッハ君にあっという間にバリケードを作られ、やる気が
ないのを見抜かれたのか、そのまま放置されました。
 アメリー君、結局味方をあちこちに分散させてしまい、戦力の逐次投入と兵力の分散
という戦場で一番やってはいけない事をしてしまいました。もちろん小学校低学年には
分からないことですがね。
 後に残された手段といえば…
「…全員突撃!俺に続け!ファイヤーーーーー!!!」
 まあそんなもんですな。ありったけの花火を使い、動ける子分総動員でモンテ・カッシーノ
の間に突っ込みます。無茶苦茶に花火を使ったのでモンテ・カッシーノの間の調度品は木っ端
微塵、部屋は焦げ跡や泥まみれ。
 ゲルマッハ君たちも果敢に応戦します。しかし数に物を言わせて押し捲られては流石に
ゲルマッハ君も持て余し気味。
「うーん。そろそろかな?」
 バリケードは所々で破られはじめ、石やら花火やらが段々ゲルマッハ君の周りに飛び込む
ようになりました。
「マカロニーノ、アーリア、そろそろだな…」
 アーリアちゃんはその言葉に応じて、エリザベスちゃんに嫌がらせをしつつ下がります。
しかしマカロニーノ君は何を思ったかいそいそと白旗を揚げる準備を始めました。
 ゲルマッハ君速攻で白旗を分捕り、マカロニーノ君を引き摺って次の基地に後退しました。
「イヤダーーー!ボクは女の子のためにケンカするんだーーー!!」
「アーリアも女の子だ。」
「あんな男女いや…」
ばきっ!
 という乾いた音と共にマカロニーノ君沈黙します。白目をむいたマカロニーノ君の横を
涼しい顔でアーリアちゃんが通り過ぎて行きました。
     *
 いつの間にかげるマッハ君たちの反撃が無くなり、こわごわグスタフ基地に一番乗りを
果たしたアメリー君、もぬけの殻のグスタフ基地に半ばほっとし、半ば逃がした悔しさが
こみ上げます。
「ま、これでとにかくヨハネに会える。」
 誰に言うではなくアメリー君が呟きます。
 そしてローマの間ではヨハネ君と肩を組んで仲良しポーズ。こういう時のアメリー君
の笑顔は天下一品です。そしてその日の夕方にパパから今日までにヨハネに会えと言った
意味がわかりました。パパ達はノルマンディ別荘に出入りをかけて、何とかそこを手に
入れたというニュースが耳に入ったからです。
 連合組の子供達は大喜び。それで自分達がどうというわけではありませんが、子供には
結構嬉しいもんですね、親が頑張るってのは。
 アメリー君も最初は浮かれていましたが、マカロニーノ家は任せとけとか何とか両親に
豪語した記憶が蘇り、少し鬱になります。
 さっきちょっとだけゲルマッハ君たちがいる場所に行ったのですが、案の定そこには
マカロニーノ君の家に来てすっかり見慣れたバリケードの山がまたまた作られています。
『やっぱ、あれ壊さないと先にいけないよなあ…』
 浮かれる子分たちの中で、一人遠い目で考えるアメリー君でした。
 結局大人たちのシマ争いは、アメリー君たちの番長決定戦よりも早く片付いてしまい、
家のケンカが終わればとゲルマッハ君もあっさり負けを認めてしまったので、アメリー君
も手打ちにしてしまいました。
「アメリー、よく戦った。僕も楽しかったよ。」
 降参してバリケードから出てきたゲルマッハ君、握手のための手を差し出しながら
にっこり笑っています。
『なんで負けたって言ってるのにこいつこんなに偉そうなんだYO!』
 一瞬キレそうになりましたが、今ここでまたぞろゲルマッハ君が怒ってバリケードの
向こうに行ってしまうと、またあのうんざりする花火合戦が待っています。
『それは、もう、いや。』
 笑顔でゲルマッハ君と固く握手を交わしながら、アメリー君一人考えていました。 
 そこに満面の笑みでマカロニーノ君が空気を読まずに割り込んできます。
「アメリー!助かったよー!聞いてくれよ、ゲルマッハったらひどいんだよ!争い事が
嫌いなボクを無理矢理ウワナニスルヤメ…モガモガモガ。」
「で、ゲルマッハ、このバカどうすんだ?」
「お前にやる。」
「……いらねえよ……」

おしまい

解説 有閑工房 ◆WOaKOSQONw 投稿日: 04/05/13 12:01 ID:Z0F/IeEK
解説・前線・遅延撤退
※ 今回は終戦期のイタリア戦線のお話を。ムッソリーニ政権への求心力の低さと地域間
対立、そして天性のラテン気質からとんでもないヘタレぶりを発揮したイタリア軍と、
そのイタリアで満足な装備もなしに終戦まで進撃を停滞させたドイツ軍の戦いぶりを
何とか話にしてみました。
※ 第二次大戦のイタリア戦線で最激戦の地となったカッシーノ攻防戦。守るドイツ
に良い様にあしらわれ、再三攻め寄せても全て撃退され、米英軍は『我々が攻撃出来ない
寺院に哨所をナチの野郎どもが作っている』という事で寺院を砲爆撃で粉砕しますが、ド
イツは『あんな目立つところに哨所つくるわけねえだろ』と後々言ったとか…。おまけに
自軍の略奪を防止するために衛兵を配置していたそうな。寺院は戦後再建されたが、寺院
や街にあった歴史遺産は当然粉々。さて、一番悪いのはだあれ?
※ 米英連合軍の質の低い兵員に助けられ、物量作戦に圧されまくりながら、対する
ドイツ軍は何重にも防禦線を構築して進撃を遅滞させたようです。その進撃速度は平均
一日1キロ。イタリアは南北に1200キロありますから、そのままいくと占領には3年半は
かかる計算に…敗戦が決定的になったこの時期にそういう戦い方が出来るのだから大した
ものです。
※ ところで第二次大戦は敵味方に関わらず誤爆や誤撃が多発した戦争でもありました。
督戦隊持っていたアカはともかく、錬度の低い兵員を大量動員した米英なんかが特にひどか
ったとか(日本もどうかわかりませんが…)。ロンドン上空は味方でも飛べない、間違って
自軍のポイントに攻撃依頼、市街戦で鉢合わせた味方同士が銃撃戦……笑えねえ。
※ソース一覧
↓Neu  Focken Wolf
http://www9.ocn.ne.jp/~umefwulf/
 ↓その中の イタリア戦線
 ttp://www9.ocn.ne.jp/~umefwulf/itaria.htm
とにかく日本語の資料が少ない……

↓根性ある人どうぞ THE ITALIAN CAMPAIGN OF WORLD WAR 2 / September 1943 - May 1945
ttp://members.aol.com/ItalyWW2/History.htm#Main%20Menu
 ↓グスタフラインの地図。
 ttp://members.aol.com/ItalyMap/MapGustav.jpg
参考:軍団…師団の親玉の編制単位。an army corps.
   師団…連隊あるいは旅団の上に位置して司令部をもつ。a division.
   旅団…連隊の上、師団の下の規模。a brigade.
   連隊…大隊の親玉。独立して一方面の戦争遂行能力を有する。a regiment.
   大隊…いくつかの中隊のかたまりの部隊。a battalion.
しまった…

連合軍が牽制上陸したのはサレルノではなくアンツィオだった。

しゃ(tbs

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