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第2139話 シュタイナー 投稿日: 05/02/01 01:12:23 ID:ffQ7+rxR
「カニバリズム」

 犬の散歩。
 地球町の家々は、たいてい番犬とか猟犬を飼っています。

・日ノ本家の場合
「いくよ!」
 ニホンちゃんはそう言って、家を飛び出しました。日ノ本家の番犬、イーグル
とエフツーの散歩に出かけます。時間は町内の平均ほど。番犬にとっては丁
度いいくらいです。でも元気一杯の二匹は、本当のところもっと連れて行って
欲しいなと思っていたのですが、二匹とも心優しいので吼えたりはしません。そ
れに、あんまり散歩に行くと喉が渇いてしまうのです。
「家には犬用の水筒が無いから……」
 ニホンちゃんはそう言います。犬用の水筒があれば、イーグルとエフツーの
散歩時間を伸ばすことが出来るのです。
 今まで日本ちゃんは、カンコ君やチューゴ君が文句を言ってくるので犬用
の水筒を持っていなかったのです。
「でも、やっぱり買うことにしたんだ」
 そうです。ニホンちゃんは遂に犬用の水筒を買う決意をしました。
 イーグルとエフツーが喜べばいいですね。
・アメリー家の場合
「いくぜ!」
 アメリー君はそう言って、家を飛び出します。犬の散歩です。手に持った
リードの先には、イーグル、ファルコン、ホーネットがいました。
 アメリー君の散歩時間は町内一です。おかげで彼の飼い犬たちは元気一
杯、これでいつ狩りに行くことになっても大丈夫だと、アメリー君は言います。
もっとも彼が狩るのは、他人の犬なのですが……。
「いや、こいつら猟犬だし。それが必要な時もあるし……」
 そうなのです。イーグル種は、日ノ本家では番犬として使っていますが、本
来は猟犬なのです。まぁアメリー君にとっては、たいした違いは無いのですが。
 それにアメリー君には、せっかく苦労して作ったラプターが余り増やすなと
釘を刺されたり、ジェーエスエフの交配が上手く行かなかったりと、苦労の種
が絶えないのです。
 アメリー君はそれを忘れようとするかのように、我武者羅に散歩をします。

・カンコ君の場合
「言ってくるニダ」
 カンコ君はそう言って、家を飛び出します。もちろん犬の散歩です。カンコ
君が飼っているのは、どちらもアメリー君からもらったファルコンとタイガーで
す。
「ニダ!? イーグルもあるニダ!」
 ええ、そうです。予定はしていますね、予定は。
 カンコ君は普通に犬の散歩をします。別においしそうな眼で見るとか、鉄
の箱にぎゅうぎゅうに詰め込んだりとか、そういうことはしません。
「いくらウリでも番犬や猟犬にそんなことはしないニダ!」
 なるほど、カンコ君にも常識はあるようです。ちゃんと水もあげていますし、
餌も欠かしません。もちろん、手入れも。うん、意外ですね。
 カンコ君、釈然としない様子で散歩をします。
・チューゴ君の場合
「言ってくるアルよ」
 チューゴくんはそう言って家を飛び出しました。散歩です、はい。チューゴ
君は結構な時間散歩します。ニホンちゃんより長い時間ですから、犬もさぞ
喜んでいるでしょう。
 おや? チューゴ君一匹しか犬を連れていませんね。
「う、家には全部の犬をいっぺんに散歩する余裕なんて無いアルよ」
 そう言ってチューゴ君は、フランカーの散歩を続けます。
 チューゴ君、フィッシュベットやファーマーが悲しそうな顔をしていますよ。

・キッチョム君の場合
 ………。
 おや? キッチョム君、家から出てきませんねぇ。
「う、煩いニダ!」
 キッチョム君は叫ぶように言うと、犬をちょっとだけ外に連れ出し、すぐに
家に帰ってしまいました。もしかして散歩のつもりでしょうか? 犬が余りにも
かわいそうです。自分の引き篭もりに犬も巻き込んではいけませんね。
 いえ、彼の場合は犬を食べてしまわないだけまし……って、キッチョム君。
犬たちが共食いしてますけど……。
「ああ、何してるニダ! やめるニダ!」
 キッチョム君、慌てて止めに入りますが、もちろん引き篭もりの彼がやせ細
っているとはいえ猟犬であるファーマーやフィッシュベットにかなうわけがあ
りません。
「あ……ああ……」
 キッチョム君、目の前の惨劇をただ見ていることだけしか出来ませんでし
た……。
「……なぁラスカ、苦しいから手を離してくれ」
「だってだって、怖かったんだもん」
 三年地球組みの教室で、生徒たちはビデオを見ていました。“犬の散歩”
という教育番組だったのですが、一体何を教育したいのか全く理解できませ
ん。
 ビデオを見せたのはハプスブルク先生。ですが、ちょっと選択を間違った
かなと思っています。最後の方のシーンが余りにショッキングで、泣き出す子
が大勢いました。ラスカちゃんなどが筆頭です。おかげで隣のウヨ君が困る
羽目になりましたが。
「やっぱり私、教師に向いてないのかなぁ……」
 ハプスブルク先生は目の前の惨劇を見て、ぼそりとそう言いました。完全に
脱力しています。というか、むしろ彼女の方が泣き出しそうです。
 しかしながらこんな教室の中にも、平気な顔をしている人もいました。いえ、
「やはり家ももっと散歩時間を長くして……うん、水筒の使い方はアメリー家か
ら教わってるから……ラスカ、それ以上いくとマジでヤバイから」
 とか呟いてるウヨ君だって、全然平気な顔をしているわけではありません。も
っとも、平気で無い理由は別にあるかもしれませんが。
 平気な顔をしている子は、教室の隅にいました。本来ならアラブ組にいるべ
きペルシャちゃんでした。
「共食い、ね」
 ペルシャちゃんは自分の家の、昔アメリー家から買ったトムキャットを思い出
しながら呟きました。

解説 シュタイナー 投稿日: 05/02/01 01:21:13 ID:ffQ7+rxR

元ネタ……というかまぁそういうのは、
見て判ると思いますが各国空軍の状況です。
散歩時間->年平均飛行時間 水、餌、手入れ->燃料、整備
一応解説しますと、

・日本
 今度空中給油機を導入するというのでそれを。

・アメリカ
 F-22Aラプターの調達数減少、JSFの遅延を。エリザベスちゃんを出せばよかったかな?

・韓国
 F-15Kイーグルを導入するそうですね。でも、資金的に不味いとか……。

・中国
 Su-27飛行隊の飛行時間だけ長くて、他のはおざなりだそうです。

・北朝鮮
 燃料も無く、整備も行き届きません。共食い整備が始まっています。

おまけ
・イラン
 帝政時代に購入したF-14は共食い整備でやばい状態だそうです。
>>68

言葉足らずでしたので解説。

・共食い整備とは・
 予備部品が欠乏した空軍で、時代に関係なく起こる一種の現象。
 状態の良い機体を必要最低限選び出し、それ以外の機体は予
備部品として使用してしまう整備方法。
 言うまでも無く、練度が良く士気が高く、補給が充分な部隊では
発生しないことです。故に、これが起こる=その国がヤバイです。

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