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第1820話
熱血君 ◆O4x3A1GrPw
投稿日: 04/04/03 23:36 ID:CcRSdZaa
「雨のMERODY」
少し前のお話です。ゲルマッハ君やアーリアちゃんがやさぐれていてもうどうしようも
なかった頃のお話です。
「ほら、立てよ」
二人は今日も紫苑ちゃんを苛めていました。
「ウッ、ウウッ・・・・・・」
身体中痣だからけになった彼女は泣きながら床に倒れています。
「何でよ・・・・・・」
彼女はその涙に濡れた瞳で二人に対して言いました。
「何で私ばかり苛めるのよ・・・・・・」
そこに蹴りがきました。それは紫苑ちゃんのお腹を無慈悲に蹴りました。
「ガハッ・・・・・・」
彼女はお腹を抱えて蹲りました。
「理由を聞きたいか?」
彼女の髪を掴んで顔を上げさせます。そして黒い制服に身を包んだ二人は言いました。
「それは御前達の家族が前の喧嘩で我が家に不利になるようなことをしたからだ」
「そうだ、そしてそのせいで我が家は負けた。叔父様がそう言っておられた」
そして再び紫苑ちゃんを殴り蹴ります。皆は怖くて何も言えません。
「しかし僕達だけ御前の相手をするわけにもいかない」
「そうだ、御前は呪われた家の子だ。皆に制裁を受けるべきなのだ」
二人はそう言うと酷薄な笑みを浮かべました。
「おい、ポーラ」
ゲルマッハ君はついこの前喧嘩で負かして子分にしたポーラちゃんに
対して声をかけました。
「な、何!?」
ポーラちゃんは二人を怯える目で見ながら言いました。
「御前の家もこいつの家には色々と世話になっただろう」
「いい機会だ、御前もこいつを制裁しろ」
「えっ、けど・・・・・・」
ポーラちゃんは二人を上目遣いで見ながらそれを拒絶しようとします。
しかし。
「嫌なのか?」
「まさか私達に反抗するつもりなのか?」
二人はそう言うとポーラちゃんを睨みました。
彼女はこの前二人にいきなり襲われやられたばかりです。その怖さは身に
染みています。反抗なぞ出来る筈もありません。
「それは・・・・・・」
顔を下に俯けて何も言えません。
「わかった。御前もこいつを制裁するのに賛成なんだな」
「流石だな。では早速やってもらおうか」
「え、そんな・・・・・・」
彼女はその言葉に呆然とします。そして床に蹲る紫苑ちゃんを見ます。
「お願い、止めて・・・・・・」
彼女はもう口から血を漏らしています。そして哀願する目で彼女を見ます。
「・・・・・・・・・」
彼女は動けませんでした。あんなふうになっている紫苑ちゃんを苛めたりする
ことは彼女の良心が許しませんでした。しかしそんな彼女の良心の呵責をもこの
二人は無残に踏み躙ったのです。
「そうか、ならいい」
「替わりに御前を制裁してやる」
そう言うとポーラちゃんの方に歩み寄って来ました。
「あ・・・・・・」
それを見てポーラちゃんは立ちすくみました。
「それは・・・・・・」
ポーラちゃんはまだ答えられません。しかしそうしている間にも二人はあえてゆっくりと
近付いてきます。
「・・・・・・わかったわ」
そして彼女は遂に負けてしまいました。紫苑ちゃんの方へ歩いていきました。
「そうだ、それでいい」
二人はそれを見て笑いました。
「そんな、ポーラちゃん・・・・・・」
紫苑ちゃんは床に蹲りながら彼女を見上げました。
「嘘だよね、嘘だと言って・・・・・・」
彼女は必死に哀願します。しかし。
「御免、紫苑ちゃん」
彼女は拳を振り上げました。そして紫苑ちゃんを殴り蹴りました。
「こうしないと、こうしないと私がやられるの。あの二人に・・・・・・」
そう言いながら拳を振り上げます。
「だから・・・・・・御免ね。許してね・・・・・・」
彼女は泣いていました。けれど殴らずにはいられませんでした。紫苑ちゃんはそれを
受け床に蹲っていました。ゲルマッハ君とアーリアちゃんはそれを見て残酷な笑みで笑って
いました。
そうした悪夢の日々からどれだけの歳月が流れたでしょうか。ゲルマッハ家を
支配していたナッチ会は崩壊し紫苑ちゃんは遂に自分の家を持つことが出来る
ようになりました。そしてポーラちゃんもゲルマッハ家の呪縛から解き放たれる
日がやってきたのです。
しかし彼女は中々言えませんでした。紫苑ちゃんに酷いことをした庫とに対する
謝罪を。
「私が悪いわけじゃないもん・・・・・・」
彼女は弱々しい声で言いました。
「あの二人が悪いんだもん・・・・・・」
けれどその良心の疼きは誰にも止められるものではありませんでした。それは
いつも彼女の心を苛み続けていたのです。
「けれど・・・・・・」
彼女はそれから逃れようとします。けれどその心には逆らえませんでした。
ある雨の日彼女は紫苑ちゃんを訪ねました。紫苑ちゃんの家の家はその日は
彼女の家では珍しく雨でした。
「何か用?」
彼女も昔のことは忘れてはいません。ポーラちゃんをジロリ、と睨みます。
「うん、あのね・・・・・・」
彼女は勇気を出して口を開きました。
「えっと・・・・・・」
ポーラちゃんは口篭もります。中々言えません。
しかし勇気を出しました。思い切って言いました。
「御免なさい!」
そう言って頭を深々と下げます。
「あの時貴女を苛めて・・・・・・。言い訳はしないわ。ただ・・・・・・。
御免なさい」
「・・・・・・・・・」
紫苑ちゃんはそれを黙って見ていました。そしてゆっくりと口を開きました。
「いいのよ」
普段の彼女からは思いもよらない言葉でした。
「えっ!?」
ポーラちゃんはその言葉を聞いて思わず顔を上げました。
「あの時辛かったのは私だけじゃなかったわ。貴女も辛かったんだから。
そうした辛い過去を思い出すのはもう止めましょう」
ポーラちゃんに対し優しい声で言いました。
「それよりも」
彼女はそこで話を変えました。
「貴女に聞いて欲しい曲があるのだけれど」
「曲!?」
「そうよ。こうした日に聞くにはぴったりの曲かも。いいから
上がって」
そう言ってポーラちゃんを家の中に入れます。そしてピアノが
置かれている部屋に案内されました。
「聞いてね、私の曲を」
そう言うとピアノを弾きはじめました。
「あ・・・・・・」
ポーラちゃんはその最初に響きだけを見てわかりました。それは
彼女の家の曲でした。
「あの時私を支えてくれた曲。貴女の家の曲よ」
「・・・・・・・・・」
ポーラちゃんはそれを黙って聞いていました。
「人の心なんてね、恨みや憎しみに支配されてばかりなのよ。残念
だけれどそれから逃れることは簡単じゃないわ」
そう言いながらピアノを引き続けます。
「けれどね、本当に素晴らしい芸術はそんな醜いものを全て打ち消して
くれるのよ。私はこの曲からそれを教わったわ」
「そう・・・・・・」
「今は私も憎しみからは逃れられない。けれど何時かは。だから・・・・・・。
ポーラ、私は貴女がしたことも忘れるわ。だから貴女も気にしないで」
「有り難う・・・・・・」
ポーラちゃんはその席にしゃがみ込み泣き崩れてしまいました。紫苑
じゃんの目にも涙が浮かんでいました。雨の中二人をその清らかな旋律が
何時までも包んでいました。
解説
熱血君 ◆O4x3A1GrPw
投稿日: 04/04/03 23:40 ID:CcRSdZaa
何時かは書きたいと思いながらもあまりにも陰惨な話なので書けなかった
お話です。女の子がいたぶられる話って苦手なんですよね。弱い者苛めって
結局は自分が本当の意味での弱い奴だからするものですし。
ttp://www.portnet.ne.jp/~kobe2pls/kyoto/porland.htm
ttp://www.mirai.ne.jp/~ittaka/frank.html
ttp://www.poland.or.jp/news/culture/culture_jp/Pianistajp.html
こんなゲルマッハ君とアーリアちゃんも書きたくはなかったですが。しかし
そういった話なんですよね。人間というのは弱い生き物で時として弱者を苛み
自らを偉く思いたがる。醜い話ですが。
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