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第1344話
JY55
投稿日: 02/12/18 23:56 ID:JdZZ2Z1d
「伝説」
暗闇と静寂。
不吉な広がりを予感させる空間、それは閉ざされた闇。
粗末な板張りの床は、この空間の狭さと不毛の広さを同時に感じさせる。
その中でランプの揺らめく灯火が、ひとつの朱色の木椅子を照らし出していた。
・・・やがて空間に響く靴音。
奥から人影、ひとりの男が暗く濃い影と共に歩みより入場する。
切りそろえられた口髭の、やや小柄な男。
擦り切れ、くびれた背広を身に付けた、一見芸術家風の男。
その灰色の顔色は疲労を濃くにじませ、幽鬼のような印象を与えた。
うなだれ、彼は倒れこむようにスポットライトの中、椅子に座り込む。
うつむき幾時かの沈黙、それは人生を終える間際の老人の、長き後悔の様子にも似ている。
「・・・・・・・・・・・・」
幾言かのつぶやきが聞こえ、
やがて、彼は決意したかのように眉間に皺を刻ませ、充血した目を上に向け、毅然を保とうとしつつも、力なく立ちあがる。
手を膝に添え残った力をこめ、音も無く立ち上がる。
その目には再びの光。
硬く握り締められた拳は、震えている。
彼はその手を力を込め直し、かつての彼のように振り上げ、
無人の聴衆を前に演説を始める。
彼はしだいに闇に、虚無に囲まれてゆく。
かつての栄光は、今はもうない。
「・・・私は間違っていない!
決して!間違ってはいない!
我々の世界がどれほど『奴ら』の毒牙に脅かされているか!
巧みな社会システムを利用した搾取と支配!
我々の前の世代!我々の子孫!そして我々!
どれだけの犠牲と屈辱を支払ってきたのか!
それを消滅させることを悪というなら、問う!
正義とは何か!!!
私には見える!
確実なる困難と悪意に満ちたの明日は『未来』たるのか!
我々にはそれを取り除く義務が有る!
未来を我々の手に取り戻す義務が!
なぜだ!
私の、私のどこが、どこが間違っていたと言うのだ!
誰に!私の心の中が分かろう?
誰に人の闇を理解できよう!?
誰に私を非難できる資格があるというのだ!
そして・・・なぜ・・・人は・・・私を・・私を・・私を・・・
私を・・・・・・・理解しない・・・・・・・・・。
ぉおおぉぉぉぉぉ、、、、、、私の築き上げたものが、崩れてゆく・・・
千年の理想が消えてゆく・・・
友が去ってゆく・・・
同士達が倒れてゆく・・・
世界に悲劇と裏切りが満ちる・・・
そして、私も・・・消えてゆく・・・
・・・・・・・・・
掻き乱され絡まった、髪。血走り燃えつきた目。
さいごの意思の力が尽き、目から光が消えそれは虚無の闇に染まる。
やがてランプも最後の灯火が消えようとしている。
揺らぐ火の中、残されたのは闇、青白き月。
哀しき者、咆哮す。逃げられない者の嗚咽。
「おお、、、、、、 よ・・・・!・・・!!」
そして終幕の時。
引き金を引く音。
余韻。
後には物言わぬ形。
時間の流れから外れた物。
崩れた鍵十字達。
その後、彼の伝説は『悪』の物語として語られる事になる。
『悪のモデル』、それはこれからも遥かに、人の歴史とともに遥かに。
自らの力の永遠と、その膨張を信じたひとりの男がかつて存在した。
そして、自らの万能と膨張、神との一体化を得ようとする者は
現在も存在し、そしてこれからも存在しつづける。
それは定められた人間の原罪。
これからもずっと、我々の歴史とともに遥かに。
END
PS,ナッチ叔父の話です。
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