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第27話
有閑工房 ◆aKOSQONw
投稿日: 2003/11/11(火) 15:47 ID:/dDrbiL2
『Dark Side of the Moon』
町の喧騒に目を覚ます。
外はもう明るい。
重たい頭はアルコールのせいなのか睡眠薬のせいなのか解らない。どちらにせよ安眠
という言葉は遠い昔におもちゃ箱の中にしまって埃をかぶっている。それでも生きて
いけるのだ。ただ生きるだけなら何の問題もない。
サラリーマンたちが遥か昔に出勤した後、気だるい朝の陽気に近所の主婦たちが面倒
くさそうに家事に勤しむ。人生を半ば棄てたような面ばかりだ。それでもパーティーや
旧友との再会の時には、自分以上に幸せな人間はいないと言いたげな格好と面持ちで
出かけて行く。一人身のこちらとしてはそういう浮かれた連中がいるほうが気がまぎれて
いい。ただし今出会ったら、カウンセラーを紹介して追い払いたくなる。それが単に自分
の不機嫌から来るのを忌々しく思うが、今更どうやっても変えられそうもない。
人に嫉妬しながらも自分の人生を踏み外さない生き方はもう出来そうもない。そんな純粋
とも愚劣ともいえない生き方は、若気の至りとセットで過去に清算した。その結果がこれだ。
今更どうって事はないが、人に言われるのを甘受したりはしない。言葉でだめなら拳で返す。
それが流儀だったし今でもそうだ。ただし、いつでも自分が強いと言うわけでない。ただ…
それだけの事だ。
仕事と言っても、依頼のない探偵はただの文無しの失業者だ。
今出来ることは切れかけのコーヒー豆をいつ補充するか考えつつ湯気を立たせ、ポストに
突っ込まれた新聞をまとめ読みするくらいしか能がない。
勿論ポストには新聞以外のものも届いているが、手書きの宛名以外は封も開けずにダスト
ボックス入りさせるのを日課にしている。おかげで電力会社に抗議の電話を入れることも
度々だが、そういうときに限って彼らは職務に忠実になり、いつも俺に善良な市民になる
ことを要求する。今更国旗に忠誠を誓う気にもならないが、テレビの画面に写る国旗を眺め
たくなることもある。
考えるのが嫌になったところでオフィスを覗いてみる事にした。家賃もいつからか忘れた
くらい滞納している。大家に顔を合わせたくないが、それでも依頼人がいるかもしれない。
期待と皮算用は人生の悪友だが、それ以外の友人を悉く無くしてしまった俺にはそんな奴等
しかつるめないようだ。
幸いオフィスの入口まで大家に会わずに済んだ。それに少し安堵して鍵を探る。
いくら盗る物がなくても鍵だけは掛けていた筈だが、扉はすぐに開いた。中にいるのは30代
半ばの女。良く知った顔だ。世間では幼馴染と言うのだろう。
「タバコ、もらったわよ。」
嗅ぎ慣れた紫煙の香を不快に思った。管理人に鍵を開けさせて入ってきたらしい。
女の名前はエリザベス。没落名家のお嬢様だ。ご多分に漏れずこいつも気位は高く、未だ
見劣りしない美しさもあるが、維持する財力に恵まれず無理を重ね続けている。結果が男ども
に利用された挙句棄てられるのだ。男が変わる度に確実に質が落ちているのは安物の喜劇みたい
だった。
「浮気調査ならお断りだ。他の信用できる奴に当たって欲しいもんだな、リズ。」
サイドテーブルにあるタバコを奪い返して火をつけると、俺は言った。リズは何でもない
ように言い返す。
「あら、私は浮気するような夫を持った試しはないわ。」
「そうだったな、悪かったよ。浮気になる前に離婚しているからな。」
「必要になったらあなたに一仕事してもらうわ。」
「是非頼むよ。リズはお得意様だからな。」
エリザベスは一瞬眉をひそめたが、いつもの鉄面皮にすぐ戻った。過去に何度か、別れた男
に集られない様脅しをかけたり、弱みを握ったりする片棒を担いだこともある。俺はリズを半ば
カモにしていたし、リズは汚れ仕事を俺に押し付けて澄ましていられる。なかなか良く出来た
関係だ。
「そんなことより、有能な探偵さんにお願いしたいことがあるの。」
こういう見え透いたおだてをするときは、大体ヤバイ仕事だ。俺は半ば諦め口調で言った。
「お好きなように。俺は依頼人の犬だからな。」
*
リズの依頼はこうだ。最近自分の小遣い稼ぎに睡眠薬を売りはじめた。なかなか評判も良く
注文も増えた。しかしその人気に便乗しようと材料の販売元のチュウゴが材料の仕入れ値を吊り
上げ、自分のところで類似品を売り始めたのだ。
こんな事にならないように辞書3冊分の分厚い契約書を作ったのだが、チュウゴもその辺は
心得たもので、産地の会社から別ルートで全てを仕立て上げていた。製品特許も巧妙にごまかし、
逆にリズのほうに特許使用料を請求する始末だそうだ。
そこでこの優秀な探偵さんは、チュウゴを追い落とし、イン堂とリズが手を組んで改めて独占
販売をしようとしている。それをうまく運ぶ為にチュウゴを引き下がらせる弱みを握れとのこと
だった。
俺は調査費込みで1万ドルを吹っかけたが、リズは値切り倒して3千ドルにしてしまい、おまけ
に前金の八割方が大家に既に持っていかれた後だった。
俺はリズの機転に感謝した後、思い切りドアを閉めて仕事に向かった。期待と皮算用の悪友は、
いつだって俺を裏切るように出来ている…
to be Continued …
解説
有閑工房 ◆aKOSQONw
投稿日: 2003/11/11(火) 16:01 ID:/dDrbiL2
と、ここまで書いてみて、反応を確かめるテスツ。
※ 随分前にお伺いしてた固ゆで調です。……ウリナリですが……
つか、チャンドラー大先生を意識していたら、エルロイ先生の
囁きが聞こえ、尚且つブコウスキーが悪態をついてきたのでウリ
の中身はワケワカメになってしまった。
※ それでもまあ、取り敢えず形になったのでうp致しました。
キャラの性格ですが、登場人物全員ヨゴレです(w。氏かも年齢は
30代半ば。萌えは一切無し、死人は出ませんが血は流れます。
※ 主人公は誰かわかってるでしょうが伏せときますね。
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(*^ー゜)b Good Job!!
(^_^) 並
( -_-) がんばりましょう
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