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第37話
あさぎり ◆aKOSQONw
投稿日: 2004/12/08(水) 01:26
『すばる』
目を閉じて、私は瞼の裏を追いかける。
暗闇の中、見えないものを追いかける。
凍てつく風に耐え切れず見た風景。見えるものはおぼろげで、
急に不安になって背後を振り返る。
そこには見守ってくれる人もなく、ごうごうと風が吹きすさぶ。
頬にじんわりと広がる冷たさに、訪れる季節を自覚する。
ああ、また笑いが凍りつく季節が来た。
どうしてこういう時は、一人で歩かなければいけないんだろうか。
ずり落ちたマフラーを元に戻し、思う。
風の音に怯えて、すんでのところで涙を堪える。
頼りにしている人々の顔がよぎる。けれども頭の中では前に進むんだ進むんだと声が響く。
聞きたかった言葉は迂闊さの中に沈んで、後悔だけが胸を締め付ける。
歪んだ笑顔の向こうにあるものを、私は今でも探し続ける。
今の思いを一番伝えたかったのだと信じて、私は家路を急ぐ。
アスファルトを叩く靴音は、いつの間にか雪を踏みしめる音になった。
音の消えた世界は、自分の歩く先が正しいのか不安にさせる。
誰かが私の後ろをついてきている気がする。でも振り返っても誰もいない。
不思議なことに、何だか嫌な気持ちではなかった。
それはたぶん、きっとみんな歩いているこの道が不安なのだと思っているからだった。
私は、歩き続ける。帰る場所はそこに在るから。
そう、みんな怖いんだよ。大丈夫、私がそこにいると思うから。
ぼうっと浮かぶ灯りが見えたとき、私はいつものように元気に言うだろう。
ただいま。と。
了
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