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第24話 喪神の森 ◆G.pq.HHI 投稿日: 2004/06/13(日) 22:00 ID:65yiSg4Y
弓道家ニホンちゃんの欧州紀行
   序章
 みなさんは和弓をご存知でしょうか?
 弓の長さ*a"2m以上"と世界最大、扱いの難しさも世界有数。
 普通に*b"引ける"ようになるまでに*c"4ヶ月"を要する、なかなか難儀な弓ですが、
今、欧州では静かな和弓ブームが起きています。

1章「ニホンちゃん欧州へ」
     1/4
五月、緑が色づく梅雨の前触れ。
板張りの弓道場を吹き抜ける柔らかな風は、*d"矢道"に敷き詰められた芝生から
緑の香りを運びます。
そんな中、ニホンちゃんは道衣に袴という出で立ちで、*e"的"に向かって弓を引いていました。
鉢巻をして、いつもよりずっと厳しい表情をしたニホンちゃんは、
一つ一つの動作を確かめるようにして弓を引きます。
白い道衣、白木弓、白箭の白羽に、白の*f"ユガケ"と、白で統一されたその姿と、
優雅な動作は、まさに呼吸する芸術品と言うべきでしょう。
流れるような動作で弓から放たれた矢は、的に吸い込まれるように突き立ちました。
流石に*g"範士八段"。
たまたま同じ時間に弓を引きにきた、同じく範士八段のウヨ君も、ニホンちゃんに
声をかけることができずに立ちすくんでいました。
「うぅー、いまいち。なにがまずいのかな?」
的のほぼ真中に*h"中てた"にもかかわらず、ニホンちゃんは不満そうです。
 2/4
「綺麗な良い射だと思う。*I"武射"の俺には、ちょっと綺麗過ぎるように見えるけどね」
と、声をかけるウヨ君。
その唐突な言葉に「み、見てたの?」と恥ずかしそうに言いつつも、
ウヨ君の持って回った賛辞に、嬉しそうに、ふにゃぁと表情を緩めるニホンちゃん。
「これなら、みんなに喜んで貰えるかなぁ?」
「ああ、そういえば明日から欧州組みの皆に弓道の指導に行くって言ってたっけ」
ウヨ君は*j"弓に弦を張り、弦通り"を見ながら答えました。
「そう、みんなの射形を見るのが楽しみだなぁ」
「まあ、浮かれて*k"皆落"(かいらく)なんてみっともないまねしないようにね」
「もう、変な重圧かけないでよ!」
 ぽかぽかとウヨ君を叩くニホンちゃん。
 進んでいるのに止まっているように見える穏やかな時間を、五月の風か吹き抜けていきました。
 3/4
「ちょっと待つニダ!」
 ほのぼの語らう姉弟の前に、突如現れたカンコ君。
「和弓は韓弓の朴李ニダ!欧州に指導に行くならウリも連れて行くニダ!」
 いつもの戯言と共にニホンちゃんに詰め寄ります。
「え、え?で、でも」
 言いよどむニホンちゃんを、ウヨ君が制して、カンコ君にグラスファイバー弓を押し付けました。
「な、何ニダ。う、ウリに脅迫は通じないニダ」
「この弓をまともに引けたら、連れてってやるよ。簡単だろ?」
 ウヨ君の言葉に、あたふた慌てるニホンちゃん。
そもそもウヨ君は今回の欧州旅行には参加しないのです。
 おろおろと、まごつくニホンちゃん。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 ニホンちゃんは落ち着くためにか、抹茶を立て始めました。
「中村屋の羊羹はおいしいなあ」
 ニホンちゃんは現実逃避を決め込むことにしたようです。
 4/4
 一方、ウヨ君に弓を突きつけられたカンコ君。
「あ、当たり前ニダ。韓弓20段のウリにとっては楽勝ニダ」
 カンコ君はウヨ君から奪うようにして弓を受け取ります。
 弦に手をかけ懸命に引っ張りますが、なかなか引けません。
「どうした引けないのか?それは姉さんが弓道始めた時に使ってた*l"弱い"弓だぞ?」
「そそそそんなわけないニダ。ちょっと弓を試していただけニダ」
 カンコ君は唐辛子のように真っ赤に顔を染めて、弦を引きます。
 大粒の汗が額に浮べつつ、ようやく矢をつがえ、矢を飛ばそうと弦から手を離します。
 ばちーーーーーん。
 小気味良い音がして、ポトリと、カンコ君の足元に矢が落ちます。
「きょ、今日はこれぐらいで勘弁しといてやるニダ!」
 カンコ君は真っ赤に腫れた頬を抑えつつ、逃げ帰りました。
「アイゴー!殴ったな、親にもぶたれ(ry」と、いう台詞が聞こえた人には聞こえたかも知れません。
「ところで何をやってるんだ?姉さん」
「あ、武。中村屋の羊羹食べる?」
  END 
 二章「ニホンちゃんの欧州旅行ドイツ偏」
 三章「同上 イタリア偏」
 四章「モテモテ?ニホンちゃん」の予定。

解説 喪神の森 ◆G.pq.HHI 投稿日: 2004/06/13(日) 22:02 ID:65yiSg4Y
注釈の説明
*a 弓の長さについて補足
七尺三寸(2m21cm)「並鉾(なみほこ)」
七尺四寸(2m24cm)の「伸(のび)」や、
七尺五寸(2m27cm)の「二寸伸(にすんのび)」
某HP作者によると「四寸伸」(2m33cm )まで見たことがあるとか。

*b 引く(弯くと記載のHPあり漏れには読めない)
弓を打つというと、弓を作るということになる。
以下、某HPコピペ。
◎:弓を引く ← 弓に矢をつがえて射るコト。
○:弓を射る、撃つ← 間違いではないです。ただし、弓道では「弓を引く」という言葉の方が美しいとされます。何故なら弓道とは矢を射ることが目的ではなく、弓を引くことの結果によって的を射貫くことになるからです。
×:弓を打つ ← 弓道の専門用語で「弓を作る」と言う意味。

*c 大学から弓道をはじめた某HPの製作者は、的前に立つまで4ヶ月を要したというので4ヶ月にした。平均は不明。
ちなみに、第一段階 徒手 第二段階 ゴム弓 第三段階 素弯 第四段階 巻藁
第五段階 的前 となる。

*d矢道(やみち)……射場と安土(あづち)の間の、芝の部分。矢が飛んでいく空間。
ついでに安土とは的を置くところ。土でできていて、適度な湿りが必要。

*e的
的は直径36cm(近的)のものか、直径1m58cm(遠的)のものが主に用いられています。それ以外にもたくさん種類がある。

*fユガケ(弓掛け)カケ(?は弓へんに葉の草冠抜き←これも?になる)
 某HPコピペ
 右手にはめる、グローブのようなもので鹿皮でできています。<補足、鰐皮を控え部分にあしらった三ツカケもあった>
 親指の付け根のところに「弦枕(つるまくら)」という溝があり、
 そこに弦(つる)を引っ掛けて、弓を引きます。
 弓は、右手で弦を"ぎゅぅ"っと握って引いていると思われがちですが実は握っているのではなく、この溝に弦を引っ掛けて引きます。(この溝がまた浅くてなだらか!・・に見えて仕方ない。(^-^A;)
 親指は曲げずに引きます。
 もちろん、そんなことを素手でやったら痛いので、親指のところには木が入っており堅くなっています。
 叩けばコンコンといぃ音がしますが、楽器ではないので音を鳴らして遊ぶのはやめときましょう。
    

*g範士八段
下記、某HPより抜粋。
段位 資格
九段 範士
八段 範士
七段 教士
六段 錬士
五段 錬士
四段  
参段
弐段
初段
1級
2級

昇段審査は「級」から始まり「九段」まである。級位は普通高校生以下が取るもので社会人・学生は初段より出発することになる。高校生ならばいざ知らず、社会人・学生ならばよっぽどのことがない限り弐段まではスムーズに取れるはず。試験は実技と筆記の2種類あるが筆記試験はほぼ弓道教本一巻よりの出題なのでよく読めば間違えることはない。但し、よく読めば、である。実技試験は一人一手(二本)を的前で打って行われる。県によって違いはあるが参段以上になると必ず二本のうち一本は中てておかないとまず昇段できない。因みに段位とは別に資格というものがある。この資格にも当然審査があるのだが、これをもらうと「先生」と呼ばれるものになるのだ。
 <補足>最高位は範士十段?

*h中てた 当てたは弓道では使わない。

*i武射
 弓道には大きくわけて、2つの流派があります。いわゆる「武射系」の流れをくむものと、「礼射系」の流れをくむものの2つです。
武射系では日置流、礼射系では小笠原流が有名です。
武射系は、弓矢を武器として使っていた時代の、実践的な射法を色濃く残している流派、
礼射系は武器としてよりも、礼節や精神的な部分を重視して研究されてきた流派    といえるのではないでしょうか。
武射系と礼射系では、引き方で「斜面打起こし」と「正面打起こし」に分けることもできます。
よく言われるのが武射系には"斜面"が多く、礼射系には"正面"が多いということ。
 ただこれは一概には言えず、日置流から派生した本多流は、武射系ですが正面に打ち起こします。

*j ウヨ君は自分が使う弓を用意しているのです。竹弓でも何でも弓は使うときにしか弦を張りません。
「竹弓の日常的に行う取り扱い方」纏め
 普段弓道場に行って弓を引く場合の日常的に行う竹弓の取り扱い方。

道場に到着したならば、
1)何を置いても、先ず弓の弦を張ります。
2)上弭にかかっている弦輪の位置を確認して、弦通りを見ます。
  弦通りが悪い方に移行して来る傾向を感じれば、矯正の必要有と感じて下さい。
3)張り顔を確かめます。
4)張り顔に変化を見つけた場合には、強い場所を押して張り顔を直します。
(弓の形を修正するのは、弦を張った直後が最も良く利くのであって、使用した
 後では、効果が無いものであるとされています)
2)竹弓の竹の部分(外竹、内竹、共に)を日本手拭いで満遍なく熱を帯びる程に
  弓を摩擦します。(私は、往復20回程度摩擦しています)
3)時計を見て、弦を張った時刻を確認しておきます。
4)たっぷり30分間、弓の竹が収まるまで待ちます。
  この間に、肩入れ、または、巻藁、などの弓を引く行為はしないで下さい。
  |弓が収まるまでの間に、アヅチの整備、アヅチの水やり、的懸け、などを
  |行っていれば、30分位いの時間は充分経過します。
  |弓道着に着替えます。
|弦の中仕掛けを調べておきます。
  |既にアヅチ整備が完了されている場合には、弓書でも紐解いて研究するの
  |も良いのでは無いでしょうか。

5)30分経過後に、再度、日本手拭いで弓を摩擦します。
6) その後に、肩入れ、巻藁、を数本引いてから、的に向かってください。

*k 皆落(かいらく)
矢が一本も中たらないのを皆落(かいらく)という。

*l"弱い"弓。強い弱いで弓力を表す。
10kg前後から20数kgまで色々。


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