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第2172話 青風: ◆BlueWmNwYU 投稿日: 05/02/28 02:11:00 ID:Ug27R6Ej
「空想特撮シリーズ ウルトラニホン 第4話 勇気の対価」

 しゅごごごごごぅ
その白い熱風が吹き付けられるたび、レオパルド3の各所が悲鳴を上げる。
特殊コーティングされた装甲は無事でも他の部分は既に深刻なダメージを受
け、擱座したまま全ての武装が沈黙している。
「い、いやだぁ、もう沢山だぁ!」
閉塞感に耐えきれなくなったネーデルが無線機の向こうで絶叫する。
「あ、安全な任務の筈だったろ?あの化け物を町から遠ざけて、本隊に誘導
して叩くって!あいつの脚じゃ絶対に追いつかれない筈だったろ?」
その筈だった。しかし、全くの突然に切れる筈の無いデータリンクが断絶し
同時に動力系と操縦系が沈黙。そこへあの”化け物”シュバルツバルト
が追いついてきた。後は奴の武器”白い息”に蹂躙される一方だった。
時間にして30分は経たない位だが、閉塞環境で晒される死の恐怖にニホン
と特にネーデルの精神は限界に近づいていた。
「おい、ニホン!”彼女”を呼べよ、あの大きな女神様をよぉ!」
すがる様な声を黙って聞くのはニホンにとっても辛い。
彼女自身、何度も”光の巨人”になろうと試したのだ。
どうやら、変身する為の重大な条件が欠けているらしい。
「もうすぐ皆が来てくれますよ、異常事態は把握している筈だし」
幾度目かの言葉で相手を落ち着けようとするが、パニックに陥っている相手
にはあまり効果が無い。
このままでは共倒れだ。
そう思った彼女は、有る決断をした。
「ネーデル隊員、私が囮になります」
はっ、と息を呑む音が無線の向こうから聞こえた。
「防護服を着れば、あの”白い息”の酸や熱にも充分耐えられますよ。
それで一方が囮になって、もう一方が通信の回復する処まで云って本隊を
呼びましょう」
「お前を犠牲にして逃げるなんて、そんな真似が出来るかよ。確かに俺は」
と、言いかけるネーデルにニホンが言葉を繋げる。
「自己犠牲とかじゃないですよ。一刻も早く本隊に連絡しなきゃ
 ならないんですから」
重い沈黙の後、すまない、と通話の相手が呟くのを聞きながらニホンは防護
服の装着を始めた。

 ずぎゅん ずぎゅん
分厚い防護服を通しても小型荷電粒子砲の反動はニホンの肩には堪える。
取り敢ず此方に注意を向けるのには成功しているが、緑色の弾力性の有る
表皮に遮られてダメージは与えられていないのが口惜しい。
巨大な水牛にもトカゲにも似た巨体を振り返りながら、
「止まっちゃ駄目だ、出来るだけ遠くへ引き離さないと」
と、呟き走り続けるニホン。
パワーアシスト付とは云え、走るのに体力が要らない訳ではない。
ぜぇっぜぇっぜぇっ
体力の限界も近い。突然の咆吼に驚いて振り返ると”怪獣”が
無数に牙の生えた紫の口腔を広げて居るのが見えた。
怪獣が吐き出した白い息が辺りの森林を一瞬でどす黒く染めたのと同時に
圧倒的な光輝が辺りを支配した。

 一瞬で光は人の姿になった。
付きだした左掌に出現する円形の見えない盾が全ての白い息を遮っている。
ぐおおぅ、と威嚇の声を挙げる怪物。意外なスピードで巨人に突進する。
側転して是を避け、立ち上がると両手に光の剣を出現させ滑る様に地を走り
怪物に近づく巨人。すぱっと怪物の胴体を深く切り裂く。
断末魔を挙げる怪物。其の儘大勢が決するかに見えた。
が、突然怪物は首を伸して巨人の左腕に深く噛みついた。
光の剣が消滅し、声にならない悲鳴を上げる巨人。
 そのとき、怪獣の右目に彼方からの着弾が有った。
苦鳴と共に口を開け、巨人の肩を離す怪物。
この隙に左掌から光の槍を引き出し、怪物に突き立てる巨人。
怪物は一瞬で光に浸食され消滅し、後には黒く変色した森だけが残った。

 「随分と無茶をするんですね」
遠くに聞き覚えのある声を聞きながらニホンはいぶかしむ。
あれからどうなったんだっけ?私、怪獣に噛まれて怪我をした筈。
そう思いながら自分の左腕を見ると既に治療済みであった。
漸く、自分が馬上の男に抱きかかえられ、中空を移動している事が判った。
「男爵、さ、ん?」
「人事を尽くさない者に天命を願う資格はない。とは言え、今回の件は
命をかけるまでの価値が有りましたか?あの男、そしてあなたの町に」
ニホンは答えない。
「それとも、誰かに頼まれたのですか、町を助けてください、って?」
暫く考えてから、ニホンは一気に答えた。
「町には一杯人が居ます。みんながみんな良い人じゃないかも知れないし、
命をかけても感謝もしてくれないかも知れない。それでも、いえ、そんな当
たり前の人達が住む町だからこそ護る価値があるんだと思います」
ほう、と感嘆の溜息を漏らす男爵。
「慈愛に満ちた言葉、と云うべきか。まぁ、良いでしょう。
願わくば何時までも其の気持ちを忘れないで頂きたいものだが。
さぁ、もうすぐ弟さんや仲間の居る場所へ着きますよ」
二人を乗せた白馬は、今地上へ舞い降り始めた。
 「あぁ、無事で良かったダス」
真っ先に駆けつけたのは意外にもオージーだった。彼はネーデルが信号を
送信した時点で、命令を待たずに自分のレオパルド3にリンクしている自走
砲車群と共に駆けつけて来たのだった。
「ウチの羊たちの敵を討ってくれたお礼をしたかったんダスよ。
尤も、良いところは大きな女神様とこっちの女神様に取られたダスが」
「そう、この人が最後に怪獣の目を狙撃して”光の巨人”を救ったんだ」
ウヨが示す先には髪の長い、涼やかな瞳の少女が居た。
「エリザベス、と申します。失礼ですが、蛮勇と勇気の区別はご存じ?」
言葉の冷たさと裏腹に、表情には暖かいものがある。
ねぇ、男爵。少なくとも私の仲間には護る価値が有るかもよ。
そう心の中で男爵に語りかけるニホンだった。

*******************************************************************

「ねぇねぇ、ウヨ君」
「何だよ、姉さん。いま忙しいんだったら。この、この、このぉおお!」
アクションゲームに夢中のウヨ君は、ニホンちゃんの言葉に
耳を貸すゆとりはありません。
「おい、こらぁ、ウヨ!」
ぶちんと、ゲーム機の電源を引き抜くニホンちゃんです。
「あ、あぁぁああああ、最終面だったのにぃ・・・」
ウヨ君の悲鳴を余所にニホンちゃんは自分の用事を話し始めます。
「この間さぁ、鏡に映った私が左手を振って微笑みかけてきたのよ」
「そりゃ、自分も手を振ったからでしょ」
「うん、振ったよ。左手を」
「・・・・・・・・えっ・・・・・・・・」

解説 青風: ◆BlueWmNwYU 投稿日: 05/02/28 02:28:28 ID:Ug27R6Ej
後書き、云い訳、のようなもの

遅筆、長文の青風でございますだ。
今回は>>287さまのご依頼に基づき
イラクのサマワに於けるネーデル君引き上げと
エリザベスちゃん及びオージー君の援軍の
話をウルトラニホン世界で遣ってみました。

ちょっと、其処のあなた!
そう、あなたですよ。
今、石を持ちましたね?
私に向けてぶつける為の石を持ちましたね、
と云って居るんですよ、聞こえましたか?

ご免なさい、私が悪う御座いました。

石の代りに御批評を投げて頂けるとうれしいな、
なんて思ってご免なさい。

そうそう、今回の怪獣シュバルツバルト=黒い森
ですが、この辺をご参照下さい。

ttp://contest.thinkquest.jp/tqj2001/40419/yes/sanseiu/

では、また、出来れば近いうちに ノシ

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