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第2話
三毛 ◆wPntKTsQ
投稿日: 2002/09/18(水) 22:08 ID:ROwYaUYo
オレの心の平安は、どこかへ旅に出たらしい。
三毛 Presents 「ニホンちゃん」外伝
「Still,I Love You」
第二話 Your Words
〜Side Uyo〜
翌日の通学路は、いきなり地獄だった。
姉さんは、案の定口をきいてくれない。お化け屋敷に連れ込んだことを、相当根に持っているようだ。おま
けに、「カンコみたいにいつまでも根に持たないでよ」なんて口を滑らせちゃったものだから、余計に態度が
冷たい。ああ………オレの馬鹿。
途中から合流したタイワンさんは、ユキとのことを根掘り葉掘り訊いてくる。……何故そんなに目を輝かせ
ているんですか。タイワンさん?
「タイワンさんこそ………昨日の首尾はどうだったんですか?」
小声で反撃してみる。………が、返ってきた答えは、想像通りのものだった。
「あはは、ダメだった」
あっけらかんと言われると、膝から力が抜けてしまう。なんだか、真面目に仲を取り持とうとしている自分
が、とんでもない間抜けに思えてしまうなぁ。
……そして、ラスカちゃん。アメリーさんと一緒に登校しているところに出くわして、挨拶してみたが………
ぷい、とそっぽを向かれてしまった。ことさらにオレを無視して、姉さんとおしゃべりしている。
アメリーさんからは、「多少の出費は覚悟しとけよ」なんて苦笑混じりに言われるし………散々だ。
一体オレが何をした?……………………いかん、心当たりがありすぎる…………。
つづき
〜Side Laska〜
私は、ニホン姉さんとほとんど中身のないおしゃべりをしながら、ウヨ君の様子を視界の隅で伺っていた。
ウヨ君は、悄然とした様子で、タイワンさんや兄さんにからかわれている。
ちょっと気の毒かな………と思わないでもないけど………私たちを放っておいて、他の女の子と遊んでる
なんて………いくら昔の知り合いでも、ちょっと酷いよ。だから、当分は許してあげない。
あ、でも、「三毛猫亭」のミックスパフェセット奢ってくれるなら、許しちゃおうかな………。
……………そういえば、私はなんでこんなに怒ってるんだろう?
私たちをほったらかしにしたから?………確かにそうだけど……。
ウヨ君と、あの女の子が一緒にいるところを見た時………なんだか、凄くイヤだった。
なんだか、ウヨ君が遠くの人になっちゃったみたいで………「お兄ちゃん」じゃなくなったような気がした…。
もちろん、それが子供っぽいやきもちだって、分かってる。ウヨ君が、ほいほいと女の子とお付き合いでき
る性格の人じゃないことも。
でも………やっぱり、どこか納得できない…………。
「ねーねー、昨日のあの子、ウヨ君のクラスに転入してくるんでしょ?楽しみだね〜」
「な、なに言ってるんですか、タイワンさん!」
ウヨ君をからかうタイワンさんの声が聞こえる。それを必死で否定するウヨ君だけど………満更でもなさそ
うな気がした。
イヤだな………今の私、すごくイヤな子になってる。疑り深くて、やきもち焼きで、へそ曲がり。
不意に、涙が滲んできた。何故、涙が出てくるのか、さっぱり分からない。いたたまれなくなって、私は駆
けだした。………………ううん、その場から逃げ出した……。
つづき
〜Side Uyo〜
いきなりだった。
姉さんといつものようにおしゃべりしていたラスカちゃんが、突然俯いて、駆けだしたのだ。
「ラ、ラスカちゃん!?どうしたの!?」
呼び止める姉さんの声に、彼女は振り返りもせずに叫んだ。
「私、用事あったの忘れてた!先に行ってるね!!」
その声だけを残して、ラスカちゃんは、オレ達の視界から消えていった。
「…………姉さん。なにか気に障るようなこと、言ったんじゃないの?」
「な、なにも言ってないよ〜!わたしだって、なにがあったのかよく分からないもん!」
ぶんぶんぶん、と激しく首を振る姉さん。いったい何があったんだろう?
と、そのとき。タイワンさんが、盛大にため息をついた。いささかわざとらしいほどに。
「……………なんですか、タイワンさん」
「いや、まぁね〜。えっと、ウヨ君も、もーすこし乙女心ってやつを勉強したほうがいいと思うよ、うん」
意味不明な台詞を吐いて、タイワンさんは沈黙した。
………………………………なんなんだ、いったい。
一年Earth組。ここがオレ達の教室だ。もっとも、みんな適当に省略して一年E組と呼んでるけど。
朝の、気怠く雑然とした空気が支配しているはずのそこは、なにやら浮ついた雰囲気に満ちていた。
鞄を机の上に放り投げながら、隣の席のヨハネと挨拶を交わす。……こいつとは、もう6年のつき合いだ。
腐れ縁もいいところだけど、何故かウマが合う。
「おはようございます。ウヨ君、聞きましたか?今日、このクラスに転校生がくるそうですよ」
なるほど。教室の雰囲気が妙なのは、この噂のせいか。……聞いたも聞いてないも、その転校生本人か
ら話を聞かされたんだが。席につくときに、ちらりとラスカちゃんの席に視線を走らせる。……彼女は、なにや
ら思い詰めたような表情で座っていた。用事とやらは、もう済んだんだろうか…………?
つづき
「よっ、おはようさん!なあなあ聞いた?今日、転校生が来るんだってよ!」
マカオがやってきて、開口一番そう言った。やたらハイテンションだ。
「ああ、聞いたよ。なんだよマカオ、えらいテンション高いな?」
「そりゃー高くもなるって!あのな………」
わざとらしく声をひそめたりする。
「その転校生って、女の子なんだってよ!ちらっと見た奴の話じゃ、すっげー可愛いって!!」
マカオは、ヨハネとは正反対に、くだけた性格の持ち主だ。ギャンブル好きなのが玉に瑕だが、なかなか
に面白い奴で、妙な噂話にも通じている。
「あっそ」
オレは素っ気なく答えた。確かに、ユキは可愛らしく成長している。だからといって、大騒ぎするほどのもの
じゃなかろうに………。
マカオの野郎は、そうは思っていないらしい。心底呆れたと言いたげな表情を浮かべやがった。
「お前って………面白みのないのな。硬派なんて、今時流行らんぜぇ」
「いーんだよ、オレはこういう性格なんだ。ほっといてくれ」
「だいたい………おっとっと」
更に言い募ろうとしたマカオだったが、慌てて自分の席に帰っていった。担任が、教室に入ってきたからだ。
「あー、おはよう。もう知っていると思うが、今日は転校生がこのクラスに来る。皆、仲良くやるように」
低いざわめき。どんな人間なのかと、皆てんでに囁き交わしている。
「静かに!……では、自己紹介してもらおう。………入ってきなさい」
つづき
〜Side Yukiko〜
ワタシは、廊下の壁にもたれかかりながら、教室に呼ばれるのを待っていた。なんとなく緊張する。
考えてみれば、新しいクラスのほとんど全員が、初対面なんだ。オグナが居るから、その点は心強いけど、
やっぱり、ちょっと、怖い。
多分、オグナを何かと頼りにするんだろうなぁ。
ワタシは、オグナと再会した昨日のことを思い起こした。
……………数年ぶりの再会。彼は……まったく変わっていなかった。ちょっとぶっきらぼうで、不器用で、
でも………とても優しいひと。あのころの、幼いころのままだった。
そう。彼は、初めて出会ったあの時も、あんな感じだった………。
「日ノ本武士………よろしくな」
それが、オグナの第一声だった。むっつりとした表情で、呟くような挨拶。滅多に笑顔を見せず、口数もすく
なく、いつも不機嫌そうな表情をしていた。
……正直、ワタシは最初、彼のことが怖かった。いじめたりはしないけど、迂闊に触れたら斬れてしまいそ
うな……氷刃のような雰囲気を身に纏っていた彼に、近寄りがたいものを感じていた。
そんな、ある意味緊張状態にあったワタシたちを変えたのは、ある事件がきっかけだった……。
「…………入ってきなさい」
教室の中からかけられた声に、ワタシは我に返った。
いけない、いけない。想い出に浸ってる場合じゃなかったっけ。
大きく深呼吸したワタシは、意を決して、教室のドアを開けた。
「失礼します」
つづき
〜Side Uyo〜
「失礼します」
その声と共に入ってきたユキを見て、クラスの野郎連中がどよめいた。「か、可愛いじゃねーか……」と
か、「彼氏いるのかなぁ」なんて囁き声が耳に入る。
その声は、ユキの耳にも届いているのだろう。赤面し、うつむき加減で、教壇へと歩いてゆく。
「では、自己紹介を」
担任に促されて、ユキは顔を上げた。細い、しかしよく通る声で、挨拶を始める。
「美嶋由紀子です。よろしくお願いします。………ええと、いろいろ不慣れなところがあると思いますけど、仲
良くしてくださいね」
男共が、訳の分からない雄叫びをあげる。その喧噪の中で………ユキは、とんでもないことをしやがった。
教室の中を見回していたユキが、オレの方に視線を向けてきた。目が合う。
その瞬間、ぱああっ、と擬音付きで、ユキの顔に笑顔が広がった。
……あ、バカよせ!
イヤな予感にかられたオレが、必死に目で訴えたが、 ユキのヤツはお構いなしだった。
「オグナ〜♪」
なんとも嬉しそうに、胸の前でぴらぴらと手を振るユキ。一瞬にして、教室内の狂騒は静まった。オレの全
身に、嫉妬、羨望、不審、興味、ありとあらゆる感情に彩られた視線が突き刺さる。
……………やりやがった………。顔を片手で覆いつつ、オレはこの後の苦難を覚悟するのだった……。
つづき
休み時間ごとに、ユキはクラスメートに囲まれて質問攻めにあっていた。好みのタイプとか、前の学校のこ
ととか、そういったお約束な質問だ。
昼休みになっても、それは変わらない。早速仲良くなったらしいケベックやキャンベラと、弁当をつつきなが
ら、ユキは律儀にひとつひとつの質問に答えていた。
オレはといえば、購買で買ってきたパンを牛乳で無理矢理流し込むという、なんとも侘びしい昼食を摂って
いた。普段なら、姉さんお手製の弁当に舌鼓を打っているのだが……昨日の件で、姉さんはオレの弁当を
用意してくれなかったのだ………。
「いや〜、美嶋さん、大人気ですねぇ」
差し向かいで、オレと似たり寄ったりの食事をしていたヨハネが、のほほんと言った。
「もうクラスに溶け込んでいるみたいだし………友人が増えるのは、よいことです」
オレは、そんなヨハネに生返事を返すことしかできなかった。ユキのやつが、なにかまたとんでもないことを
言うんじゃないかと、気が気でなかったのだ。
やがて………一番触れられたくない質問が飛び出した。
「ねぇねぇ、さっき、手を振ってたの………ウヨ君にだよね?」
「ウヨ君?………ああ、オグナ―――日ノ本君のことね。ええ、そうよ」
あっさりと答えやがった………。
「……その、オグナって………何?」
「彼のあだ名よ。……使ってるのはワタシだけだけど、ね」
「ふ〜ん……てことは、二人は知り合いなんだ?」
重ねての問いに、ユキは顔を赤らめて、夢見るような口調で答えた。
「ええ………大切な、ワタシにとって、すごく大切な知り合いよ」
つづき
クラス中が、おお、とどよめいた。………なんだよ、みんな聞き耳立ててやがる………。
再びオレに突き刺さる視線が痛い。
「おいおいおいおい、どーいうことだよ?旦那も隅に置けないねぇ〜。硬派の看板降ろすのか?」
マカオの野郎が、ここぞとばかりにからかってくる。
「………………………ウヨ君って………以外と手が早いんですねぇ」
ヨハネに至っては、したり顔でそんなことをほざきやがった。
こ、こいつら……………殴ったる。
オレが握りこぶしを振り上げようとした、その瞬間……横合いから、なにか小さなものがすっ飛んできた。
「げしっ!べきっ!」という、途轍もなく痛そうな音を立てて、マカオとヨハネの顔面に食い込む。
「…………………!!」
マカオは、糸の切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ち、ヨハネはもんどり打って椅子から転げ落ち
た。
「な、なんだぁ!?」
床の上で目を回している二人のそばに、あるものが転がっていた。………消しゴムだ。
嘘だろ!?消しゴムが当たった音じゃなかったぞ、今のは!?
おそるおそる、件のブツが飛んできた方を見る………ラスカちゃんが、一人本を読んでいた。………まさ
かな。彼女が、そんなことをするとは思えない。気のせいだ、気のせい………うん。
と、その時………ユキが、席を立った。ラスカちゃんの方に歩いてゆく。
何故とはなく、空気が帯電してゆくような気がした………。
つづき
〜Side Yukiko〜
突然、けたたましい音が、教室に響いた。オグナと一緒に食事していた男の子たちが、床の上に倒れてい
る。で、オグナは………一人の女の子を、不思議そうに見ていた。
ため息をつきたくなるほど綺麗な金髪。くりくりとした大きな蒼い瞳。桜色の頬。
思い出した………昨日、オグナに食ってかかっていた女の子だ。名前は……ラスカちゃん、だったっけ。
そういえば。
彼女、私と目を合わそうとしていない。このクラスのみんなとは、一度は会話を交わしたけれど………例外
は、オグナと彼女だけ。
昨日、彼女がオグナを問いつめていた台詞を、ワタシは思い出した。あれは……まるで、浮気を知った恋
人のようだった……。
ひょっとして………彼女は…………。
確かめてみよう。ワタシは決断した。確信にちかい予感が、ワタシを突き動かしていた。多分、この子は…
ワタシのライバル。
席を立ったワタシは、ラスカちゃんに近づいていった。彼女も、ワタシに気が付いたらしい。読んでいた本か
ら顔を上げた。
うわぁ………。
近くで見た彼女は、本当に可愛らしかった。ちょっと気後れしてしまいそう。でも………。
「こんにちは。ええっと………ラスカちゃん、だったよね?」
つづき
〜Side Laska〜
何もかもが、気に入らなかった。
由紀子ちゃんが、ウヨ君のことを嬉しそうに話している、その姿を見ただけで、私の中のなにかが激しくざ
わめいていた。
マカオ君やヨハネ君が、ウヨ君をからかっている、そのことも癇に障った。気が付くと、消しゴムを二人にぶ
つけてしまっていた。
なにより、由紀子ちゃんを意識しまくっているウヨ君と、そんな彼を見てイラついている私自身が、一番イヤ
だった……。
ウヨ君。クラスで、一番仲のいい男の子。そして……私の兄貴分。
アメリー兄さんとは違う意味で、彼は私の兄のような存在だった。いざというとき頼りになる、幼なじみ。私
は多分、心のどこかで、彼のことを一番よく知っていると、自惚れていたんだろう。
彼女の登場は、そんな私の自惚れを、一瞬にしてうち砕いた。
私の知らないウヨ君を知っているひと。
昨日、ウヨ君が見せていた表情――それは、私が見たことのない、穏やかで安らぎに満ちたものだった。
彼にそんな表情をさせるひと。彼が、自らの心のやわらかい部分を委ねられるひと。
正直に言おう。
私は彼女が、由紀子ちゃんが羨ましい。
何年も、すぐそばにいたのに、私は、彼に心を開いてはもらえなかったのだから………。
それに気づいたとき、同時に私はウヨ君のことを、実は何も知らないことにも思い至った。
そう………兄妹のような関係の中で、私は、彼がそこにいることを、いつしか当たり前のように思っていた
のだ………。
つづき
「こんにちは。ええっと………ラスカちゃん、だったよね?」
由紀子ちゃんが、私に話しかけてきた。
できれば、言葉を交わしたくはなかった。少なくとも、今日一日だけは。
わからない………わからない。自分の気持ちが、感情が、わからない。
こんな状態で、彼女と会話を交わしたら…………何を言い出すか、わからない……。
しかし、彼女は、私の内心にはおかまいなしだった。「よろしくね」という声とともに、手が差し出される。私
は、反射的にそれを握り返しながら、重い口を開くしかなかった。
「ラスカです………ウヨ君の、『幼なじみ』です。…………よろしくね」
言ってしまってから、激しく後悔した。
わざわざ、「幼なじみ」って言葉に力を入れるなんて………彼女に喧嘩を売っているようなものじゃない。
自分の台詞に驚き、慌てて由紀子ちゃんの表情を窺う。
…………彼女も、軽く目を見開いていた。驚くのも当然、だよね………。
自己嫌悪に苛まれながら、詫びを言おうとした瞬間………彼女の唇に、微笑が刻まれた。不敵な、そし
て、面白そうな笑み。同時に、握られた手に力が込められた。その瞬間………私は理解してしまった。
由紀子ちゃんは、ウヨ君のことが好きなんだ。
そして、私をライバルだと思ってるんだ、って………。
つづき
〜Side Yukiko〜
「ラスカです………ウヨ君の、『幼なじみ』です。…………よろしくね」
その台詞は、正直、ワタシの意表をついた。
「幼なじみ」って単語に、ことさら力を入れるなんて………「幼なじみは、あなただけじゃないのよ」という意
思表示そのものにしか、思えなかった。
間違いない。この子は…………ワタシの恋敵。
……いいでしょう。宣戦布告、受けてたつわ。
ワタシは、握手する手に力を込めた。
――――――負けないわよ。
その後の会話は、ちょっとぎくしゃくしたものになってしまった。
話題の中心は、もちろんオグナのこと。ワタシよりも、はるかに長い間一緒に過ごしてきた彼女の話は、オ
グナの意外な一面を教えてくれて、とても面白かった。ただし、言葉の端々に潜む棘を無視すれば、の話だ
けど。
正直、ワタシは、ラスカちゃんが羨ましいと同時に、どうしても敵愾心を抱けなかった。やきもちの焼き方
が、とても子供っぽくて、自分自身の気持ちに気づいていないのがすぐに分かったから。
彼女って、とっても素直な、いい子なんだろうなぁ。恋敵でなかったら、いいお友達になれたかも。……い
や、今でも、そうなれるかもしれないな。
そう、ワタシは、ラスカちゃんを気に入りはじめていた。彼女の持つ、柔らかな、人を和ませる雰囲気が、そ
うさせるのかもしれない。
ワタシは、妹の話を聞く姉のような心境で、彼女の話に聞き入っていた………。
つづき
〜Side Uyo〜
ユキとラスカちゃん、二人の会話は、不思議な緊張感が漂うものだった。ユキの方は、にこやかに聞いて
いるのだが………ラスカちゃんの台詞は、ひどく固い表情と声で、まるで台本を読み上げているかのよう
に、そらぞらしく聞こえる。………あの二人、喧嘩なんか始めたりしないだろうな。
「なあ……あの二人、一触即発だな」
なんとか復活を遂げたマカオが、小声で呟いた。オレと同じような感想を抱いているらしい。
「ラスカちゃん、モロやきもち焼いてるぜ。お前も罪なやつだねぇ〜」
そんなたわごとをほざきやがる。
「バカ言え。彼女はオレの妹分だからな。好きとか嫌いとか、そんな次元じゃねぇだろ」
反撥すると、マカオは、オレの顔をまじまじと見つめて、無言のまま肩をすくめた。
「………………なんだよ」
「いや、別に。今の台詞を、彼女が聞いたらなんて言うかな、と思ってさ」
………………なんか、無茶苦茶バカにされてるような気がする。
「え!?それじゃ、ウヨ君とはずーっと前に、一度逢ったきりなの!?」
突然、ラスカちゃんが声をあげた。
「それじゃ………なんで、そんなにウヨ君のこと…………」
呆れた、と言わんばかりのラスカちゃんに対して、ユキは頬を染めて、だがはっきりと、決定的な一言を投
げつけた。それは………オレにとって、さらなる苦悩への号砲となったんだ……………。
「だって、オグナは、ワタシの…………ファースト・キスの相手……だもの」
その瞬間、教室から一切の音が消え去った。耳が痛くなりそうなほどの沈黙。そして……。
『ええええええええええええええええええっ!?』
ほとんど悲鳴のような叫びが、教室のみならず、校舎中に轟いた。その狂騒の中で、オレは……。
口に含んだ牛乳を、思い切り噴き出して、ヨハネを白く塗装していたのだった………………。
つづく
次回予告
「……………なぜ姉さんたちがここにいる」
ユキの爆弾発言。それは、オレをのっぴきならない状況に追い込んでいた。
「大丈夫か、ユキ?」
過去への旅。それは、風化することのない記憶。
「だから、彼のことを好きになったの」
二人の会話は、オレ達の関係をどう変えてゆくのか。
「………わ、私は……………。」
次回 「回想」
決意は、もう一つの決意を生む。
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