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第1216話
三毛 ◆wPntKTsQ
投稿日: 02/09/12 01:00 ID:WTKFVcXm
「空へ」
「んしょ、んしょ、んしょ…………」
よく晴れたある日のこと。ニホンちゃんは、可愛い顔を真っ赤にして、空気ポンプを押し続けていました。ポ
ンプが繋がっているのは………スマートな流線型の、ペットボトルロケット。
そう、この日は、ニホンちゃん完全オリジナルのH2A三号機の打ち上げなのです。
「前回は、<だっしゅ>の切り離しができなかったから、アサヒちゃんが大騒ぎしたけど……今度は失敗し
ないからね~!」
ニホンちゃん、こころに秘めているものがあるようですね。珠のような汗を流しながら、一心にポンプを動か
します。やがて………。
「ふう………よし!」
額の汗を拭ったニホンちゃんは、いそいそとロケットを発射台に取り付けます。全ての準備を整えたニホン
ちゃん、インカムにそっと囁きました。
「こちらさくら。準備完了。………そっちはどう?武士?」
『こちら聖夜島監視、武士。こっちもオーケーだよ、姉さん』
レシーバーからウヨ君の声が響きます。この時のために、彼は、太平湖にぽつんと浮かぶ聖夜島に、双眼
鏡持参で赴いているのです。目的は、ロケットの監視と、荷物切り離しの確認。
今回のロケットも、二個の荷物を搭載しています。<こだま><ゆーざーず>と命名されたそれは、はたし
て上手く切り離されるのでしょうか?
やがて、運命の時がやってきました。
つづき
「発射シークェンス開始。発射20秒前!オン・ザ・ランチ、OK!スターティング・カウントダウン!15・14・
13………」
秒読みが始まります。普段、優しげで柔らかな雰囲気を纏ったニホンちゃんも、この時ばかりは凛々しく、
鋭い目をしていますね。
「7・6・5・4・3・2・1…リフト・オフ!!」
叫ぶと同時に、彼女は発射台に取り付けられたスイッチをはじきました。
プシャァァァァッ!!
勢いよくノズルから水が吹き出し、ロケットが上昇を開始します。撒き散らされた水しぶきが、美しい虹を創
り出しました。
「リフト・オフ、リフト・オフ!!」
発射成功をインカムに叫びながら、ニホンちゃんは素早く双眼鏡を構えました。ロケットは、安定した姿勢を
保ちながら、大空を飛翔してゆきます。
「10・11・12・13・14・15…第一段噴射終了!切り離し!」
ぱしっ!
水の噴射を終えて空っぽになった第一段ボトルの先端、ちょうど機体の半ばほどで、何かが一瞬だけ光り
ます。その直後、再び激しい噴射が始まり、第一段ボトルを吹き飛ばしました。
つづき
「第二段噴射成功!!さらに加速中!18・19・20・21……」
自重を軽くしたロケットは、さらに速度を増しつつ、蒼天をひたすら駆け上がってゆきます。
空へ。空のてっぺんへ。
ニホンちゃんの双眼鏡の視界から、ロケットが消えてゆきます。と同時に、インカムからウヨ君の声が流れ
出しました。
『こちら聖夜島監視。ロケットを確認、順調に飛行中!』
「了解。……第二段噴射停止。フェアリング・パージ!!」
ロケットの、滑らかな流線型に成形された先端部分が二つに割れ、一瞬のうちに吹き飛びました。それを
目撃したウヨ君が、弾んだ声で叫びます。
「フェアリング、パージ確認!!」
『放出!!』
パシッパシッ!!
ちいさななにかが、ロケットから飛び出しました。程なくして、取り付けられた風船を膨らませて、宙にふわ
ふわと漂い出します。
「目的空域への投入を確認!!繰り返す、投入を確認!成功だ!!」
つづき
『目的空域への投入を確認!!繰り返す、投入を確認!成功だ!!』
歓喜に震えるウヨ君の声。それを聞いた瞬間、ニホンちゃんはヘナヘナと座り込んでしまいました。
本当は、飛び上がって喜びたいのです。大騒ぎしたいのです。
でも、それまで彼女を捉えていた緊張が、それを許しませんでした。
ニホンちゃんのロケットは、さほど潤沢とはいえないお小遣いをやりくりして、作られています。そのため、
出来るだけ安上がりに、でも性能はアメリー君やユーロ町のみんなの作るそれに匹敵するものにするという
のが、彼女に課せられた命題でした。
おまけに、彼女には身内に敵がいました。アサヒちゃんです。ちょっと不具合が発生すると、大袈裟に騒ぎ
立てる雑音発生器。おまけに、書いている内容は無知そのものときています。
流石に、温厚なニホンちゃんといえども面白いはずがありません。ここはひとつ、文句の付けようもないほ
ど完璧に打ち上げをこなしてやろう。そう決意して、ニホンちゃんは今回の打ち上げに臨んだのでした。
「姉さん!やったよ!!大成功だ!姉さん!……姉さん!?」
レシーバーから、ガンガンとウヨ君の声が響いてきます。ニホンちゃんは、煩わしげにそれをもぎ取ると、そ
の場に寝転がりました。
「うふふ……ふふ………やっ…たぁぁ~~~!!」
歓喜のおたけび。ニホンちゃんは、晴れ晴れとした顔で、ロケットの消えていった南の空を眺めているので
した。
いつまでも。いつまでも。
おしまい
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