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第1402話 黄鉄鉱 投稿日: 03/02/05 23:22 ID:PE+F5UqE
こわれたボトルロケット【1】

 がらら。

 いつもより少し遅れてきたアメリーくんは、あからさまに元気がありません。それまで騒がしかった教室が、少し静まり返ったような気がしました。
「どっ、どうしたのその腕!」
 タイワンちゃんが悲鳴に近い声を上げます。そう、アメリーくんの腕には包帯がぐるぐるに巻きつけられていたのです。
「ああ、これ? まいったよ、帰還式のボトルロケット打ち上げたら、帰ってくる途中で壊れちゃってさ。破片があたって、このとおりさ。」
 5年地球組の子どもたちの間では、主に「せんしんグループ」が中心になって、木の上に秘密基地を作っています。
 この秘密基地にはハムスターの小屋があり、そこへ向かってボトルロケットを飛ばして食料を運んだり、ハムスターを運び込んだり運び出したりしているのです。
 特に「せんしんグループ」のリーダー格であるアメリーくんの家には、何度でも使いまわしのできる帰還式ボトルロケットが何台もありました。その中でも「ころんびあ」はアメリーくんが一番最初に作ったものでした。
「ねえ、ひょっとして誰かが…」
「それはない。今原因を調べてるところだけど、打ち上げたときにちょっと傷ついたのが原因の可能性が高いな。もっともだいぶ使い古されてたから、寿命だったのかもね。」
 アメリーくんはタイワンちゃんに微笑んで見せたものの、やはりショックは隠し切れないようです。
 それもそのはず、そのロケット「ころんびあ」には、アメリーくんの大事にしていたハムスターが7匹も乗っていたのです。
 しかも、そのハムスターのうちの何匹かは、イン堂くんの家や紫苑ちゃんの家からもらった子だったりします。
 もうすでにクラス中のみんながアメリーくんの家で何が起こったのか知っていましたが、まさかここまでひどいとは思ってもみませんでした。
 アメリーくんの家の帰還式ボトルロケットが壊れたのはこれが初めてではありません。前にも「ちゃれんじゃー」というロケットが、打ち上げ直後派手に爆発したという前歴があるのです。
 このときも乗っていたハムスターは全員死んでしまいました。アメリーくんが落ち込むのも無理ありません。
「死んだハムスターのことは残念だったアルね。」
「賢い、いい子たちだったのに… なんて言ったらいいか…」
「秘密基地にいるハムスターは俺の「そゆーず」でなんとかすっから、おまえは早くそのケガ治さねえとな。」
 みんな、ありがとう。そうアメリーくんが言おうとした、そのときです。
こわれたボトルロケット【3】

「けけけけけ、ざまあみたらしたくわんぽりぽり〜♪」

 みんながぎょっとして振り返ります。笑い声の主は、アッラー組のイラクくんでした。
「自分が変な言いがかりつけるさかい罰があたったんや。ええ気味やないかけけけけけけけけ。」
「なんだと?」
 アメリーくんの眉が片方釣りあがりました。
「じゃあどうして僕がおまえん家に花火があるかどうか調べようすると必死になって嫌がるんだよ。
 やましいことでもあるんじゃないのか?」
「やかましいわい、人の家荒らされたら嫌がるのはあたりまえや。言うとくがな、俺の家には花火なんかないで。
 フセイン父ちゃんの恋愛小説賭けてもええで。」
「そんなもんいらねえよ! それにおまえ、アフガンちゃんとこのタリバンと釣るんで何か企んでんのは知ってるぞ」
「またそんな言いがかりつけよんか。自分、やっぱりうちの油ぜーんぶ独り占めしたいんとちゃうか?」

こわれたボトルロケット【4】

二人は互いににらみ合い、火花バチバチ。今にもつかみ合いの大喧嘩になりそうな雰囲気です。
そのときです。

「アメリーくん。」
 振り向くと、そこにはペルシャちゃんが立っていました。
「ハムスターのお墓には、私もお参りしとくわ。」
「なんやて? ペルシャ自分正気か、こいつアッラー組の敵、いや、全世界の敵やで。大体やな、こいつは自分の」
「たしかに、」
 なおもしゃべりつづけようとするイラクくんを大声でさえぎるペルシャちゃん。
「アメリーはやな奴よ。今までさんざん家近所荒らしまくって、平気な顔してるもんね。
 私も正直言って、こいつだいっ嫌い。何様? って感じよ。
 でもね。家の話とハムスターの話は別でしょ。馬鹿みたいなことあからさまに言ってたら、今回のことだってあんたの工作じゃないかなんてうたがわれちゃうわよ。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 そう言うとペルシャちゃんは暴れるイラクくんを引っ張って行ってしまいました。
「ほへー、ペルシャちゃん、大人ー…」
 そうつぶやくニホンちゃんの横で見送るアメリーくんの顔には、いつしか笑みがこぼれていました。

「…みんな、ありがとう。今回のことはさすがに僕もショックだったけど、ロケットの打ち上げはやめないよ。だって…」

「秘密基地は私たちの夢、だもんね!」とニホンちゃん。
「そうだ。僕たちの夢だ。だからやめるわけにはいかない。」ゲルマッハくんもうなずきます。
「おう、みんなででっかい基地作ろうぜ!」と、ロシアノビッチくんもこぶしを上げます。
 みんながそれぞれに誓い合う中、ニホンちゃんにはちょっとだけ、あることがひっかかっていました。

『馬鹿みたいなことあからさまに言ってたら、今回のことだってあんたの工作じゃないかなんてうたがわれちゃうわよ。』

(私の家でも今度ロケット打ち上げるけど… ちょっとだけ心配…かな)
 今度の打ち上げに備えて、『たねがし間』にもう1匹番犬を入れておこう、と密かに決めたニホンちゃんでした。

 その風景を、掃除道具入れの中から密かに見守っている男の子が約1名。
「シッパル! 言いそびれたニダ。これもニホンが話を終わらせたからニダ。謝罪と賠(以下略)」

 カンコくん、何を言おうとしてたんでしょうかね?

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