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第2079話
マンセー名無しさん
投稿日: 04/12/21 21:31:38 ID:/mZXOU56
そんじゃま、お言葉に甘えまして。
「パパの優しさ」
パパは、町内のもめ事で一度も怒ったことがない。
ママに聞いても、怒ったパパの姿なんてみたことがないって言う。
町内に暴力団事務所(と、アメリー君のお父さんが言ってた)ができてしまい、
町内の安全と、子供の健全育成のためにみんなで追い出すと決まったときも、
パパは「皆さんの食事代や必要なものを買うお金を出しますから」と言って、
事務所に乗り込んでの対決には加わらなかったって。
いろんなひとたちに「ニホンパパには度胸がない」「金だけ出して逃げる卑怯なやつだ」と、
さんざん悪口を言われたみたいだけど、それでもパパはニコニコ笑ってじっと耐えてたって、ママが言ってた。
最近、また暴力団事務所ができて、今度はアメリー君が怪我をさせられた。
アメリー君のお父さんが怒り狂って、「あなたがたの子供たちも、このままだと怪我させられるんですよ!」と呼びかけ、
みんな参加して立ち退き運動をはじめた。今度はパパも事務所に乗り込んでるけど、でもやっぱり対決には加わってない。
まわりでまだもみ合ったりしてる中で、事務所に使われていた建物を普通のおうちにするための工事をやってるんだって。
パパに「大丈夫?」って聞いたら目をぐりぐりに見開いて「誰も殴らなくて済むように、殴られないようせいいっぱい気をつけてるよ」って、
いつものように冗談ぽく言ってニコニコ笑ってた。
アメリー君のお父さんは、アメリー君のためなら平気で人を殴る。
エリザベスちゃんとこもそうだ。
怖いけど、ちょっとうらやましいような気もする。
チューゴ君ちでは、「しつけのために」って、平気でチューゴ君も殴られてるからヤだけどノw
みんな、パパやママにホントに愛されているんだなぁって思う。
パパは、私のために誰かとケンカしてくれるかなぁ。
私を守るために誰かを殴ったりするかなぁ。
いつもあまり面白くない冗談ばかり言ってニコニコしているパパを見てると、ちょっと心細い。
夕方、イーグルとこんごうを散歩に連れて行くパパと一緒に、川沿いの土手を歩いた。
歩きながら、パパに聞いてみた。
「ねぇパパ、パパはニホンのこと、愛してる?」
「んん?どうした?....最近じゃママも聞かないようなことだなぁその質問は。
愛してますよぉ、パパは家族を愛してますとも、そうでなきゃ毎日満員電車に揺られて仕事なんかトテモ行けませんよォ」
「すぐそうやって茶化す!」
「いやほんとに。大変なんですよ満員電車はもう、ぎゅううううって」
「...もういいよ...グレてやるから。カンコ君ちのお兄さんみたいにヒキコモってワガママ言ってやるもん。
イーグル、こんごう!私の味方になって、こんなパパなんか食べちゃえ!」
私に名前を呼ばれて、イーグルとこんごうはピクリと耳をそばだてた。でも、声の感じで冗談だってわかってるみたいで、しらん顔してる。
「....なによイーグルとこんごうまで...愛がなさすぎだよ....。あーあ、かわいそうなニホン.....」
「....いったいどうしたの?何かあったのならパパに話してごらん」
ちょっと心配そうな顔をして、パパが聞いてきた。
私は、考えていたことをパパに話した。
パパは私の話を聞き終わると、ちょっと考えて、「ベンチに座って話そうか」と言った。
雲が茜色に染まりはじめてた。
「いいかいニホン。パパがいつもニコニコしてるその理由を話すには、まずニッテイおじいさんのことから話さなきゃいけない。
ちょっと長くなるけど、いい機会だからしっかり聞いてほしい。
...ニッテイおじいさんは、貧乏だったけど苦学して、ひ弱だったけど体を鍛えて、
信じた道を自分の力で切り開いて、自分の足で歩んだ人だった。
いろいろ言われてるのはニホンも知ってると思うけど、ニッテイおじいさんの人生がいい人生だったのか、悪い人生だったのか、
それはおじいさん以外、きっと誰にもわからないことなんだと思う。他人の人生は、その人と関わった経験の中でしか判断できないことだからね。
そして、いいか悪いかは別にして、ニッテイおじいさんはアメリー君のおじいさんやエリザベスちゃんのおばあさんと
真正面からぶつかって力の続く限り殴り合った。
歯が折れて、ツメがはがれて、腕が折れても、小さな体を闘志だけで支えて、おじいさんは殴り合いをやめなかったんだ。
自分の意思で自分の道を歩んできた人だったから、最後まで自分の意思を貫いたんだとパパは思う。
最後は、まだ小さかったパパまで殴り殺して、日の本家を町内から消してしまわなきゃどうしようもないってみんなに思わせたくらいに凄絶だった。
ニッテイおじいさんの、あのケンカを知っている人たちは、
「パパの中にもおじいさんの血が流れてる、いつかきっとあんなふうに暴れ出して、手に負えなくなるんじゃないか」って心配してるんだよ。
それだけのことで本気になって怯えている人たちだっているくらいなんだ。
考えてごらん?そんなふうに思われてるパパが、カンコ君のお兄さんみたいに、
何かあるたびにナイフをちらつかせてたら、きっとみんなパニックになっちゃうと思わないか?
そんなパパだったら、ニホンは学校でみんなにどう思われる?
だからパパは腕力を使わないし、使うそぶりも見せない。
今は「ニッテイおじいさんの血を引いている」っていうだけで充分なんだよ。
おじいさんが残してくれた大きな遺産のひとつを、上手に使わせてもらってるってわけさ。」
そういってパパはウインクして見せた。
ちょっと難しいけど、パパの本当の優しさがわかったような気がした。
イーグルとこんごうのアタマをなでながら
「それに...本当に強い犬は無駄に吠えたりしないんだよ、なぁイーグル、こんごう」と言うパパ。
パパに名前を呼ばれて、イーグルとこんごうは嬉しそうだった。
だけど、イーグルもこんごうも、お座敷犬のようにベタベタとじゃれついたりしない。
控え目にシッポをちょっと振ったきり、鋭い目で遠くを見ている。子犬だったころに比べて、最近、ちょっとたくましくなってきてる。
そんなイーグルとこんごうを優しい目でみながら、夕焼けに染まった横顔を私に向けたまま、パパはぽつりとこう言った。
「でもねニホン。もしもニホンが誰かに本当にひどい目に遭わされそうになったら、
その時はパパは容赦しない。おじいさんの血を受け継いでるってことを、しっかりとそいつに教えてやるさ」
そう言うとパパは、まるでつまらない冗談を言った後のように、恥ずかしそうな顔をして笑った。
イーグルとこんごうは、そろって一声だけ吠えた。
川を渡って吹く風は、もうすっかり冬の匂いがした。
私はパパに誰よりも愛されてるんだって思った。
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(*^ー゜)b Good Job!!
(^_^) 並
( -_-) がんばりましょう
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