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第2633話 U-33 ◆JOCEixq6zU 投稿日: 2006/11/24(金) 00:43:31 ID:SGVtDFTV
『節義のために』

 学校からの帰り道、チェ子ちゃんは花屋さんで花束を買い求めて、町外れの病院に向いました。
「ベラおばさん、今日は気分はどうですか」
 チェ子ちゃんは病室に入っていくと、ベッドの上で上体を起こしている上品な婦人に声をかけました。
でも、彼女は無表情のまま、無言でチェ子ちゃんを眺めているだけなのです。
 実はベラと呼ばれた婦人は心の病を患っていたのでした。
「お花を取り替えましょうね」
 チェ子ちゃんが手を伸ばした花瓶のそばに、レオタード姿の少女の写真が飾ってありました。
 それはベラおばさんが体操の選手だった小学生時代、それまで校内体育大会で常勝だったロシアノ家の
娘を破って初優勝したときのものでした。

 でも、栄光を手にしたベラのその後の人生は苦難の連続でした。
 次の大会の直前、彼女たちの家がマル教から抜けようとしたところ、ロシアノ家の人たちやシュタじーさん
たちが家に乗り込んで来て、服従を強要したのです。
 その大会に、ベラは黒いレオタードで出場しました。それは、無言の抗議のしるしでした。
 その後も彼女はロシアノ家の横暴に屈しなかったので、常に嫌がらせを受け続けました。
 そしてロシアノ家が没落し、ようやくベラたちの一家がその支配から解放されて平穏な日々が始まったかに
見えたとき、家庭の不幸が彼女の精神の平衡を奪ったのでした。

 チェ子ちゃんは答は返ってこなくてもベラさんに優しく話しかけ、髪の毛をとかしたり果物をむいたりして
かいがいしく世話をしました。
 お見舞いを終えて家路につくチェ子ちゃんを見たナースステーションの看護師さんが声をかけました。
「あなたも感心ねえ。あんなに色々としてあげて」
 チェ子ちゃんは答えました。
「いいえ、あの人が私たちにしてくれたことに比べればどうってことはないです。彼女は、正しいと思ったことの
ためには、節を曲げないで生きることを教えてくれたのですから」


(ソース)
激動の時代を生きた美しき魂の軌跡。
http://number.goo.ne.jp/others/20040812-book.html

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