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第13話 polestar 投稿日: 02/05/31 22:08 ID:qoMEY+5G
「極北のメリークリスマス」

chapter1 「うるせえ、ダボハゼども!」

「♪真っ赤なお鼻のトナカイさんは……」
イルミネーションに飾られた街角をクリスマスソングが流れます。木枯らしが吹きつけながら、街の空気は
どこか華やかでした。
「♪今日もみんなの人気者……」
ぐいっ。
ロシアノビッチ君はウオッカを呷りました。
ここロシアノビッチ家の居間にも商店街のクリスマスソングは大音量で聞こえてきます。
埃だらけのテーブルに薄暗い照明。調度もほとんどないうすら寒さは華やかな街角とは対照的でした。
こぽこぽこぽ……。
ウオッカをなみなみと注ぐと、また一口で流し込みました。
クリスマスソングは段々大きくなるようです。
グラスを握る手が震えだしました。
「♪ジングルベルジングルベル、鈴が鳴る……!」
「うるっせえええあッッッ!!!」
空っぽのグラスが、薪もない暖炉に叩きつけられました。グラスはマントルピースに当たって砕け散ります。
「うるっせえんだボケナスどもっ!! 猫も杓子もこの時期になると大騒ぎしやがっててめえら馬鹿かッ! 
貧乏人にはクリスマスなんざ関係ねえんだよっ!!」
「お兄ちゃあん、グラス割らないでよお」
足元から小鳥のような声がしました。
栗色の髪の少女が割烹着姿でちゃぶ台に正座しています。ちゃぶ台には無数の封筒が並べられていました。
「うちにはお金がないんだもん、仕方ないよ。この内職が終わったらお金が入るはずだから、みんなでロシア
ンケーキでもたべようよ。私が焼いたげる」
少女は指を折って日付を数えました。
「えーと、来年の七日くらいになるかな? うちのクリスマスはそれまでお預けね!(注:ロシアのクリスマ
スは一月七日)」
「ウクライナ……。何だその格好は?」
「カッポーギ。内職先のおじさんがくれたの。裾がひらひらしなくていい感じよ」
「ロシアンケーキか……」
ロシアノビッチ君は我が家のケーキを思い出していました。かりかりに焼いた小さな小麦粉の地にチョコをま
ぶしたものです。ケーキというよりクッキーで、クリスマスにたべるものとしては寂しさを否めません。
「その内職で幾ら入るんだ?」
「えーとね、十ルーブル」
「十! それじゃ年も越せねえ」
「大丈夫よ。質屋のおじさんに私の外套(シューバ)を預かってもらったもん。お餅くらい買えそうよ」
「質屋……!! だから最近外出してないのか」
「大丈夫だってば。用事のあるときはベラルーシちゃんの外套を借りるから」
「むむむむむ…………」
ロシアノビッチ君は真っ赤になって腕組みをしました。
「お兄ちゃんもお酒をもうちょっと控えてくれるとウクライナ嬉しいんだけどな。うちの男の人がお酒を大好
きなのは判ってるんだけど……」
話しながらウクライナちゃんは封筒を作っていました。じつに手馴れています。
彼女は駄目な兄の酒代を稼ぐため、内職に精を出す毎日なのでした。
「むむむむむ……よっしゃあっ!!」
ロシアノビッチ君は気合を入れると立ち上がりました。
「きゃっ!?」
「ウクライナ! 俺の外套を持って来いっ!」
「あ、はいはい」
兄貴関白のロシアノビッチ君は、妹の持つ外套に袖を通しました。
「どこ行くの?」
「アメリーんちのパーティーに行ってくる。招待状を貰ってたのを思い出した。……あのバカのことだ、どう
せド派手にドンチャカ騒ぎをしてるんだろう。せいぜい愛想よくして、料理のお裾分けを貰ってきてやる。チ
ビどもに楽しみに待ってろと伝えとけ。お前にも七面鳥くらいくわせてやるぞ!」
「え、え? いいよそんなの」
「遠慮するな。腹空かして待ってろよ!」
招待状を引っ掴んで、ロシアノビッチ君は冬の街に飛び出していきました。
chapter2 「凄えな、こりゃ」

クリスマスのアメリカ街は光の洪水です。
カラフルなイルミネーションに空まで埋まり、その非現実的な華やかさにロシアノビッチ君は目が眩みそうでした。
通りの左右には趣向を凝らしたファッションビルや高級ブティック、宮殿のような宝石店やデパートが軒をつ
らねています。冬の装いの男女はもちろん、浮浪者まで垢抜けて見えるのが癪でした。
「けっ、けっ」
舌打ちしながら歩きます。勝手にやってろ、と思いました。
市街地が途切れました。常緑樹の森を散歩道が続きます。
郊外に出たのではありません。アメリカ街の中心のこの一帯が、まるごとアメリー家の敷地なのです。
左右に自動車が並んでいます。アメリー家のパーティーに招待された人々でしょう。
小高い丘を越えると、そこは白亜館――通称ホワイトハウス――です。
「んぐあっ……!!」
丘の上から広大な中庭を一瞥した途端、口を開けて絶句してしまいました。
「な、何だよありゃあ……」
無数の高級車の並ぶ中庭の中央に、巨大な、本当に巨大なツリーが君臨していました。
直径だけで、じつに中庭の半分近くを占めています。人間が蟻のようにしか見えません。地球小学校はもちろん、
その校庭まですっぽり幹に収まりそうです。
その高さときたら、どれほど目を凝らしても頂上が見えません。どうやら夜の雲のうえに消えているようです。
きっとてっぺんには天使が羽を休めてるぜと、ロシアノビッチ君は思いました。
なにより圧倒されるのは、それまでイルミネーションで飾られていることでした。
おそらくヘリコプターを駆使したに違いありません。地肌も見えないほど密集した電球が視界の続く限り天まで
伸びています。電球はたえまなく色を変えるのですが、幹の変化に比べて枝や梢の変化のほうがよほど早く、聳
える光の巨柱に虹がまとわりついているようでした。
ぽかーんと口を開けているところへ、アーリアちゃんがやってきました。
「はっはっは、驚いてるな! あれを見た連中は申し合わせたように口を開けるから面白いよ!」
「なんだよ、あのお化けツリーはよ……」
「世界樹(ユグドラシル)。我が家の敷地のはるか奥に聳える、伝説の巨木さ。正確にはあれは世界樹の小枝が
根を張ったものだ。本物の世界樹は異界を貫くほど巨大だったという」
「自重で潰れたりしないのか?」
アーリアちゃんは肩を竦めました。
「その辺の仕組みは判らんさ。神話の産物に野暮は禁物だよ。ともかく壮大なものだろう? アメリーに頼まれて
貸してやったのだが、その甲斐があったというものだ」
「世界樹……とすると、あれはトネリコなのか……」
三角錐の樅の木とは異なり、このお化けツリーは真ん中がふくらんで、ダイヤ形に枝を張っています。北欧神話の
神樹、ユグドラシル。まさかそれをツリーに仕立てるとは思いも寄りませんでした。
「一夜の座興にここまでやるとはなあ……」
しみじみと溜め息をつきました。
世界樹を輸送して飾りつける財力。アメリカ街のど真ん中に世界樹を置いて、なおパーティーを開けるほどの敷地
を有するアメリー家。何もかもが桁外れでした。
「俺んちは負けたんだなあ……本当に……」
頭を振ると、アーリアちゃんがどんっ、と背中を叩きました。
「何を暗くなっている! アメリーは私たちを楽しませるためにここまでしたのだぞ? なら素直に楽しむのが招
待客の礼儀というものさ。さあ行こう、地球組の連中はみんな招待されている」
「ああ……」
追い立てられるヒグマのように、ロシアノビッチ君はホワイトハウスに降りていきました。
chapter3 「俺を見るなウクライナ」

子供用のパーティールームは、人いきれで充満していました。赤々と燃える暖炉。無数に並ぶテーブルにどこまで
も補充される料理。
「ロシアノちゃあ〜〜ん! めりいくりすますう〜〜」
タイワンちゃんが抱きついてきました。頬が真っ赤に染まっています。
「う〜〜んお酒くさい。ダメよお〜、小学生がお酒飲んじゃあ〜〜〜」
「それはお前だ。おい、誰だこいつに酒飲ませたのは!」
「ごめ〜ん、私……」
ニホンちゃんがそろそろと手を上げました。
「だってシャンパン一杯で酔うなんて思わなかったんだもん……」
「ったく。目え離すなよ!」
しがみつくタイワンちゃんを押しやります。長居は出来ません。腹を空かせた弟妹たちが待っています。
持参した麻袋を広げると、堂々と料理を投げ込みはじめました。
七面鳥の丸焼き、ニンジンのキャセロールに骨付きハム、クリスマス・プディングにブッシュ・ド・ノエル……。
片っ端から皿を空けます。肉もケーキもごちゃ混ぜでした。
「ロシアノビッチ君、何やってるの?」
ニホンちゃんが小首を傾げました。
「ん? まあ気にすんな。聖夜の夢だと思って忘れろ」
やがて麻袋はサンタクロースよろしく膨れ上がりました。
「こんなもんでいっか。さあ帰るべ。……じゃあなニホン、アメリーには宜しく言っといてくれ」
麻袋を背負って帰ろうとすると、背後から「ロシアノビッチじゃないか!」という陽気な声がしました。
「んあ……。アメリーか」
「メリークリスマス! なんだあ、袋なんか担いじゃってサンタの仮装か? 思ったよりノリがいいなあ!」
ロシアノビッチ君は手を振りました。
「んあ……。気にしないでくれ。俺はそれなりに楽しくやってるから」
「酒もやらないで? 楽しく? 珍しいこともあるもんだ!」
アメリー君は上機嫌でした。
「お前を探してたんだ。親父のホームバーから高そうなプランデーを持ってきたんだけどさ、すごく苦くて誰も飲め
ないんだよ。ロシアノビッチなら平らげられるんじゃないかって思ってさ。どうだ? ちょっとやってみないか?」
「ブランデー?」
ロシアノビッチ君の肩がぴくりと動きました。
「ああ。なめただけで胃が燃えそうになる。やってみないか?」
「う、う〜〜む」
視線をせわしなく麻袋とアメリー君の顔に左右させます。夕食の時間はとうに過ぎています。帰る時間も考えれば、
今すぐにでも出なければなりません。
「なあに、お前ならあっという間さ。手間は取らせないよ。ほんの十分くらいでいいから」
「十分か……。まあ、それくらいなら……」
あくまで断ればアメリー君も納得しないでしょう。それにここまでやってきた自分にご褒美をやってもよい。
そんなことを考えながら麻袋をテーブルの下に蹴り込んで、ふらふらとアメリー君についていきました。
そして十分後。
見事に出来上がった酔っ払いが、テーブルに足を乗せて管を巻きまくっていました。
「がっはっは!! もっと酒はねえのか? おうベトナ、酌しろ酌。お前は酒場の女にぴったりだぜ。おっとっと、
こぼれるこぼれる……って、こりゃシャンパンじゃねえか! ばっきゃろー、もっと強い酒を持ってこーーい!! 
憂き世の憂さを忘れるような、頭にドカンとくるような強烈な奴をなあッッッ!!」
シャンパングラスをベトナちゃんに投げつけてふんぞり返りました。
「んあ? 憂き世? 何か忘れてるような……」
眉間にしわを寄せても、泥酔した頭脳は白い靄にかすんだままでした。
「まあいいや、あとで考えよう」
「お替りね。ちょっと待ってて……」
アオザイをなびかせて、ベトナちゃんはパーティールームの奥に消えました。
「おうカナディアン! お前はこれ書いてる馬鹿が初登場させたって知ってっか? 影が薄いながらもここまで長生き
してくれて本当に嬉しいぜっ! ひいーっく!!」
「何を言ってるのか判らないよ」
「おうおうゲルマッハ! おめえ妹登場以来ちっとも出番がねえじゃねえかっ! 妹の腰巾着かお前は、あーーん?」
「うわーーん!!」
ゲルマッハ君は涙を溜めながら走り去っていきました。
「おいチューゴ! おめえ『アル』って語尾につけるのやめろ! ナマズ髭の道士みてえだぜっ!!」
「大きなお世話だ。俺は性格付けが難しいらしいな」
「おいエリザベス! おめえ何気にカナディアンより目立ってねえぞっ!! ここ百話くらい登場してねえんじゃねえ
かーー!?」
「キャラがかぶってるから……」
「それよりなにより、アメリー!!」
びしりと、今夜のホストを指差しました。
「おめえ未だにキャラが固まってねえぞっ!! 自分じゃほとんど動いてねえじゃねえか。番長としてそんなことでい
いと思ってるのかーーーッ!?」
「おれを書くなんて当たり前すぎて、敬遠されてるようだな」
酔いどれの暴言は留まるところを知りません。一堂がニホンちゃん世界崩壊の危機を感じ出したとき、大量の冷水がロ
シアノビッチ君の頭にぶちまけられました。ずぶ濡れの酔眼に、バケツを抱えたベトナちゃんが映ります。
「ドカンときた?」
「このアマッ!!」
掴み掛かるのを周囲が止めます。
「離せえっ! こういうアマはな、一発ぶん殴ったほうが素直になるんだ!」
じたばた暴れる彼をみんなは抱えあげて、「頭を冷やせ」といってバルコニーに投げ出してしまいました。
「ちっくしょーっ! ひとを荷物みたいに!」
喚いても一人です。冬の星空にだみ声が吸い込まれていきました。バルコニーのドアには鍵がかかっています。蹴破っ
てもいいのですが、流石にそこまでする気にはなれませんでした。
「まあ、そのうち開けてくれるか」
寝転んで夜空を見上げます。火照った頬を北風が撫でました。
真珠をまいたような星空。南西の空にやや膨らんだ上弦の月が掛かっています。赤から蒼白まで、色とりどりの恒星が
瞬いています。
(そういや羽振りの良かった頃、親父が星座を教えてくれたことがあったな。『冬の星座は最も美しい』とか言ってたっけ)
シリウス、リゲル、ペテルギウス、プロキオン、アルデバラン……。
東に輝く冬の恒星。視界は満天の星空に占められています。
(この空は地球町のどこにでもつながっているんだなあ)
と思うと、身体がふわりと浮かび上がり、透明な揺りかごに乗って空中を漂っているような錯覚にとらわれました。
(あの星は……なんつったっけ。北極星の見分け方なら憶えてるんだが)
父親の教えもほとんど忘れてしまっています。ほんの昨日のようなのに、良き時代は着実に遠ざかりつつありました。
(あの頃は良かったなあ。使用人が一杯で……。姉貴もいたし)
遠い街から仕送りをしてくれる姉。どうやら娼婦に身を落としているらしいことは公然の秘密でした。
(姉貴、帰ってきてくれよ。恥ずかしがることなんかねえんだぞ。四の五の言う連中は俺がぶっとばしてやるから……)
(ん……?)
胸の奥を刺すものがありました。何か忘れている、大事なことを放ったままにしているという焦燥感。
「んーーっ?」
手を額に当てます。冷たい風に吹かれて、泥酔もさすがに醒めかけたその時。
どがっ!
視界を横切って、ワイヤーがホワイトハウスの壁に突き刺さりました。先端が銛のようになって目標に刺さるようになっ
ています。
「あん?」
ワイヤーの伸びるほうに目を凝らすと、黒づくめの影が二つ、手持ち滑車を使ってロープウェイのように滑ってくるのが
見えました。
影は壁を蹴って勢いを殺すと、バルコニーにふわりと降り立ちました。
黒覆面に黒のジャケット、革ズボンに軍用ブーツ。
特殊部隊のような剣呑な威圧感です。謎の二つの影は、バルコニーのドアを息を潜めて窺いました。
「ようっ!! ニンジャさん。クリスマスっつーのにお仕事ごくろーさん!」
後ろからいきなり響いたバカ声に目立って飛び上がります。振り返ると、ロシアノビッチ君が身体を起こしているのが
見えました。目配せをすると、二人は足音を殺して近づいてきました。
「ん〜〜?」
朦朧たる酔眼に、短機関銃の銃把を振り上げるニンジャの姿が映ります。
どがっ。
ロシアノビッチ君は、自分の頭蓋に鈍い音を聞くと、昏睡の闇に沈んでいきました。
Chapter4 「俺様の邪魔をするんじゃねえ」

轟音とともにバルコニーのドアが蹴破られました。流れ込む冷気。その中心には黒づくめの二人の男が立っていました。
「…………?」
怪訝な表情の一堂を威圧するべく、先頭の男が天井に向かって短機関銃を乱射しました。
ポップコーンの弾けるような発射音。天井の破片がパーティールーム中に降り注ぎます。
「うわっ!?」
「きゃあっ!!」
騒然たるパーティールームを駆け抜けて、侵入者の片割れがバルコニーの反対側のドアをふさぎました。
「静かにしやがれガキどもっ!」
バルコニーにとどまった方が叫びました。
「アメリー、ニホン、ドイツ、フランス、イギリス、イタリーのガキどもは一歩前に出ろ!」
「ニンジャに招待状は出してないがね」
アメリー君が肩をすくめました。
「おうおう、度胸のあるガキは好きだぞ。だがな」
暴漢の握り拳が、アメリー君の鳩尾(みぞおち)にめり込みました。
「ぐおっ」
「……人質には不向きだぜ」
固形化したような咳にむせながら、アメリー君はくずおれました。
「人質、だと?」
「ああ、そうさ。お前らは全員人質だ。身代金が届くたびに一人づつ解放してやるよ。……幾らになるかな。馬鹿でっか
いツリーにぶら下がって、寒いのを堪えていた甲斐があったというもんだぜ!」
「人質を盾に立てこもる気か……」
膝をついたまま、アメリー君は暴漢を睨みました。
「馬鹿が! そんな真似、成功すると思っているのか!?」
「やってみなきゃわかんねえさ。上手く行きゃ一攫千金だ。……ああそうそう、逆らおうなんて考えないほうがいいぞ。
下手するとコイツみたいになる」
ドアの外に手を伸ばすと、頭を割られて失神したままのロシアノビッチ君を投げ込みました。
「ロシアノビッチ!!」
「おっと動くなって。これで判ったろ、俺らは本気なんだよ。さあ、さっき呼んだ連中は出て来い! 手元に集めさせて
もらう」
暴漢は短機関銃を振り上げて、怒号しました。
「タリバン! ドアをしっかり固めとけよ! 一人も逃がすんじゃねえぞっ!」
「判ってるよ。アル・カーイダの兄貴」
「アメリー、大丈夫か?」
アーリアちゃんが、アメリー君の顔を覗き込みました。
「アーリア、どんな知恵を思いついた?」
「うん?」
アメリー君はにやりと笑いました。
「お前のことだ。作戦を耳打ちするのが目的だろう?」
「ふん、お見通しか。つまらん」
アーリアちゃんは心配そうな表情を装ったまま、アメリー君に顔を近づけました。
「私が短機関銃の前に立つ――お前は何とかして、連中の注意を引いてくれ。一瞬でいい。素人の犯罪者など、物の数では
ないことを見せてくれる」
「それはいいが――」
アメリー君は、横目で侵入者の様子を窺いました。二人の侵入者の片割れ――タリバン――は、相変わらず廊下に続くドア
の前に立ち塞がっています。アメリー君を殴ったアル・カーイダは、そこから遠く離れたところで、人質を一点に集めてい
ました。
「制圧できるのは一人だけだぞ? ドアに立ってる奴はどうする」
「短機関銃を奪えれば抜き打ちで射殺してみせるさ。ニホンに私のこんな姿を見せたくなかったのだが……」
端正な顔に悲しげな翳がよぎったのも一瞬のことです。アーリアちゃんは表情を引き締めて振り返りました。
「では行くぞ。陽動、頼む」
「……気をつけろよ」
低声の励ましに、アーリアちゃんは軽く手を上げて応えました。
……ここまでです。続きは近日中にもアップします。

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