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第1448話 世界が平和でありますように 投稿日: 03/03/20 04:01 ID:O9FeWpEY
アメリー君がいつ自分の家に花火を打ちこんでくるか気がきではないフセイン
小父さんはイラク君に門の前で見張っているように命じました。
イラク君は、ヘルメットをかぶって家の前に座っていました。頼りにして
いたアラブ班の他の家は固く門を閉ざし、目を合わせようともしてくれません。

「イラク君」
鈴の音のような澄んだ声がしました。振り向くとそこにはさくら色の長着を
上品にまとった女の子が伏目がちに立っていました。
「ニホンちゃんか。どうしたの?ここはもう、危ないから近づかない方がいいよ」
どこか修行僧のようなあきらめきった笑顔を浮かべながらイラク君はいいました。
「あ、あのね、今日はね、大事なお話があって来たの。」
最初は俯いて言い出しにくそうでしたが、やっと決心したのか、たどたどしくなり
ながらもニホンちゃんはそう言いました。
「フセイン小父さんを家から追い出せ、だろう?」
ニホンちゃんは驚いたようにイラク君を見ました。イラク君は自分の家を見上げて
います。
「あの小父さんがやったことが全て正しいとも思ってない。だけど、全てが間違い
だとも思えない。」
イラク君はニホンちゃんを正面から見つめました。その視線があまりにも真摯で、
ニホンちゃんは少しドキドキしてしまいました。
「小父さんは小父さんなりにこの家のことを考えていたんだと思う。そりゃあ、」
苦笑を浮かべながらイラク君は続けます。
「ペルシャの家に喧嘩を売ったり、アメリーとの喧嘩に負けそうになって我が家の
特産品を近所にばら撒いたり滅茶苦茶なところもあるけどね。」
ニホンちゃんはどう答えていいのかわかりません。
「ごめん、一人で喋りすぎた。」
イラク君はニホンちゃんの様子少し照れたようにヘルメットを目深に被りなおしました。
「それで、答えの方は・・・」
ニホンちゃんは絶望的な面持ちでこの“説得工作”の結末を聞き出そうとしました。
「さっきも言っただろう?ここはもうじき危なくなるから、早く家に帰るんだ」
イラク君はぶっきらぼうにそう言いとアメリー君のものとは比べ物にならない
貧相な花火を構えました。
「ごめん。ごめんね」
ニホンちゃんはそれしか言うことが出来ず、駆け出していきました。

イラク家からほど近いクウェート家。
「うん。いいんだ。そんな、泣くことないじゃないか。キミはよく頑張ったよ。あとは
僕に任せてくれ。じゃあ。」
アメリー君は優しげな声で携帯電話に話かけています。そして、それを見つめる冷めた
目線の主はエリザベスちゃんでした。
「随分とまあ、お優しいこと」
通話を終えたアメリー君に氷点下の声色で言いました。
「彼女にはまだ、色々とやってもらうことがある。ここで萎縮されたらたまらないからな」
傲然とそう言い放つアメリー君。その顔に浮かんでいるものはさながら六六六体の悪魔を
六六六小隊率いた大隊長のそれでした。
「最低ね」
エリザベスちゃんは吐き捨てるようにそう言いました。




エリザベスちゃんは吐き捨てるようにそう言いました。
「その最低な奴に付き従うお前な何なんだろうな」
エリザベスちゃんはあまりの怒りに一瞬、気が遠くなりましたが、そこは落ちぶれても
名門の出、鉄の理性で抑えつけます。
「勘違いしないで頂戴。あなたの家とわたしの家は利害をともにしているだけ。
でなければ誰が」
アメリー君はいきなり椅子から立ち上がるとエリザベスちゃんの赤みがかった金髪を
そっと撫でました。
「利に聡い人間は嫌いじゃないよ。リズ」
そう、耳元でささやきました。
「な、なにを」
エリザベスちゃんはいきなりのことで気が動転しています。
「番犬の様子を見てくる。この暑さでまいってなければいいけど」
そういうと、クウェート家の門に待たせている犬たちのところへと
向かっていきました。

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