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第2299話
ab-pro
投稿日: 2005/07/12(火) 00:03:55 ID:EYLV0Iu5
カンカンと照る日差しの下で、一台のマウンテンサイクルが砂地の大地
を駆け抜ける。
マウンテンサイクルを駆るライダーのゴーグル付きヘルメットからこぼ
れ落ちる艶やかな黒髪。
今日はバリダカレースの日。毎年アフリカ町で開催される、灼熱の砂漠
を自転車で駆け抜ける過酷なレースに、今年もニホンちゃんもご自慢の日
の丸号でチャレンジしているのでした。
何もない広大な砂漠の中を地図を頼りにゴールまでまっしぐら。当然、
コースも決められていないため、他の参加者とも大きく離れ一人疾走する
ニホンちゃん。これでもニホンちゃんは毎回優勝を競う強豪選手なのでし
た。
さて、今年も優勝を狙って先を急いでいたニホンちゃんですが、そこに
慢心があったのかもしれません。
一つの砂丘を気持ちよくジャンプしたその先に待ちかまえていたのは、
砂丘の陰に隠れていた大きな岩でした。
「きゃー!!」
物凄い悲鳴と、それに続く衝突音。
ニホンちゃんが次に気が付いたとき、彼女の体は柔らかい砂地の上に投げ
出されていました。
レース!
と、慌てて立ち上がろうとした瞬間、ニホンちゃんの右足に激痛が走りす。
見てみれば、右足首がみるみる腫れ上がって行くではありませんか!
どうやら大地に激突したときに、右足首を挫いてしまったのでしょう。足
を取られる砂地の中を歩くのは到底無理です。
そして、痛みに顔を歪めながら辺りを見回した彼女の視界に飛び込んでき
たのは、大岩と正面衝突した結果、無惨にスクラップと化した日の丸号の姿
でした。
ひしゃげたフレームに描かれた日の丸が、可哀想に歪められています。
灼熱の砂漠で、独り、動く事も出来ずにうずくまる彼女。
「・・・誰か、た、助けて!!」
人影さえない砂漠の真ん中で、ニホンちゃんの声が虚しく響き渡りました。
しかしです。
涙で霞むニホンちゃんの視界の中に、遠くからこちらを目指してくる芥子
粒のような黒い影が現れたではありませんか。
懸命に助けを求めるニホンちゃん。
やがて彼女の元に現れたのは、荷物を満載したラクダを引く、ウヨ君ぐら
いの年頃の、黒い肌をした男の子でした。
(でも、ウヨの同級生の顔を思い浮かべても、この男の子には思い至りま
せん)
さて、どうやらこの男の子は何か家のお手伝いの途中だったのでしょう。
助けを求めるニホンちゃんに、自分の仕事をどうしようか、と、ちょっと
困ったように肩をすくめまてみせる男の子。
でも、それも男の子がスクラップと化した日の丸号を見るまでの事でした。
どうした訳か、突然慌てだした男の子は、すぐにラクダに積んでいた水筒
をニホンちゃんに与えると、待ってて、と言い残して急いでもと来た道を駆
け戻っていってしまいました。
何がどうなったのか分からず、呆然とその男の子を見送るニホンちゃん。
そして、大勢の黒い肌の大人達がニホンちゃんの元に駆けつけたのは、そ
れから暫くしてからの事でした。
「助けてくれてありがとうございます」
深々とお礼を述べるニホンちゃん。
ここは、ニホンちゃんを助けてくれた人たちの家。それこそ家の人総出で
事故現場にやった来た彼等は、本当に丁寧にニホンちゃんをここまで運んで
きてくれたのでした。
日干し煉瓦で作られた砂漠の真ん中に建つ家の中は、意外とすごしやすい
快適な空間です。
「なに、日ノ本家のお嬢さん。礼には及ばんよ。
これは日ノ本家に対するせめてもの恩返しじゃて。不謹慎かもしれんが、
お嬢さんが怪我をしてくれたおかげて、やっと少しなりとも恩を返せたとい
うものじゃ」
そう言って、ニホンちゃんの怪我の手当をしてくれたお爺ちゃんは、逆に
ニホンちゃんに感謝する始末で、こんな厚遇に、ニホンちゃんも訳も分から
ず曖昧に頷くしかありません。
「さて、そろそろ日ノ本家に魚を売りに行く船が家から出る時間じゃて。
その船で送ってあげましょう」
そう言うと、またニホンちゃんをお姫様だっこするお爺さん。
玄関を出ると、家の前には広がるのは、大きな大西洋池。
そして、その池の畔の桟橋でに係留されている、ちょっと立派な漁船を見
た時、ニホンちゃんは自分がどうしてこんなに親切にされているのか、よう
やく分かったのでした。
その漁船の船体に大きく描かれている、この家のマークと隣り合うように
描かれた、これまた大きな日の丸の姿。
その船の処まで来ると、あの男の子が、顔をクシャクシャにするほどの笑
顔でニホンちゃんを待ちかまえていました。
「お姉ちゃん、ありがとう。
お姉ちゃんの家が、僕の父ちゃんにこんな立派な船をくれたおかげで、魚
が一杯捕れるようになったんだ。それでもうすぐ僕も小学校に行けるように
なるんだ!
本当にありがとう!!」
この近辺では、まだ貧しさのため学校に行けない子供達がいる事を思い出
して、ニホンちゃんは目頭が熱くなるのを堪えながら、命の恩人の男の子に
お礼を述べます。
「いえ、お礼を言うのは私の方。本当にありがとう。
私は日ノ本サクラ。君が学校に来るのを本当に楽しみに待っているね」
「うん!
僕はモーリ。僕もお姉さんと学校で会えるのを楽しみにしてるよ!」
こうして、モーリ君のお父さんが操る船の船上の人となったニホンちゃん。
ニホンちゃんはいつまでもいつまでも、視界の中で小さくなっていく、桟
橋の上で手を振り続ける男の子に向かって、お返しにとばかりに思いっきり
手を振り返し続けたのでした。
end
ニュースソースは
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/nyumon/episode/story/africa/other1.html
モーリタニアは
http://www.mauritania-jp.com/
恥ずかしながらモーリタニアという国の存在をまったく知りませんでした。
現在の処、世界の最貧国と言う事ですが、去年暮れに石油が見つかったと
の事で、もうじきモーリ君も小学校に入学できる事でしょう。
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