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第1108話 さよくびと@長編アップ中 投稿日: 02/07/13 23:39 ID:QUcZg2/D
「偽善はイヤでも 〜地球組の一番長い日〜」

 今年も、サンケイ君が忙しくなる季節がやってきました。
 毎年、サンケイ君が企画している夏休みスペシャルイベント。24時間、ニホン家の電波を借りきって、下らなくも面白い企画を次々に立てることで、町内では有名になっていました。
 昔は、ニホン家の3大コメディアンと言われたキタノおじさん、スギモトおじさん、モリタおじさんによるゴルフ企画。毎回スギモトおじさんの愛車がとんでもない目に合ってしまいます。
 ちょっと前では「24時間勉強タイム」としてキタノおじさんが問題を出しつづけるイベント。
 ところが、最近はどうも町内で飽きられ始めたのか、年々町内の話題に登る事が少なくなってきました。
さて、そんなサンケイ君が打ち出した今年の目玉企画、それは・・・

「『タガロー君の家をみんなで掃除しよう』・・・何これ!?」

 ニホン家から大洋池を挟んですぐの所に、アキノ家というちょっと貧しい家があります。
 一時期、ニホン家への出稼ぎがすんごく多かった事で有名ですが、現在はニホン家が緊縮財政という事もあって、その数は年々減っています。
 そのアキノ家、すごく汚れている事で町内中、特にシンガ君の家から凄まじい批判を浴びています。
 特に裏庭にある通称「煙山」は、溜まったゴミが有毒ガスを発し、酷い時にはマレシア君やベトナちゃんの家まで届いています。
 またこの有毒ガス、もちろんタガロー君をはじめアキノ家の小さい子供たちにも悪影響を与えており、町内会の保健部局は緊急課題の一つに上げているほどです。
 まさに町内の難題中の難題、アキノ家の煙山を見事に掃除してしまおう!というのが、サンケイ君のプランでした。
 もちろん、タガロー君は大喜びです。

 成功の可能性に疑問を投げかける声もある中、すばらしいアイデアに感動したニホンちゃん、早速サンケイ君に参加を打診しました。
 ところが、サンケイ君は全ての参加希望の声を拒否したのです!
「ごめん、気持ちは嬉しいけど・・・もう、拾う人は決まってるんだ。」
「そうなんだ・・・ところで、誰が拾うの?」
「カンコだよ。」
『えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!???』
「ニダーッ!!その通りニダ!ウリに全部任せるニダ!!
 ウリナラ半万年の収集技術で、あんなゴミ捨て場すぐにきれいにしてやるニダ!!
 任せるニダよ!!サンケイ、タガロー!!」
「・・・あ、うん・・・ぜひお願いするよ、カンコ君・・・」不安を隠しきれないタガロー君に対し、サンケイ君は自身満々でした。
「最終的には、集めたゴミを無毒化して、記念のオブジェを飾る事になってるんだ。
 その時はみんなにも紹介するよ。」

その日、ニホンちゃんたちの頭の中では激しい疑念が渦巻いていました。
「ねぇニホンちゃん、どう考えても変だと思わない!?
 あたしもタガローの家の煙山は見たけどさ、どう見てもバカンコ一人でどうにかできる量じゃないよ?」
「うん・・・第一、カンコ君ってああいう肉体労働、すごく嫌がってたもんね・・・」
「万が一拾えたとしても、オブジェの話まではどう考えても無茶アル。あのゴミの量で工作なんて、ボクだって無理アル。」
「そもそも、サンケイの例のイベントはエンターテインメントが基本のはずだろ。
 なんだってまた今年になって、急にあんな偽善めいた事をやるようになったんだ?」
 アメリー君の一言に、全員が沈黙してしまいました。
「・・・わかった。僕とアーリアで調査してみよう。」
ゲルマッハ君、やはり全てを明らかにしてみる必要があると考えたようです。
早速ゲルマッハ・アーリア兄妹を中心とする調査隊が結成されました。

その夜。
「さくら、ゲルマンスキーさん家のお嬢さんから電話だよ。」
「は〜い。・・・・あ、アーリアちゃん?どうだった」
『どうもこうもないな。思ったとおり、アサヒが一枚噛んでいた。』
「えぇっ、小夜ちゃんが!?」
『夕方、学校の裏庭で兄上が目撃したそうだ。カンコとサンケイ、それにアサヒが人目をはばかるように密談していたらしい。
 すぐにアメリー家に盗聴と写真撮影を依頼したから、明日の朝には全てが分かるだろう。』
覚えているでしょうか。サンケイ君が自分をもっとアピールするため、アサヒちゃんに弟子入りした時の事を。
ニホンちゃんの脳裏に、激しく嫌な予感が浮かびます。
そして翌朝、ほとんどニホンちゃんの予想通りの結果を、ゲルマッハ君が持ってきました。
「どうも、本気でタガローの家のゴミを処分する気はなさそうだな。」
 実はカンコ君、シューキュー大会での町内の食いつきが今一つ悪いため、ここぞとばかりに善行一家のイメージを植え付けようとしていたのです。そこに乗ってきたのがアサヒちゃん。彼女の捏造技術を持ってすれば、町内を騙す事など朝飯前でした。
 そして、少しでも本音を隠すために選んだのが、弟子のサンケイ君の企画。アサヒちゃんなら警戒してしまうクラスメイトでも、サンケイ君と言うオブラートに包んでしまえばバレる事は可能性は低いと踏んだわけです。
 いかにもカンコ家のみんなが拾っているように見せかけて、実の所ゴミ処分なんぞほとんどお構いなし。オブジェにしても、前もってアサヒちゃんのコネで作っておいたものを、当日いかにもギリギリで完成したように見せかけて発表する算段になっていました。
アサヒちゃんも中々考えたものですが・・・。

「・・・ったくバカンコ・・・タガローがどんな思いであのゴミの山を見つめてるのか、分かってんの!?」
憤りを隠せないタイワンちゃん。ただ、その怒りを少しは自分の家にも向けたほうがいいと思いますが・・・
「恐らく、サンケイは利用されてるだけアルな。こういう事を思いつくのは大抵アサヒアル。
 長年ボクの家の御用記者として訓練を積んできた成果アルな。」
「そこ、妙な感心はしない。」


「・・・こうなったら、ここにいる皆さんで抗議行動しません事?」
『抗議行動!?』
エリザベスちゃんの突拍子もないアイデアに、おもわず復唱してしまう全員。
「そう。カンコが拾っている脇で、常に『本当に拾ってるんですの!?』とか声を出しつづけたりしていれば、イヤでもサンケイ君は私たちを映さざるを得なくなりますわ。」
「しかしなぁ、エリザベス。連中の事だから、私たちを上手くカットして放送するかもしれんぞ?」
・・・と、それまで黙っていたスオミちゃんが言い出しました。
「それよりさ、私たちで先にゴミを処分しちゃう、ってのはどう?」

「そ・・・それって、私たちであの煙山のゴミを・・・!?」
驚愕するニホンちゃん。それもそのはず、煙山は文字通り「ゴミの山」であり、そのゴミの量はとても小学生レベルで太刀打ちできる領域ではありません。
「スオミ、いくらなんでも無理アル。現実を見据えるアル。」
「もちろん、ここにいるメンバーであの山のゴミを全部処分できるとは考えてないよ。
 でも、カンコ君たちが来る前に少しでもゴミが減ってたら、少しは気が晴れるんじゃないか、と思って。」
「・・・確かに、試してみる価値はありそうだな。やってみるか、兄上。」
「そうだな。」
「よし、その話、俺も乗ったぜ!」
アメリー君、何かお祭りでも迎えるような表情で参加を宣言しました。

そして、金曜日の放課後。
タガロー君の案内で、問題の煙山の前まで来たニホンちゃんたちは、予想以上に大きなゴミを前に呆然としています。
「・・・とにかく、やるしかないわ。」
その独り言に刺激されるかのように、全員がゴミとの格闘をはじめました。
目の前のゴミを一つ一つ拾い、後方で待機しているアメリー君とスオミちゃんに渡す。渡されたゴミは、2人の手で正確に分別され、まとめられる。
たったこれだけの単純作業ですが、何しろ量が量だけに、小学生10人程度ではモノの数にもなりません。
「きゃぁっ!!・・・うぇ・・・ゲホゲホッ・・・ここの空気、ホント最悪だわ・・・」
「タイワンちゃん大丈夫!?みんなも無理しないで、少しずつ休憩取ったほうがいいわよ。」
「そうも言ってられませんわ。まだこんなにゴミが残ってるのに。」
「エリザベスちゃん・・・」
「あぁーっ!アレもコレも持ってくれば良かったダスーっ!!」
気がつけば、日もとっぷり暮れていました。
「みなさん、そろそろお家の方が心配するから、帰ったほうがいいわ。」
心配して様子を見に来たタガロー君のお母さんに促され、この日はみんな泥だらけになって帰ったのです。

「うっわ、どうしたの姉さん?泥だらけゴミだらけ!すごい悪臭だよ!」
「ちょっとね。タガロー君の家のゴミと戦ってたの。」
「それ、どういう事?」
ウヨ君に事情を説明するニホンちゃん。・・・と、ウヨ君の目が俄然輝き出しました。
「そう言う事なら、俺も手伝うよ!3年の連中にも声かけてみる!」
「ありがと、武士。少しでも人出が欲しかった所なのよ。」

明けて土曜日。この日は小学校もお休み。ニホンちゃんたち、今度は重武装でタガロー君の家までやってきました。
・・・すると、そこにいたのはアサヒちゃんとカンコ君。
「ちょっと!勝手な真似しないで頂戴!」
「そうニダ!ウリナラの収集技術を見せ付けられるのが、そんなに悔しいニカ!?」
しかし、もはやこんな2人には構っていられません。ゴミは無尽蔵にあるのです。
昨日の教訓を踏まえて、今日はスコップやザルといった武器が揃っていました。
みんな、黙々とゴミを拾っています。
そして後方では、相変わらずアメリー君とスオミちゃん・・・・あれ?この2人がいません。どこに行ったのでしょう?
「・・・全く、作業の辛さに耐え兼ねて逃げ出したんですのね?
 構いませんわ。あの2人がいなくても、私たちだけで・・・」
エリザベスちゃんが宣言しかけた時、遠くからエンジン音が聞こえてきました。
玄関のほうを見ると、スオミちゃんがかなりゴツいトラックを運転して来るではありませんか。
「みんな〜っ!アメリー君の家から、トラックとパワーショベル借りてきたよ〜っ!!」
「親父に掛け合って、何とか貸してもらえたよ!これで戦力100倍増だぜ!」
と同時に、ニホンちゃんのケータイがなりました。インドネシアちゃんからのコールです。
『やっほ〜、ニホンちゃん!あたし、インドネシアだけど!
 アラー組の面子集めて、今から手伝いに行くからね〜っ!!』
「ありがとう!・・・で、何人ぐらいいるの!?」
『アーリム先生もいるみたいだから、ほとんど全員じゃないかな?
 アメリー君がいるからって渋る子もいたみたいだけど、ファハドおじさんが全員説得してくれたの!』
「それじゃ、ビニール袋大量に持って来てくれる!?」
ウヨ君たち3年生、さらにハプスブルグ先生も玄関先に到着していました。

その後もイン堂君、カナディアン君、フランソワーズちゃんと愉快な仲間たち、メヒコ君らが続々と駆けつけてきました。
ちょうどその頃、地球町の町内会ではちょっとした騒ぎになっていました。
「我々が結論を出せなかった問題を、子供たちが解決しようとしているのですよ!このまま大人が、手をこまねいて見ているだけでいいのですか!」
集まった町内会の役員を前に、フラメンコ先生が説得を続けていたのです。
「・・・わかりました、セニョリータ・フラメンコ。我々としても出来るだけのバックアップをしましょう。」
ニホンちゃんたちの、ほんのイタズラ心から始まった今回の行動は、かつてない規模で地球町を動かそうとしていました。

「・・・そろそろ持って行った方がいいかな。
 ねぇベトナちゃん、そろそろ後ろにゴミ持っていくから・・・ベトナちゃん!!!」
真面目一辺倒のベトナちゃん、昨日から毒ガスにやられて体調を崩していた事を伝えられず、とうとう倒れこんでしまったのでした。
ベトナちゃんを背負って、前線基地まで避難しようとするニホンちゃん。
と、そこへ彼女を呼び止める声がありました。
「ニホンちゃん!とりあえずベトナちゃんに、これ掛けてあげて!」
「・・・紫苑ちゃん!」
彼女が差し出したのは、地球町でも評判のガスマスク。煙山と聞いて毒ガスが頭に浮かんだ紫苑ちゃん、家から大量のガスマスクと酸素ボンベを借りてきたのでした。
「みんなも、前線に出る時はこれを着用した方がいいわ!すごいガスよ!」
「それはいいんだけど・・・Fxxk!水が絶望的に足りねぇよ!
 俺の持って来たトラックは、ゴミを焼却場へ持っていくんでスオミが使ってるし・・・」
「わかった。水だな!!」
そこに立っていたのはロシアノビッチ君。妹たちを引き連れて、ポンコツのマイクロバスでやってきたのです。
「すぐに持ってきてやるぜ。俺の家、水だけは豊富だからな。」
「あ、ちょっと待ってくれ、ロシアノビッチ!」
「どうした!?」
「ついでに・・・どこかの家から、発電機を借りてきてくれ。この家の電力はもう限界だ。」

ロシアノビッチ君がマイクロバスにポリタンクを乗せて帰ると同時に、今度はフラメンコ先生がやってきました。
「みんな〜っ!!区切りのいい所で休憩を入れなさい!ヨシノ屋のビーフボウルもあるわよ!!」
「そ・・・それって、もしかしてネギダク・・・ですか!?」
ビーフボウルと聞いて黙っていられないニホンちゃん、目を爛々と輝かせています。
「当然!生徒たちの好みは、ちゃ〜んとチェックしてあるわよ。もちろん玉付き!
 イン堂君たちのために、マッツ屋のチキンカレーも買ってきてるからね!」
それを聞いて、俄然ファイトを燃やし始めた5年地球組。
一方の3年生たちも、ハプスブルグ先生のザッハトルテがもうじき焼きあがるとの一報を受け、盛り上がりまくっています。

宵の口になって、チューゴ家からブルドーザーが運び込まれてきました。
「こんなゴミ、我がチューゴ家の人海戦術であっという間アル!
 シナ、気合入れるヨロシ!」
「多桑(パパ)・・・多謝アルよ!!」
それから遅れる事数分。ゲルマンスキー家から最新のゴミ解析情報が送られてきました。
「現在の残り容量は47%。主に食料ゴミが中心ね。
 小動物が沸いてる可能性もあるから、前線の回収作業は男の子の方がいいかも。
 ゲルマッハは前線の陣頭指揮。アーリアは回収したゴミの分別に入りなさい。」
「ダンケシェーン、ムッター(ママ)・・・!」
その時、あたり一帯が昼間のように明るくなりました。
「兄ちゃん!家から照明灯さ借りてきたダスよ!」
「すまんダス、キャンベラ!母ちゃんにもよぐお礼言っとくダス!」

地球町教会の鐘が、午後9時を告げました。
町の条例で、9時以降の子供たちの外出には、必ず保護者がつく事になっていましたが、今回は町内会公認のイベントと言う事で、ゴミ関連の作業をしている子供たちは保護者同伴が免除される事になりました。
既に日もとっぷりと暮れ、あたりはオージー家やエリザベス家などから提供された照明灯に煌々と照らされています。
アジア街とユーロ街のママさん達が、それぞれ炊き出し部隊を結成。
炊きたてのご飯と、香ばしいブルーチーズの焼ける匂いがそこら中に立ち込めています。
その脇を、ゴミを満載したトラックが駆け抜けて行きます。トラックの行き先はサウジ家。「うちの砂だらけの庭でなら、いくらゴミを燃やしても延焼の心配はない」と、サウジちゃんが庭を提供してくれたのでした。

奥のほうのゴミが顔を出し始めた頃から、ガスの勢いがひどくなってきました。
前線ではガスマスクを装着した男の子達が、毒ガスや小さな虫と格闘しながら、ゴミを詰めていきます。
「ウゲッ・・・ゲホッ・・・ハエが口の中に入った!」
「無理すんなよ、マカロニーノ。一旦、口をゆすいできた方がいいぜ。」
「さっき、ベトナちゃんのお兄さんが殺虫剤を持って来た。あとで一面にばら撒こう。」
支援基地では、集められたゴミを女の子達が材質毎に分けていました。
「・・・はい、これアルミ!・・・これスチール!・・・これは・・・」
「タイワンちゃん、それレアメタルよ!あとで加工すれば、コンピュータの部品に使えるわ!」
手渡された小さな金属片の汚れを取って、奥のテーブルまで持っていくニホンちゃん。

そこへ、意外な人物がやってきました。
「・・・チョゴリちゃん!それに・・・サヨックおじさん!」
「ウリにも手伝わせて欲しいハセヨ!」
「君たちの活躍は、ネットを通じて地球町の一大イベントになってるよ。
 それを見ていたら、何だか居ても立ってもいられなくなってね。」
「でもおじさんはともかく、チョゴリちゃんは大丈夫!?カンコ君たちがこの事知ったら・・・」
「カンコ兄ぃは関係ないニダ!あんな偽善的なイベントより、こっちの方が地球町の役に立ってるニダ!」
「・・・というわけで、明日のイベントの打ち合わせをやるってウソついて、チョゴリちゃんを連れ出してきたんだ。
 ・・・さくらちゃん、僕がこんな事を頼めた義理じゃないんだけど・・・彼女に仕事を与えてやってくれないかな。」
「わかったわ。おいで、チョゴリちゃん。ゴミの分別を手伝って欲しいの。」
作業手順を説明しながら、チョゴリちゃんを連れていくニホンちゃん。

それと入れ替わるように、フラメンコ先生がやってきました。
「よろしいんですの?朝比奈さんの事だから、もしお父さんがこんな事やってるって知ったら・・・」
「小夜には小夜の考えがあるはずです。それは尊重してやりたい。
 しかし、本来の目的を見失った行動は、ただの儀式でしかありません。
 僕は僕の考えで、本当に地球町にとって大事なのは何か、それを選択したまでです。」
『おぉーい、そこの人ぉーっ!手が空いてるなら、このトラックでサウジ家まで行ってもらえんかぁ!』
「あ、はーいっ!!・・・それじゃ。
 ・・・あと少し、お互いにがんばりましょ・・・おわったったったぁ!?」
「・・・あらら、大丈夫ですか?」
どうやらサヨックおじさん、久々に気合を入れすぎて空回りしてしまったようです。
最近は怪しげな活動ばかり続けていましたが、本来こういったボランティア活動はサヨックおじさんの得意とする所。
今回は娘の手前もあって静観を決め込んでいたものの、ニホンちゃんたちの活躍がネットで紹介されるのを見ていくうちに、忘れかけていた情熱に再び火がついたようです。
普段は決して見せない、サヨックおじさんの真剣な表情に、ちょっとだけ彼を見なおすフラメンコ先生でした。

ラジオからは、午前0時の時報。ゲルマンスキー家の調査隊が、ゴミの残り容量が10%を切った事を伝えてきました。
と、ハプスブルグ先生が3年生たちを集めます。
「みなさ〜ん!もう12時なので、3年生は全員お家に帰りなさい!
 ゴミはもう少しですので、あとはお兄さんやお姉さん、大人の人たちに任せましょう!」
考えてみれば、小学生がこんな時間まで起きている事がまず異常です。
子供たちはまだやる気十分でしたが、万一の事故なども考え、ハプスブルグ先生は全員に帰宅を命じました。
「それじゃ姉さん、あとは頼んだよ。」
「アメリーお兄ちゃん、がんばってね♪」
「フランソワーズお姉さま、ケベックはお姉さまの無事をお祈りしていますわ!」
「・・・おいおい、肉親であるボクの無事は祈ってくれないのか(涙)」
その時、とんでもない事に気づいたニホンちゃん。顔が蒼ざめています。
「・・・あーっ!!チョゴリちゃんどうしよう!今帰したら、カンコ君に酷い目に・・・」
「チョゴリは、とりあえず今晩は中華マンションに泊まってもらうアル。明日は家に戻して、もしカンコが何かするようなら、ボクがカンコの息の根を止めてでもチョゴリを守るアルよ。
 香、チョゴリをお前の部屋の隣まで案内してやるヨロシ。」
「わかったわ、シナ兄ちゃん♪・・・チョゴリ、ついといで。」
「『シナ』は止めるヨロシ・・・。」

午前2時。
一心不乱に作業を続けてきたロシアノビッチ家とチューゴ家のブルドーザー。
しかし、残りのゴミは人手で運んだ方が早い、というゲルマンスキー家からの報告で、エンジンを停止する時が来ました。
ゲルマッハ君とマカロニーノ君が、ゴミを搬出した跡に消毒剤を撒いています。
大規模人海戦術に切り替わった事で、ユーロ街の女の子達が搬出作業に駆り出されて行きました。アーリアちゃん、慣れない小手先仕事でストレスを貯めていたのか、すごい張り切りようです。
前線基地では、ニホンちゃんたちアジア街の女の子達が急ピッチで分別作業を続けています。
そして分別されたゴミはスオミちゃんやサヨックおじさん、さらに町内会のボランティアの運転するトラックで、夜を徹してサウジ家へ運ばれていきました。
帰宅したはずの3年生たちも、とてもじっとしてはいられません。
現場同士で混戦してつながりにくくなっていたケータイを、それぞれの自宅経由で中継することになったのです。
救援物資やドクターなどの手配が俄然スムーズになり、作業は一段とヒートアップして行きます。

そして・・・地球町標準時間・午前4時31分。
エリザベスちゃんが持って来た最後のゴミを、ニホンちゃんとタイワンちゃんが分別・・・
「するまでもなく、全部生ゴミでしたわ。」
・・・ということで、そのままスオミちゃんの乗るトラックの荷台に放り上げました。
「それじゃラスト1往復。よろしくね、スオミちゃん。」
「まっかせといて♪」
スオミちゃん、汗まみれの顔で精一杯スマイルを作ると、そのままサウジ家へ向かって走り出しました。
そして、フラメンコ先生が厳かに宣言します。

「みんな、本当によくがんばりました。
 スオミちゃんがまだ戻ってないですが・・・煙山大掃除プロジェクト、ここに終了を宣言します!!」

その瞬間のみんなの喜びようは、とても言葉では言い表せません。
「・・・えぐっ・・・私たち、ホントにやったんだよね・・・」
「やったよ、やったんだよ、ニホンちゃん!あたしたち、煙山に勝ったんだよ!」
「ベトナちゃん、お疲れ様。具合のほうはもう大丈夫?」
「・・・・イン堂君・・・兄さん・・・パプアちゃん・・・(涙で声にならない)」
「ここまで上手く行くと思わなかったな!兄上!」
「ん〜・・・心を一つにする。実に美しい光景だよねぇ♪」
「・・・まぁ、今回はこのイタリア野郎も誉めてやるとしよう。
 お前も本当によくがんばったな、アーリア。」
「We've done it!! 純心と団結の勝利だ!自由バンザイ!!」
「ハラショー!!お前の陣頭指揮と、俺のバックアップあっての快挙だぜ、アメリー!」
「今日だけは、我がダビデ家もアラー組もないわ!苦難の果てに乗り越えた栄光よ!」
「これこそ神の思し召しよ!さぁ、サウジ家の方を向いて、神に祈りを捧げましょう!!」
そこでフラメンコ先生、一つ咳払い。
「喜ぶのはまだ早いわよ。何しろ、ここの撤収作業が残ってますからね!」
その瞬間、喜びの声は一瞬にして凍りつくのでした。

町内会の人たちと一緒に、疲れた体を引きずって最後の撤収作業に挑む5年地球組。
全てが終わった時のアキノ家の感謝ぶりは、それはそれは凄まじいものでした。
「皆さん、うちのために本当にありがとう!いずれ、お疲れ様パーティを開きますから、ぜひ来てくださいね!」
その声をバックに、ニホンちゃんたちは昇る朝日を見つめながら帰途に・・・

・・・ん?朝日?

・・・・そうなんです。
ちょうどニホンちゃんたちと入れ替わるように、カンコ家の車が煙山の方に向かって走っていくのでした。
おもわず顔を見合わせて笑ってしまうクラスメイト。
「畏!カンコ!お前今さらこんなとこに何しに来たアルか!(ニヤニヤ)」
「今頃来ても、もうゴミはあたしたちが全部拾っちゃったよ〜ん♪」
顔をキムチ色に染めて悔しがるカンコ君。しかし、アサヒちゃんは何か考え込んでいるようでした。
「そういえば・・・ベトナちゃん、覚えてる?私たちがここのゴミを拾ってた、最初の目的。」
「覚えてるよ。カンコ君とアサヒちゃんの企みを阻止するため、だったよね。」
「でも、もうバカンコなんてどうでもよくなっちゃった。煙山のゴミを全部拾えただけで、あたしは満足だな。」
「俺なんて、途中からそんな目的すっかり忘れてたもんな。さっきの『アイゴー』じみたカンコの表情で、ようやく思い出したよ。」
「ねぇ先生。みんなが心を一つにして、一つの事をやり遂げるって、こんなに気持ちのいい事だったんですのね。」
「そうね。しかも今回は、誰に強制されたわけでもなく、みんな自発的にタガロー君の家まで来てたわけでしょ?
 正直言って、先生少し感動しちゃった。」
「あーっ!先生目が潤んできてるダス!」
「こらっ!大人をからかうもんじゃありません!!(笑)」
かつてないほどの充実感。
目がしょぼしょぼして、いつもより朝日がまぶしく感じます。
でも、それさえも気持ちいいほど、ニホンちゃんたちは自分の行動、そしてその結果に、確かな手応えを感じていました。

とりあえず。

みんな。

今日は、ぐっすりと、おやすみなさい。


解説 さよくびと@長編アップ終了! 投稿日: 02/07/13 23:54 ID:QUcZg2/D
【追記】
「おはよう姉さん。もう2時だよ。」
「あ、そうだ武士。例のビデオ取っといてくれた!?」
「一応取っとくには取っといたけど・・・見ないほうがいいと思うな。」
難しい表情を浮かべるウヨ君の手からテープをひったくり、早速デッキにかけるニホンちゃん。

『・・・というわけで、今朝早くからカンコ家の皆さんを中心とするメンバーが煙山のゴミを拾い集めました。
 見てください!あの町内最大の難題だった煙山、もう跡形もなく・・・あ、撒いたばかりの殺虫剤は残ってますが・・・』
『ニダーッ!ウリナラ半万年の清掃技術にかかれば、ざっとこんなもんニダ!』

もう、怒りを通り越して笑う事しか出来ないニホンちゃん。
ちょうどその頃、ビデオを見ていたタイワンちゃんからケータイコールがあり、
2人でビデオを検証しながら大笑いしているのでした。
「これ、絶対合成だよね!!」


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まぁ、色々ソースはありますが。とりあえずフィリピン・マニラ郊外のスモーキーマウンテン問題に、
今回の2ちゃんねる湘南人民聖戦を重ねて見ました。
他にもいろいろとあるんですが、それはまたの機会という事で。

マニラの「スモーキーマウンテン」についてはこちら。
http://www4.justnet.ne.jp/~offifour/smoky.htm

湘南人民聖戦についてはこちら。
http://fuji.nurs.or.jp/

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