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第1580話
ナナッシィ
投稿日: 03/07/07 21:53 ID:+PUfzA+B
『7 ― SEVENTH[COLORS]WINGS ― 』
人気の無い公園。橙色の夕焼けの中で、ブランコの金具が軋む音が聞こえます。
寄り添う2羽のカラスが、遠くの空へ消えてゆきました。
その姿を眺めながらブランコに腰をかけていたアーリアちゃんは、
ひとりため息をつきつつ視線を足元に落としました。
そのまま手を組み目を瞑って、30分ほど前の光景を思い出します。
裸電球が照らす作業部屋。ひっくり返った机、散乱する模型部品。
コーヒーカップに口を付けたまま、固まっていた兄。凍りついた時間。
居たたまれなくなって、部屋を飛び出した自分。
「・・・・・・・・っ!」
吐き気をもよおすような自己嫌悪に奥歯を噛みしめ、身を強張らせるアーリアちゃん。
深呼吸で新鮮な空気を肺に入れ頭を冷やし、もう一度冷静に考えます。
『なぜ、そんなことをしたのか?』と。
その時、アーリアちゃんはゲルマッハ君と一緒に、家名物の自動車模型を作る内職をしており、
アーリアちゃんは部品作り、ゲルマッハ君は組立・塗装という形で役割分担をしていました。
しかし、マイスターランクの器用さを誇るゲルマッハ君が次々と模型を完成させる一方、
技術的に見劣りするアーリアちゃんの作業スピードはやや遅れてしまっていました。
結果、ゲルマッハ君は「ブヒンマダー? マチクタビレター」状態で、コーヒーブレイク。
一方、アーリアちゃんはその間も延延と作業を続けなければならず、疲労感ともどかしさ、
なにより兄の足を引っ張っているという焦燥感に、言い様も無いストレスが溜まっていました。
そして、気がつけば星○徹も裸足で逃げ出す勢いで、作業机をひっくり返していたのです。
長時間に及ぶ作業やストレス、部屋の澱んだ空気で、理性的な判断力が失われていたとはいえ、
やってしまった事実そのものは、無かったことにすることは出来ません。
まして部品を作る仕事は、なかなか家に馴染む事が出来なかったアーリアちゃんに
ゲルマッハ君自ら両親に申し出て、自分に託してくれた仕事なのです。
それを放り出してしまった今、気まずくて家に戻ることも出来ず、
町内をふらふらしている間に、アーリアちゃんはいつしかこの公園に辿り着いていたのでした。
(・・・・・・・何をやっているんだ、私は・・・・・・・)
力なく頭を振り、アーリアちゃんは解いた手の平を見つめました。白く、細長く、冷たい手。
物心つく前から暗殺者としての訓練を受け、数々の殺人術を仕込まれた手。
しかし、その命懸けで体得した技も、今の生活では何の役にも立ちません。
他人よりは優れているという自負のあるその力が、無用の長物でしかないのです。
そんなことを考えていく内に、自分の存在意義にすら疑問を覚え始めるアーリアちゃん。
今まで幾度となく感じた刺すような胸の痛みに、思わず身を屈め握り拳を押し当てました。
と、不意に頭の上から
「どうしたのアーリアちゃん? おなか痛いの?」
掛けられた声に顔を上げると、心配そうな表情で覗き込んでくるニホンちゃんの顔がありました。
(ここまで接近されながら、声を掛けられるまで気付かないとはな・・・・私も焼きが回ったものだ・・・・)
考え事をしていたとはいえ、唯一の拠り所すら、今やこの体たらく。
なおも泣きそうな顔で心配してくるニホンちゃんに、自嘲気味な笑みを浮かべるのが精一杯でした。
「♪いっぱいゴネて〜(ニダ!)いっぱい金取れる〜(ウリナラ!)いっぱいゴネて〜・・・・」
調子の外れたとても不快な歌声が、その玄関先から聞こえてきます。
気がつけばアーリアちゃんは、ニホンちゃんちの庭からここカンコ君ちを覗き見していました。
アーリアちゃんは(恥ずかしいので)適当に端折った説明をしたところ、
ニホンちゃんが「スト? ストならカンコ君を参考にしてみれば?」と微妙に勘違いした提案をし、
半ば引きずられるようにここまで来てしまったのです。アーリアちゃん、もうなるようになれ状態。
「・・・・・でね、カンコ君この前はゴネ倒して、お小遣いアップしてもらったんだよ〜。
あ、見て見てアーリアちゃん、早速カンコ君が何かやってるよ?」
「ああ・・・・・・母親のらしき自転車を勝手に乗り回しているようだな」
「うん、あんなことされたら、お母さん買い物にいけなくて困るよね〜。あ、お母さん登場だよ!」
「ああ・・・・・・やはり怒っているな」
「うん、でもカンコ君はこの程度でへこたれないよ。あ、今度は自転車ごと車に突っ込んじゃった!」
「ああ・・・・・・これで暫くカンコ家の輸送能力・移動能力は無きが如しだな」
「うん、凄いストだね。まさに肉を切らせて骨を絶つ戦法だね」
「ああ・・・・・・(そう・・・・・なのか?)」
「あ、見て見てアーリアちゃん、お父さん登場だよ! どうなるかな〜?・・・・・・あ、やだっ」(ぽっ)
「・・・・・・なあニホン、あそこで出した尻を叩かれながら涙を流して謝っているのは、誰だ?」
「え? え? わ、私、今顔を手で覆って何にも見えないからカンコ君だかわかんな〜い」(アセアセ)
「・・・・・・・・その指の隙間から見ているんじゃないのか?」(くいくい)
「や〜ん、私何も知らな〜い! 私何も見てな〜い!!」
結局何の参考にもならないまま、実に不愉快な光景を見せ付けられただけに終わったアーリアちゃん。
真っ赤になってイヤイヤしているニホンちゃんを適当にからかって、悲鳴響くその場を後にしました。
陽はとっぷりと暮れ、空には星が瞬き始めています。
街灯の光の中、相変わらずアーリアちゃんは行く当ても無く、町の通りを彷徨っていました。
うつろな瞳は、すれ違う車のライトが横切っても、何の反応も示しません。
そんなアーリアちゃんに突然、強い光が当てられました。
しかも、それはいつまでも過ぎ去ろうとせず、アーリアちゃんの全身を照らし続けています。
思わず手で光を遮ると、その先では自転車にまたがったゲルマッハ君の姿がありました。
「・・・・・・こんな所で何をしているのだ、アーリア?」
いつもの落ち着いた優しい声音が、かえってアーリアちゃんの心を惑わせます。
「あ・・・・兄上・・・・・わ、私は・・・・・・」
「もう休憩は済んだだろう? さ、帰ろう。お前がいなければ僕も仕事が出来ない」
「え・・・・・・あ、ああ・・・・」
アーリアちゃんは幾分か逡巡した後、結局ゲルマッハ君が促すまま、自転車の後ろに座りました。
ゲルマッハ君はアーリアちゃんが自分の腰に手を回したのを確認し、ペダルをこぎ出します。
暫く重苦しい沈黙が続き、謝るタイミングを逃したアーリアちゃんが口ごもっていると、
おもむろにゲルマッハ君の方から話し始めました。
「なあアーリア、『タナバタ』の話は知っているか?」
「え?・・・・・・えーと、確かニホンの家の神話か御伽話だったか・・・・・」
「ああ。働き者だった織姫と牽牛は恋に落ち、二人して仕事を怠けるようになった。
そのため神の逆鱗に触れ、二人を別れ別れにし、天の川で隔て二人が会えないようにしてしまった。
しかし、あまりに嘆き悲しむ二人を見兼ね、神様が年に一度だけ会う事を許したという話だ」
「・・・・・・・・・なんだか、少し私達に似ているな・・・・・・・」
アーリアちゃんは、ゲルマッハ君に気付かれないように、少しだけため息をつきました。
「そうか? 今の僕には、年に一度しかアーリアに会えない暮らしなんて耐えられないが・・・・」
「・・・・・・・・・え?」
ゲルマッハ君の背中につかまりながら、思わずきょとんと呆けてしまうアーリアちゃん。
そのまま首を傾けると、いつもと同じように涼しげで、
それでいていつもより優しく温かな眼差しが、兄の肩越しに僅かに覗きました。
「離れ離れの生活なんてもう御免だ・・・・・もう僕は、アーリアを一瞬だって失いたくはない・・・・」
「・・・・・・・・・・・・あ・・・・・に・・・・うえ・・・」
「ま、まあなんだ・・・・とりあえず神様の怒りに触れないように、真面目に仕事しなければな?」
思わず口走ってしまった本音にやや照れ笑いを浮かべながら、冗談めかして嘯くゲルマッハ君。
その言葉が終わる前に、アーリアちゃんはゲルマッハ君の背中に思いきり顔をうずめていました。
力いっぱいゲルマッハ君にしがみ付き、そしてそのまま消え入りそうな鼻声で呟くように言いました。
「・・・・・・・兄上・・・・・・・・ごめん・・・・・・・・・」
正面を向いたまま、ゲルマッハ君は「ああ」と一言応えるだけでした。
何かを必死に堪えようとしている妹の震えを背に感じながら、視線を少しだけ夜空に向けます。
幾億の尽きることない瞬きが、闇夜のキャンパスに美しい大河を描いていました。
「じゃ〜、カウントダウン!・・・・・・3・2・1・ゼロ!それっ!」
ニホンちゃんの合図で、その場の皆が風船から手を離しました。
七夕の今日、日ノ本家・ゲルマッハ家共同で、風船に願い事を結んで飛ばすという、
「七夕風船プロジェクト」が開催されたのです。
プロジェクトは途中、呼ばれもしないのに紛れ込んだカンコ君の風船がカラスにつっつかれて破裂、
その恥ずかしい願い事がウヨ君の手によって晒しageにされた以外は無事平穏に進みました。
思い思いの願い事を託され、空の頂上へ向かう七色の風船たち。
まるで、一人一人の願いが翼を得て、はるか夢の大空に舞い上がるかのよう。
ゲルマッハ君が、隣で同じく空を見上げるアーリアちゃんに話し掛けました。
「アーリア、どんな願い事を書いたんだ?」
「そんなの・・・・・秘密だ。兄上こそ何を願ったんだ?」
「勿論・・・・・・・・・秘密だ」
ゲルマッハ君とアーリアちゃんは互いに顔を見合わせ、吹き出しました。
ひとしきり笑った後、どちらからとも無く相手の手を握り、再び空を見上げます。
二つの風船が寄り添うように、雲の彼方へ消えてゆきます。
その影を、いつまでも二人は並んで眺めていました。
おしまい。
解説
ナナッシィ
投稿日: 03/07/07 22:08 ID:+PUfzA+B
どーも、またもや熱暴走してしまったナナッシィでふ。
ソース厨な私ですが、実は今回ソースはあまりストーリーに直接関係ありませんw
なんとなく、アーリアちゃんに萌えてみたい年頃だったので・・・・アア、ゴメンナサイゴメンナサイユルシテクダサイ・・・・
それにしても、いやいや七夕に間に合ってよかったよかったw
「西」並み時短「東」にも…独の労組ストに批判
ttp://news.lycos.co.jp/topics/world/germany.html?cat=35&d=27yomiuri20030626id28
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鉄道労組員8500人に懲戒措置を取る
ttp://japanese.joins.com/html/2003/0630/20030630184955400.html
【社説】鉄道スト撤回が残した教訓
ttp://japanese.joins.com/html/2003/0701/20030701211126100.html
(七夕風船プロジェクトについて)
ttp://www.tanabata7.com/japanese/project/index.html
駄長文につき、お目汚しスマソです。
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