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第1130話
ab-pro
投稿日: 02/07/23 19:51 ID:UVdtzWk5
日之本家には幾つものお祭りがありますが、ニホンちゃん一家は
今日は熊本の間の藤崎八旛宮秋季例大祭の見物にやってきた居るよ
うです。
「ドウカイ、ドウカイ!」
五日間続く祭りの最後の花である、飾り馬を勇壮なかけ声で追い
たて、その後をお揃いのハッピの一団が踊りながら練り歩く随兵行
列はなかなか壮観です。
でも、お祭りを見ていたニホンちゃんの記憶に、何か引っかかる
物がありました。
「ねえ、パパ。この祭り前に私も参加したことあるよね。・・そ
の時、お祭りのかけ声てドウカイだったけ?」
「そうか、桜は前にこの祭りに参加時のこと覚えていたんだね。
・・・そうだよ、昔はボシタ、ボシタて言ってたんだよ」
当時の事を思い出しつつ、パパは昔のことをニホンちゃんに話し
て聞かせました。
「ボシタ、ボシタ!」
町の大通りを埋め尽くすハッピ姿の人混みの中で、まだまだ幼い
ニホンちゃんが可愛いハッピを着せられて、パパに肩車してもらっ
て「ボシタぁ、ボシタぁ」と無邪気に叫んでいます。
この日ばかりは、町の大通りのかなりの部分を通行止めにして、
祭りを開催するだけに、何事かとカンコパパも見物に来てしまっ
たのです。
「随分賑やかなお祭りニダ。なんて言う祭りニダか?」
「ボシタ祭りって言うんです」
たまたま近くで見物していたた、アサヒちゃんが答えます。
言葉遣いは大人びていますが、まだまだ幼いアサヒちゃん。この
時は素直に質問に答えてあげているようです。
「変わった名前ニダ。それでボシタという言葉は、どんな意味が
あるニダか?」
「確か・・・、加藤清正て言う人が、朝鮮を滅ぼして熊本に帰っ
てきたから、ホロボシタ、でボシタって言うんです」
そのアサヒちゃんの言葉に、たちどころに怒り心頭のカンコパパ
は、辺り構わずウリナラマンセーの完遂のために恨みパワーを炸裂
させます。
「チョッパリはいまだに、ウリナラを馬鹿にする祭りを開いてウ
リをコケにしているニダ!絶対許せないニダ!
ウリナラは謝罪と賠償を求めるニダ!!」
それはもう祭り以上の迫力です。一様、ニホンパパが宥めにかかり
ます。
「落ち着いてください。この祭りは秀吉の朝鮮出兵より前の1472年
の文献で存在が確認されて居るんです。朝鮮をホロボシタと言う説は
江戸時代以降流布して明治期の韓国併合で一般化した俗説なんですよ」
「うるさいニダ!ウリも日本語は分かるニダ!滅ぼした以外にどん
な意味があるニダ!」
「・・・それは」
ここでちょっと口ごもったニホンパパは、肩車したままの桜に視線
を向けました。実は熊本の古い方言でボボ=性行と言う方言があって、
ボシタ祭りのボシタはボボしたが訛った物と言うのが歴史研究家の定
説だったのです。
しかし、恨みパワー全開のカンコパパの前で、一瞬の隙を見せたの
は失敗でした。
「ともかくウリナラはこんな祭り認めないニダ!ウリナラは断固、
謝罪と賠償を求めるニダ!!」
こうなるともう誰も手がつけられません。
結局、荒れ狂うカンコパパを鎮めるために、翌年から「ボシタ」と
いうかけ声や名称は使わないと約束してしまったのです・・・
「そうなんだ・・・」
パパの昔話に、ちょっともの悲しげにうつむくニホンちゃん。
・・でも、祭りはそんな出来事など無かったように、どこまでも勇
壮に続いていきます。かけ声は変わってもこの祭りが無くなることは
きっと無いように、ニホンパパは思うのでした。
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