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第2173話
ab-pro
投稿日: 05/03/01 15:46:53 ID:AFloPqzb
基本OS「マーストリヒト」起動・・・・・・・OK
メモリーCheck・・・・・・・OK
「ユーロ・ネットワーク」接続・・・・・・・OK
EU ver20050220・・・・・・・起動
・・・そして、私は目覚めた
「やった!成功だ!!」
教室を揺るがすような歓声の中、車椅子に座った少女が静かに瞳を開きました。
美しい銀色の髪を腰まで伸ばし、両耳には飾りにしては大きすぎるような・・
・アンテナのような飾りを付け、陶磁器のように白い肌の少女の瞳が、赤く輝
きます。
放課後のクラブ活動、ユーロ町倶楽部。
車椅子の少女を取り巻くユーロ町の生徒達に混じっていたニホンちゃんが、感
極まって少女に声をかけます。
「わぁー!凄い、凄い。本当に貴女はロボットなの?!」
その言葉に、少女はぎこちなく首を動かしてニホンちゃんを直視します。
「いいえ。私・EUです。・・はい。私・ロボットです。・・プツン」
それだけ言葉にすると、まるで電気が切れたかのように動きが止まる少女。
思わず硬直してしまうニホンちゃんをはじめとする子供達に、教室の傍らでパ
ソコンと睨めっこしていたフラメンコ先生が声をかけました。
「変数定義エラー。「私」に対して矛盾する定義がされていて、エラーでシス
テムが落ちたみたいね」
先生の言葉に、少女を壊してしまったと思いこんで固まってしまったニホンち
ゃんを除いて、たちまちケンケンゴウゴウの議論の始まりです。
「だから、あれほど変数の定義はみんなの合意を得てから、と決めていたじゃ
ないか!」
「そんなことより兄上、エラー処理が問題だ。こんな事でシステムダウンして
いたら話にならない」
「誰ですの、こんな分かりにくいコードを書いているのわ!変数a.b.cと
か、何を定義しているか分からないじゃないですの!」
「何を怒っているんだい、ハニー。記述が楽で良いじゃないかぁ」
そんな騒動をよそに、固まったままのニホンちゃんの肩を叩くフラメンコ先生。
「・・・ああ、先生。でも凄いですね、ロボットなんて」
「ロボット、と言うより人工知能ね。私たちが作っているのわ。
なにせ、私の親の代から、ユーロ町の総力を注いで開発しているのですもの。
それがやっと完成しようとしているのよ」
「そんなに昔から・・・。いったい何のために?」
「第1世代のECSC、第二世代のEECとEURATOMの双子、第三世代
のECといったシステム達は、お買い物のやりとりや、従業員さんのお仕事をす
る上でのルールとか、ユーロ町内でのやりとりを管理するシステムだったの。
そしていよいよ完成しようとしているのが、第四世代のEU。ユーロ町の家々
のお商売だけでなく、防犯システムやその他諸々、処理できるものは全部処理し
てしまおうというのがコンセプトね。
・・もっとも、このEUに人格を与えようと言うのは遊びかもしれないけど」
微笑みながらプログラムの修正を始めた生徒達を見守るフラメンコ先生。
「おかけで、二足歩行とかの肢体制御方面はまだ先の話。当分車椅子のお世話
になりそうね」
「二足歩行なら、うちに詳しい人がいっぱいいますよ。お手伝いできるかも」
「・・・ありがとう。でもEUだけは私たちユーロ町の住人で完成させたいの。
完成したら、絶対にこのクラスに編入させて、みんなのクラスメイトにしてみ
せるわ。その時はニホンちゃんもEUのお友達になってあげてね」
「はい」
プログラムの修正も一段落して、ふと顔を上げたフランソワーズちゃんの視線
の先に、窓際で黄昏れているエリザベスちゃんの姿がありました。
その姿に何かを感じたのか、目尻をつり上げたフランソワーズちゃんがエリザ
ベスちゃんに詰め寄ります。
「まったくやる気が感じられませんわね、エリザベス。貴女でしょう、EUに
ロボットなんて定義付けしたのわ!」
「・・・あれがロボット以外のなんであると言うのかしら。第一、名前からし
てEUなのよ。・・・人間ではないわ」
「エリザベス!! EUは単なる開発コードネームですわよ。完成したら立派
な名前を名付けてあげれば良いでしょう。
・・・・まだ「曲がったバナナ」の事を怒っていらっしゃるの?」
「当たり前でしょう!!」
プイと顔を背けるエリザベス。
実は先日、EUの決済機能を試すために疑似貿易ゲームをEUネットワーク上
で行ったのですが、「曲がり過ぎたバナナを売ったらEUの規則違反で逮捕され
る」と言う珍妙なルールに引っかかったエリザベスちゃんは、ゲーム序盤で逮捕
されて成績が最下位でゲームを終えたのです。
貿易ゲームに絶対の自信を持っていて、いつものようにフランソワーズちゃん
と成績を競っていたエリザベスちゃんは相当に落ち込んだのでした。
しかし、なんだかんだ言っても付き合いの長いフランソワーズちゃんは、エリ
ザベスちゃんの今の態度の違和感を見逃しません。
「まったく『やる気が感じられません』わね、エリザベスにわ。まあ、確かに
この前は悪戯が過ぎたとはいえ、貴女がたかがゲームでそこまで根に持つはずあ
りませんものね」
そう言って小さく笑うフランソワーズちゃん。
「・・・・悪戯って、やっぱりあれは貴女の仕業でしたの!!」
クワッと柳眉を逆立て迫るエリザベスちゃんに、今度こそフランソワーズちゃ
んは本物の笑みを溢しました。
「それですは。それが本当に怒ったときの反応です。いじけたようにそっぽを
向くなんてらしくありませんわ。
・・・一体、EUの何が気に入りませんの?」
まっすぐに瞳を見つめられて、思わず言葉に詰まるエリザベス。どうやら答え
が返ってくるまでフランソワーズちゃんが解放してくれそうにないと悟ると、観
念したのか、ポツリポツリと話し始めました。
「EUは所詮人工知能ですわ・・・。そんなものに我が家の事を一切全て任せ
てしまって良いのかしら・・。貴女には抵抗、感じないのかしら?」
「・・・貴女って、やっぱり頑固者の石頭ですのね。EUに全てを任せてしま
えばユーロ町は更に豊かになれる。更に平和にもなれる。
それにもう、アメリー君の家やニホンちゃんの家やアジア町から、落日のユー
ロ町なんて陰口をたたかれずに済む。
それが分かっているから、貴女だってEUの開発に参加したのではなくて?」
「・・・分かっているわ。でも、だからといって納得することは出来ない。
私、どうしたらいいのかしら・・・・」
「・・・貴女って、本当に頑固者ですわね」
二人の少女が同時にため息をついていた頃。プログラムのコンパイルも終わり、
今はEUという名前で呼ばれる少女が、再び目覚めます。
「こんにちは、EU。私が誰だか分かる?」
「こんにちは、フラメンコ先生。はい、私、貴方を、知っている」
陶磁器のように美しい、芸術品のような表情を崩すことなく答えるEUを、フ
ラメンコ先生はまるで赤子を抱くように、優しく抱きしめました。
「貴女はこれから色々なことを学んで、早くこのクラスの一員になって。そう
なってくれたら、私は本当に嬉しい」
その先生の言葉に、EUの反応が一瞬だけ止まりました。
「『嬉しい』とは?」
今度は先生が首をひねる番です。
そんな先生に、アーリアちゃんが申し訳なさそうに口を開きます。
「先生。『嬉しい』という概念を、どうプログラム上で定義して良いか分から
なかったので・・・」
そう言われたフラメンコ先生も、答えを導き出そうとして失敗しました。
頭の中の辞書を引いてみても、嬉しいと言う単語の説明は、楽しい・喜ばしい
と言った単語を使って説明されていて、この単語の説明には嬉しいという単語が
これまた使われていたからです。
「大丈夫ですよ、先生。
EU、『嬉しい』を検索開始。自分で学習するんだ」
自信を持ってEUに命じるゲルマッハ君の言葉に、EUの赤い瞳が妖しく光り
ます。
「検索対象『嬉しい』。第一次検索結果、約 6,780,000。解析開始」
とたんに、EUの銀色の髪の毛が煌めき始めると、次第に波打つようにうごめ
き始めました。
「・・・いけない。兄上、過負荷で放熱が追いついていない!」
「ストップ、EU。緊急冷却開始。スリープモード」
「・・・強制コマンド確認。スリープモードに移行します」
それだけいうと、ゆっくりと瞳を閉じるEU。まるで眠りについたかのように
ボディーを車椅子に深く沈めました。
「まだ人格関連に関しては、プログラムは5%しか出来上がっていないのだか
ら。言葉をしゃべれるけど、EUはまだ赤ん坊と同じなのよ。
さあ、早くプログラムを完成させてしまいしましょう!
でも、今日の倶楽部はこれでお仕舞い。さあ、みんな気をつけて帰ってね」
「はーい!!」
こうして帰り支度を始める生徒達。そんな中で、フラメンコ先生はEUの銀色
の髪の毛をいとおしそうに撫でながら、優しく、眠っている機械の少女に語りか
けたのでした。
「貴女には、学習や解析するのではなくて、『嬉しさ』を体験して身につけて
ほしい。これからゆっくりと、私たちと一緒に体験していきましょう・・・」
閉ざされた外部感覚器官。
私は「眠り」につきながら、一部の機能を使って、解析を中断させられた『嬉
しい』の検索結果を見る。
抱き合う人と人。子供を抱く人。犬と歩く人。料理と人。エトセトラ。
・・・まだ意味は分からない。
でも、
私は『嬉しい』を知りたいと思った。
end
ついに作ってしまいました、メカっ娘^^;
名前はやっぱりユーロちゃんにでもなるのでしょうか^^
ソースはスペインの国民投票で、欧州で初めてEU憲章が承認されたこと、
プラス英国の事情です。
今回は非常に難産でした^^;
EU
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/yojin/arc_96/eu/eu_intro.html
イギリス&EU神話
http://ukmedia.exblog.jp/i14
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