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第1106話
Unknown_J
投稿日: 02/07/11 08:41 ID:jZQJhWRw
「夏が来れば思い出す、遥かな海に消えた命」
その3.
臨湖学校の夜
満天の星空にミルキーウェイの帯がくっきりと光る
夜のこと、シュッ、シュッ、風を切る音が響きます。
どうやら、リュウ君が練習をしているようです。
「あら、リュウ君。精が出るのね」
「あ、ハプスブルグ先生・・・」
ハプスブルグ先生は、備え付けの浴衣を見事なボディ
ラインを見せ付けてしまうような着こなしで、リュウ
君は目のやり場にも困っています。
胸の膨らみや襟元の広がりが、小学生にも目の毒みた
いな主張をしています。
「見ててもいいかしら」
「え、どうぞ・・・」
ちょっとドキドキしながら練習を始めるリュウ君。基
本の型練習を延々と繰り返しています。
「綺麗ねぇ・・・」
「え、」
おもわず、つぶやいてしまったハプスブルク先生の言
葉に、リュウ君の動きが止まります。
「あ、ごめんなさい」
「いえ、綺麗って言われたのは初めてでしたから」
「そうなの、綺麗じゃない」
「綺麗なのは先生の方じゃないですか」
「あら、マカローニ君みたいね」
「そんな・・・僕は本当に・・・」
「嬉しいわ、リュウ君。ありがとう」
「え・・・」
顔が真っ赤に染まってしまうリュウ君。
(続き・・・)
「そういえば、リュウ君は運動部とか入って無いわよ
ね」
「はい・・・」
「空手部とかには入らないの?」
「格闘系の部活は駄目です」
「なんで」
「相手を殴ったりしちゃうじゃないですか」
「え、そりゃ試合とかがあれば」
「でも、駄目なんです」
「そっかぁ、リュウ君は優しいものね」
「そうでも無いです」
「あら、そうなの」
「それに、たいていは反則負けになるから試合に出ても
意味が無いんです」
「あら、そうなんだ」
今の試合は、実戦やルール無しと書いてあっても、
一対一だし、マットがフカフカだっ
たり、武器が使えなかったり、禁止攻撃や使っては
いけない技もたくさんあります。
「それに、オジィに言われたんです・・・
本当に戦わなければならない時には、躊躇無く戦え。
オジィは、アーリアやゲルマッハのパパやマカロー
ニのパパと戦って戦って、ニッティジィやキッチョ
ムパパとも戦って、ようやくアメリー家の居候とし
て認められたんだって言ってました」
リュウジィは、戦って戦って、戦い抜いて、初めて
アメリーパパに言われた言葉(「君たちは敵と戦った
だけでなく、人種差別とも戦った。そして、勝ったの
だ」トルーマンパパ)
(続き2・・・)
「ごめんなさい、私には想像できないわ」
「僕もできません。でも、オジィは後悔しない。後悔
するような戦いならしてはならない。そう教えてく
れたんです。 それに、先生」
「なに・・・」
「エーデルワイスの歌が好きなんです。良くオジィが
歌ってくれました。どんな歌よりも戦が嫌になる歌
だって」
「え、それは・・・」
ハプスブルグ先生の家でみんなが知っている、家が崩
壊し、ナチ会に併合されるとき、脱出した家族の物語。
かつての栄枯盛衰、その最後を飾った歴史の一ページ。
ハプスブルグ先生の目に涙が浮かんでいます。
「あ、ごめんなさい先生」
「いえ、いいの。ちょっと思い出しただけだから」
その時、歴史が動いたわけではないけれど、オースト
リア−ハンガリー二重としてのハプスブルグ家の心が
失われた日。もう、帰ることのない栄光の日々。
「先生・・・」
縁側に腰をかけたまま、涙ぐんでしまったハプスブル
グ先生でした。
満天の星空が二人を包みます。ゆったりとした時の
流れは、今日よりも、明日は少し幸せになれたらいい
な。昨日の不幸は、明日の幸せで癒せたらいいな。
消えない痛みがあっても、笑顔で包めれば、きっと
幸せになれる。そんな思いが夜の静寂に溢れていくの
でした。
解説
Unknown_J
投稿日: 02/07/11 08:58 ID:jZQJhWRw
ども、Unknown_Jです。お目汚しであれば(以下略)
リュウ家の家庭の事情に、ハプスブルグ先生の家庭の事情をブレンド
してみました。地球組の人達ひとりひとりが色んな物語を持っています。
(しまったぁ、ハン板なのに、カンコ君もニホンちゃんもチョゴリちゃ
んもウヨ君も出てきません。が、たまにはこんな話もいかがでしょうか)
ただ、ニホンちゃんやカンコ君が出ない理由のひとつは、ニホンちゃ
んをリュウ君の家庭の事情にからめると、暴走してカンコ君どころの話
では無くなってしまうので、からめなかったという部分もあります。
リュウジィには、戦前はもとより戦後に至っても海外へ移民した人達
がどんな生活をしていたのか、彼らに対してニホン家がどんな仕打ちを
したのか。調べれば調べるほど、哀しくなってくる部分を象徴してもら
いました。
官僚は、決して過去の責任をとりません。だからといって、それぞれ
の国の人から、不幸や傷を受けることはあっても、それを恨むだけでな
く、不幸や傷と折り合って生きる必要があると思います。他国に住むと
いうことは、それだけその国の習慣やシガラミといったことにどう折り
合いをつけていくかだと思います。
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