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第30話 D-13 投稿日: 2003/02/12(水) 00:13
【アフガンちゃん宅取材記(1/4)】
 これはアフガンちゃんちの裏庭に、まだ巨大石像があった頃のお話です。
 
「道なき道を進み、見渡す限り岩だらけの荒野を越え、遂に取材班は神秘のベールに包まれたアフガンちゃんの家にたどり着いたのです…」
 よろよろと杖をつきながらも、気丈にカメラを構えるアサヒちゃん。アサヒちゃんは砂埃にまみれ、ぜはぜはと肩で息をしています。リュックサックの一部は破れて、半分くらい中身が無くなってしまったようです。
「もう、アサヒちゃんたら大げさなんだから…」
 アフガンちゃんに平然としていますが、アサヒちゃんは既にヘロヘロです。それも仕方がありません。アフガンちゃんちは結構高い丘の上にあるので、登っていくのも一苦労です。この辺りはニホン家の地所で一番高い富士の丘なみの高さはあるのでした。
「あなた、頑丈ねぇ…」
「そう? 毎日通るけどへっちゃらだよ?」
「…Σ(゚O゚ ) …毎日あんな野良犬の群と戦ってるの?」
 この辺りには徒党を組んだ野良犬が住み着いて、物騒になってしまっています。途中の獣道では二人は野良犬の群に囲まれてしまいました。アフガンちゃんが石を投げて追い払ったのですが、逃げ惑っていたアサヒちゃんはリュックサックを喰い破られてしまいまったのでした。
「あははは、もう慣れちゃった。」
 ぺろ、っと舌を出したりしています。『末恐ろしい娘だねぇ』と、アサヒちゃんは鼻歌を歌って散歩気分のアフガンちゃんを眺めます。
 裏庭に回って暫く進むと、アフガンちゃんは足を止め、岩肌を指差しました。
「ほら、あれがアサヒちゃんが見たいって言ってた…」
「をぉおおぅ! アレが、イン堂君のご先祖で、大哲学者のシッダールタさんの像! 大昔にアテネちゃんちの石像製作技法を取り入れて作られ、チューゴさんのご先祖で哲学者にして大冒険家のサンゾーさんも見学したと言う、悠久の巨大石像!」
 あちこち壊れかけていますが、アサヒちゃんはその威容に目を見張ります。
「取材! 取材よ!!」
 スイッチが入ったアサヒちゃんは杖を放り出すと、砂塵を巻き上げて砂利道を駆け出しました。
「…うわ、『元気が出る薬』でも吸ったみたい…」
 その取材根性にアフガンちゃんもびっくりです。
【アフガンちゃん宅取材記(2/4)】
 アサヒちゃんはフィルムとバッテリーが尽きるまで石像をカメラに収めていきました。ただ、記録媒体のストックと共にアサヒちゃんのスイッチも切れてしまったようです。
「大丈夫、アサヒちゃん?」
「…あぅあぅ…報道の真実は…」
 本格的にグロッキーになったアサヒちゃんはアフガンちゃんの肩を借りて裏庭を後にしました。
 その日は是非に、とアフガンちゃんに誘われてその晩をご馳走になる事になりました。アフガンちゃんちは結構な大家族で、そんな皆さんが家族が総出でもてなしてくれました。
 『あれ?案外贅沢なんだ』
 肉料理や野菜を豊富に使った料理が次々と運ばれてきます。アフガンちゃんの家はロシアノビッチ君の家と喧嘩が始まって以来、貧乏のずんどこで酷い目に遭ってるという話でした。ロシアノビッチ君の家との喧嘩が両者痛み分けに終わったものの、近所に住み着いた野良犬の群が悪さを働くので、今でも訪れる人の足もめっきり減ったままです。
 正直、アサヒちゃんはアフガンちゃん家の料理に期待していなかったのですが、いい意味で裏切られました。芳しい香辛料が食欲をそそります。
「さぁ、召し上がれ。」
「頂きまぁす。ん、これイケる!」
 パキスちゃんやイン堂君ちの料理みたいに辛いかな、と思っていたがそれ程でもありません。わりとあっさり味です。
「これも、これも☆」
 アサヒちゃんは次々と料理を平らげていきます。その健啖ぶり、アフガンちゃんもにこにこと給仕してくれました。
 ふと、部屋の隅のほうで指をくわえて見ている小さな子がいました。客間は煌びやかな絨毯や壁掛けで飾られていると言うのに、それらと比べると、その子の服はにずいぶん粗末です。
 やっぱり生活が苦しいのは本当なのです。それでも精一杯のもてなしをしてくれているアフガンちゃん達に改めて感謝の気持ちで一杯になりました。
「ぼうやも、こっちにおいでよ」
 男の子はちょっとためらった後、てくてくとやってきた。
 アフガンちゃんの母さんはちょっと眉をひそめました。お客さんの手前、あまりみっともない姿は見せたくなかったのです。でもアサヒちゃんとは別段気にしている風でもないので、ほっとしました。
【アフガンちゃん宅取材記(3/4)】
 たっぷり砂糖の入ったチャイ(お茶)を頂いて、アサヒちゃんはまったりとしています。さっきの男の子ともすっかり打ち解けました。
「ぼうやはいつも何して遊んでいるの?」
「戦争ごっこ☆」
 バーン、と銀玉鉄砲を撃つ真似をしています。おいおい、と心の中で突っ込みを入れるアサヒちゃん。子供が荒むのは環境の所為よね、とか頭の中で記事の草案を練ります。
 ふと、男の子が持っている銀球鉄砲に目がつきました。なんと、そこには『作:ニホン』と刻まれているではありませんか!
「ニ、ニホンちゃんたら、銀球鉄砲は危ないから他所の子に譲っちゃダメって、あれほどきつくいい聞かしていたのに!」
「アサヒちゃん、どうしたの?」
「こうしちゃいられないわ! じゃぁね、アフガンちゃん、小母さん、チャイもお料理もおいしかったわ!」
「え?もう帰っちゃうの?」
 アサヒちゃんはアフガンちゃんへの挨拶もそぞろに、ずんずんと岩だらけの道を駆け下ります。
「アサヒちゃん、あぶな…」
 道行く人を待ち構えていた野良犬が、アサヒちゃんに群がりました。
「ち ぇ す と ぉ お !!」
 アサヒちゃんの前蹴りが炸裂! キャィン、とか情けない悲鳴をあげて哀れな野良犬は吹っ飛びました。スイッチが入ったアサヒちゃんに敵はありません。
「私の真実を報道するのを邪魔をする奴ぁ容赦しないわよぉおおお!」
【アフガンちゃん宅取材記(4/4)】
 翌日。
「にぃぃほぉぉぉおんんちゃぁぁあああぁんん!!」
 5年地球組の扉を蹴破り、嵐のようにアサヒちゃんが現れました。
「こここれ、コレどういうこと!?」
 といって、一枚の写真を見せます。
「ほえ? 銀球鉄砲だね。」
「ここ!『作:ニホン』ってどういうこと!? 危ない玩具は誰にも譲っちゃダメってあんなに約束したのに!さてはあなた、昔アジア町の皆さんにご迷惑かけた事をぜんっぜん反省していないのね!?」
 早口でまくしたてるアサヒちゃん。一方のニホンちゃんは訳が分かりません。そこに、暴れだしかねないアサヒちゃんをアフガンちゃんが取り押さえます。
「止めて! アサヒちゃん!」
「放しなさい、アフガンちゃん! そもそもアナタ達も、どうやって ニホンちゃんからあんな危ない玩具を手に入れたの!?」
「それ、ウチの子が自分で銀球鉄砲に刻んだのよ。」
「…え?…」
「ニホンちゃんちの玩具はよく出来てるじゃない? だからそれにあやかろうしたのね。」
 アサヒちゃんは口をパクパクしてしています。
「何だか迷惑をかけちゃったみたいでごめんなさい。悪気はないの。」
 とアフガンちゃんはぺコリとニホンちゃんに謝りました。
「ふ、ふふんだ! 覚えてらっしゃい!」
 訳のわからない捨て台詞を残すと、アサヒちゃんは再び疾風となって姿を消しました。
「…一体…何?…」
 結局、ニホンちゃんは何が起きていたのか分かりませんでした。ただ、今度のアサヒちゃんの学級新聞にはイヤな事が書かれていそうだな、と憂鬱な気分になりました。
 それでも律儀に、壁に張り出された学級新聞を見に行くニホンちゃん。重い気分で張り紙を見たニホンちゃんでしたが、意外な事に内容は全く普通でした。巨大なシッダールタさんの像の記事に始まり、アフガンちゃんちの美味しい家庭料理の事で締めくくられています。そしてアフガンちゃん宅周辺の野良犬の駆除に募金を呼びかけていました。
「へぇ、あいつの割にはいい記事じゃないか。」
 ニホンちゃんが心配でついてきたウヨ君も感心しています。
 ちょっと気になったのは、新聞の下の方の2割くらいが墨で塗り潰されていた事です。『危ない玩具を他所の子に持たせたニホンは反省汁』とか勘違いが書かれていたのかもしれません。さっきのアサヒちゃんの剣幕を思い出し、苦笑いを浮かべるニホンちゃんでした。

 --おしまい--

解説 D-13 投稿日: 2003/02/12(水) 00:16
【アフガンちゃん宅取材記(あとがき)】

 はじめまして。D-13と申すものです。初めて投稿いたします。
 この話にハッキリしたソースはありませんm(__)m。

・『作:ニホン』と刻まれた銀球鉄砲
 だいぶ前に見たテレビ番組、おそらくテレビ朝日のニュースステーションだったと思うのですが(だからアサヒちゃんを主人公に据えた訳で)、バーミヤンの取材で地元の銃器店の人がゲンかつぎで「MADE IN JAPAN」と銃に刻んでいたシーンがありました。テレビ朝日が日本は銃器を輸出していたと勘違いした、という訳ではありません。アサヒちゃんの学級新聞の内容は私の創作です(^^;。

・アフガニスタンの料理
 どんなものか全く知らないのですが、『日本人好みの味だと思います。』とか紹介されていたページを見かけました。
 ttp://lil.cool.ne.jp/tiger/new/new0202.html

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