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第2282話 青風: ◆BlueWmNwYU 投稿日: 2005/06/27(月) 10:23:10 ID:y/5Viw4n
「拝謁の間でしては成らないいくつかの事」

銅鑼の音と共にするするする、と御簾が上がります。
すると、大広間の奧に一段高く設えられた朱塗り螺鈿の大きな椅子に
いかにも支配者然として座る少年の姿が現れます。至高の冠を頂き
羅紗と錦の包に包まれたその威厳有る姿に一同思わずひれ伏し
静かに頭を垂れる、その筈であったのですが。

「オーイ香ぃ、酒が切れたぞ酒がぁ!」
「ヘイ、チューゴ。オマエ普段そんな派手なパジャマ着てるのかぁ?」
「まったく、モノを知らないにも呆れますわね。真のオリエンタルを知る者
 なら、お部屋のレイアウトにタタミとショージは必須ですのよ」
同級生達には彼の”威儀”なぞ通用するはずも無く、チューゴ君は
むすっとした顔で黙り込んでいます。騒々しい兄の同級生達に
もめげず、銅鑼係の香ちゃんが声を張り上げます。
「皆の者大儀であったアル。是より兄上のお選びになる鉄道模型なる
 物の選考を開始するアル。最初の奏上者、出よアル!」

 ごーん、という銅鑼の音と共に正面の観音開きの扉が開き、
ゲルマッハ君が台車に乗せた自分の鉄道模型と共に現れます。
「チューゴよ。是が我が哲学が生んだ傑作、ICEだ。
 速度は正直他の物に一歩譲る。が、しかし」
と、ここで模型の天上をかぱっと外し、
「見よ、この室内を。他の追従を許さないこの充実度、そして剛健さを。
 鉄道模型をその趣味に選ぶ者は大地に脚をつけし者。
 ならばこの充足をこそ選ぶべきなのだ!」
皆の視線の先にはゲルマッハ君らしい硬質でしかも精巧に組み上げられた
車体の中に並ぶ、ゆったりしたさわり心地の良さそうな、それでいて
シンプルで美しい配色のシートが並んでいました。
ギャラリーや香ちゃん、チューゴ君もその出来映えに目を見張ります。
「ゲルマッハよ見事アル。沙汰がある迄控えているが良いアル。
 次の奏上者、出よアル!」
香ちゃんの声に従い登場したのはフランソワーズちゃんです。
「チューゴさん。あなたのところのような無駄に広いお庭で遊ぶのなら、
 やっぱりスピードは大事ですわ」
と、云いつつ指し示す彼女の模型。おお、と観客からの反応も上々です。
「御覧あそばせ、このスタイル。機能と美しさを兼ね備えた
 私の自信作、その名もTGVと申しましてよ、おほほほほ」
「確かに仰るだけの事はありますわね」
観客として見守っていたエリザベスちゃんも思わず呟きました。
是にはチューゴ君も香ちゃんも感心した様子です。

「これも見事な出来アル。では最後の奏上者、出よアル!」
登場したのはニホンちゃんです。生欠伸をしながらごろごろと台車に
乗せてきたのは、上半分が青く塗られた見慣れない形の模型です。
「あはは、今朝完成した新型だよチューゴ君。これさっきテストしたら」
と、云いつつ手元のリモコンのスイッチをいれると、
ふぃーん、という音と共に目にも止まらぬ速度で模型が走り廻ります。
「ほら、フランソワーズちゃんのTGVより早かったんだよ、でねぇ」
と、云いつつ別のボタンを押すと、ぽん、と云う音と共に模型から
猫のような”耳”が生えてしゅるしゅると云う音共に停止しました。
「えへへ、耳、カワイイでしょう?顔が寂しいんでつい付けちゃった」

 みんなは暫く呆然とし、それから騒然とし始めました。
「なんと云う事ですの。私のTGVより早い模型が存在するなんて」
「そう、是が最新のオリエンタルテイスト、MOEですのね」
「ヘイ、やるじゃないか。でも其処までするなら羽根を突けて飛ばせよ」
「もう、無神経な方ですわね。地上を走る、是こそが美学ですのよ」
「酒、酒だぁ。酒もってこーい!」
 ごーん、ごーん、ごーん、ごーんんん・・・
狂ったように打ち鳴らされる銅鑼の音。
「ニホンさん!お兄さまに拝謁中に何という不埒な真似をするアルか?
 懲罰としてニホンさんの模型は審査の対象から外すアル!」
そして、と言葉を続けようとする香ちゃんを待たずに
欠伸をしながらくるりと背中を向けるニホンちゃんです。
「ふあぁ、じゃ帰るわ。調子に乗って改造して、お陰で寝不足なのよ。
 ん、じゃあね。これタイワンちゃんに見せに行く約束してるし」
そのまま台車に自分の模型を積んでがらがらと押しながら退出します。
あ、あの、と声を掛けそびれる香ちゃんを後目に扉は閉まりました。
「はぁーあ。なかなか面白かったぜ。でも飛行機だろ、男は」
「わははは、旨い酒ありがとよぉ。で、今日って何の宴会だっけか?」
「次はきちんとタタミを敷いて於いて下さいまし?」
ニホンちゃんの退出をきっかけに、みんな勝手な事を云いながら
ぞろぞろと引き上げ始めました。

 そして、謁見の間に残されるチューゴ君と香ちゃんの二人。
同級生を集めて威厳を見せ、日頃ナイガシロにされがちな支配者の
威儀を再確立させようというチューゴ君の目論見は見事に挫折した
ようです。そして更に台無しにしたものがもう一つ。
「お兄さま!ああ云えばニホンさんが取引きに本気になるって
仰ってましたわよね?どうして頂けますの、私あの猫の模型気に入って
おりましたのにぃ!」
そう、台無しになったのはチューゴ君の兄としての威厳でした。

解説 青風: ◆BlueWmNwYU 投稿日: 2005/06/27(月) 10:50:09 ID:y/5Viw4n
さぁ、解説をしなくては

どうも。
今回は新幹線”猫耳モード”のネタ、だけでは芸がないので
(何しろ後発なので、ネタの完全なかぶりを避ける意味でも)
リアルチューゴ家の高速鉄道網のコンサル業務を日ノ本家
が落札できなかった、というのを絡めてみますた。
リアルアサヒちゃん的にはニホンちゃんの態度に原因がある、らしいです。

ttp://www.asahi.com/business/update/0622/104.html
私的には良いニュースなんですけど。
でも、まだチューゴ家は新幹線を諦めてはいないようです、
負けるな、日ノ本家(w

さて、◆JOCEixq6zUさま。
どうでしょう、ご依頼通りに同じネタでやってみましたが、
何かの参考になりましたか?


と、云いつつ
実は久々にイベントネタを書いてみたかっただけだったりして。
ん、じゃ ノシ

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