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第8話 どぜう 投稿日: 2004/05/03(月) 18:22 ID:lXNLPoI.
地球町の中では余り大きくないニホンちゃんの家ですが、
物置は地球町の中でも有数の大きさを誇っています。
物置の奥の方には、チューゴ君のご先祖様から貰った、
チューゴ君ですらもうどっかへやってしまった貴重な本とかが、今でもひっそりと眠っています。
これは、そんなニホンちゃんの家の物置で起きたお話です。

『葉桜の人』

「――五月人形を出してこいって云われたけれど、
どこにあるのか全然分からないよう」
ニホンちゃんが、物置でごそごそと探し物をしています。
大きな棚の奥の方に頭を突っ込みながら、小さなお尻だけを出して探しものをしていました。
「…これは踊り用のお面だし、…これは昔の日記で…」
埃を払いながらあれでもない、これでもない。
「ねーえ?武士ー?そっちは見つかったー?」
声を上げて別の階にいるウヨ君に聞いてみますが、
当然のように返事はありませんでした。
「…もう見つかってたりしてねー…?」
淡い期待を抱きながら、腰を上げ、階下へ行こうとした、その時です。
ちちちちっ!!
足元をネズミが走って横切りました。
「きゃああああ!!」
ネズミとゴキブリが嫌いなのはオンナノコの常。
飛び上がるようにして逃げようとしたニホンちゃんは、
足をダラクタにひっかけてしまいました。
どんっ!がらがっしゃーん!
と、哀れニホンちゃんは積み上がった箱雪崩に巻き込まれてしまいました。
『葉桜の人』

「――ん、んん…んぅ…?」
ニホンちゃんが目を覚ましました。
「え、と…私、物置で…?」
誰かが物置から運んできてくれたのでしょう。
千代田の間に、ニホンちゃんは寝ていました。
けれどもどこかが変です。
確かにここは千代田の間です、
けれども普段そこから見える大きなテレビ塔が見えません。
街並みも古いようで、新しいような気もします。
どこもケガはないようです。身体が無事なことを確認したニホンちゃんは、
確かめるように立ち上がろうとしました。

「駄目ですよ、まだ寝ていないと」
突然呼びかけられたニホンちゃんが振り向くと、
そこには女の人が立っていました。
ずいぶんと小柄な女の人で、背丈はニホンちゃんと同じくらいしかありません。
そして、ずいぶんと綺麗な着物を着ていました。
「…あな、たは…?」
いっそう不思議な顔をするニホンちゃん。こんな人は今まで見たことがなかったからです。
その女の人は、にっこりと微笑むと、
「わたくしは『ちかこ』と云うのです」
と云いました。
『葉桜の人』

「ちかこ、さん、ですか?」
名前を教えられてもやっぱりニホンちゃんは分かりません。
不思議そうな顔をしているニホンちゃんに、ちかこさんはもう一度微笑んで、
「今度は貴女のお名前を教えてくださいな」と、云いました。
「あ、え、私、さくらと云います」
「こんにちは、さくらちゃん」
三度微笑み、ちかこさんはそう云って会釈しました。
とても綺麗な会釈でした。

千代田の間の縁側に座って、ちかこさんとさくらちゃんはお話をしました。
「そう、学校行ってらっしゃるの…学校は楽しい?」
「ん、楽しい時と、嫌な時があります」
むぐむぐとお菓子を食べながら、そう答えるニホンちゃんを、
ちかこさんはすこしうらやましそうに眺めていました。
「わたくしなどは学校へ行ったことはありませんから、
やっぱりうらやましいですね…」
「あ、ご、ゴメンなさい…」
しょぼんとしてしまうニホンちゃん。そんな様子をいたわるように、
ちかこさんはおかわりのお茶とお菓子をニホンちゃんに差し出しました。
「さくらちゃんが謝ることはないのよ、
人は皆それぞれ、掛け替えのない人生を送っているのだから、
どちらがより良い人生か、なんて…
あまり意味はないことなのかも知れませんね」
そして、ちかこさんは庭先の葉桜を見やりました。どこか遠い目つきでした。
「?」
「ちょっと難しい話だった?」そうちかこさんがいたずらっぽく笑います。
「ちょっとだけ、です」つられてニホンちゃんも笑いました。
『葉桜の人』

「でも、ずいぶんと埃で汚れてしまったのね」
ニホンちゃんの服を見ながら、ちかこさんは眉をひそめました。
「ああ…その、ちょっと探し物をしていたんです、物置で」
「でも、駄目ですよ、年ごろの女の子が服装に気をつけないと、
人を呼んでその服を洗ってあげますから、」
「そんな、洗濯機に入れれば」
「その間、私の着物を着ていなさいな」
と、嬉しそうにちかこさんは箪笥から着物を取り出しました。
その着物もずいぶんと綺麗な着物でした。
ちょっとだけ考えた後で、ニホンちゃんは、結局着がえることにしました。
「私のお古だけれど、ちょうどあうと思うの」
と、慣れた様子で、あっと云う間にニホンちゃんは着がえさせられてしまいました。
ふんわりと香の香りがします。着物に焚き付けられた香りでした。
「やっぱり、とっても似合っていますよ」ちかこさんはとても嬉しそうです。
「私には子供がいないから、一度こう云う風にしてみたかったの」
と、また縁側に座る時に、ちかこさんはニホンちゃんに云いました。
「結婚されてるんですか?」
そう聞いたニホンちゃんに、ちかこさんが少しだけ悲しげに、
「いいえ、わたくしは、もう結婚はいたしませんの」と云いました。
「――とても、優しい人でしたから」
そう小さく呟いた声は、ニホンちゃんには聞こえませんでした。
『葉桜の人』

「…さん、姉さん…姉さん!」
乱暴に揺り動かされ、ニホンちゃんは目を覚ましました。
まぶたを開けると、ウヨ君が心配そうにニホンちゃんをのぞき込んでいました。
「…武士…?」
「悲鳴を聞いて飛んできたんだ、
来てみたら姉さんがガラクタの山の中に倒れてるし、
ホント、まいったよ」
ニホンちゃんが周囲を見回します、ここは物置でした。
「ちかこさん…は?」
「なに訳の分からない事云ってるんだよ、今父さんが薬箱持ってくるから、
しばらくそのまま横になっててくれよ」
「うん…」
ウヨ君が、ニホンちゃんが埃に汚れないよう、
学生服を敷布団代わりに敷いてくれていました。
「…優しいんだ。武士」
「へ、変なこと云うなよ」
ガラクタを片付けながらウヨ君は照れているようです。
「おお、ここだここだ」
「あ、父さん」
「血は出てないみたいだな?あとはコブや打ち身くらいか、
どこかが痛いとか、そう云うことはないか?」
ほっとした様子でニホンパパは薬箱を開けています。
『葉桜の人』

「なんだ、さくら、物置においてある着物でお姫様ごっこでもしてたのか?」
少し呆れたようにニホンパパがそう云いました。
「え?…私…?」
ニホンパパにそう云われてみると、
ニホンちゃんは着物を肩にかけている事に気がつきました。

あの、ちかこさんが着せてくれた着物です。

「それはずいぶんと由緒のある着物なんだぞ」
ニホンパパが諫めるようにニホンちゃんを叱ります。
「たぶんこの行李の中から出したんだな」と、云いながら、
ニホンパパが棚の一角から行李を引き出しました。
「我が家のご先祖様の一人で、何代か前の本家の方のだ。
ずいぶんと苦労されたらしい方の品物を遊びで着るんじゃないぞ」
そう云いながら、ニホンパパが行李を開けました。

行李の中には数枚の着物と、古びた女雛。
そして一枚の額に入れられた写真が入れられていました。
写真に写っているのは、生真面目そうな、若い男の人でした。
「…あっ…!」
ウヨ君が小さく声を上げます。
三人の目の前で、その男の人の写真はみるみると消えていったからです。
「あ…ああ…」ニホンちゃんも同じように声を漏らしました。
その三人様子を見上げている、行李の中の女雛は、
どこかちかこさんに似ているようでした。
『葉桜の人・終章』

「しかし不思議だ」
物置から出てきたニホンパパが唐突に呟きました。
「不思議って?」ウヨ君がそう尋ねます。
「ほら、行李を開けてすぐに写真は消えてしまっただろう?」
「うん」
「なのに、なんでさくらは着物を着ることが出来たんだろう?」
「うーん」腕を組んでウヨ君は考えましたが、
答えは見つかりそうにありません。
「ねえ、姉さん?どうやってアレを出したんだい?」
「…」物思いにふけるニホンちゃんは、ウヨ君の問いにもうわの空で、
千代田の間の葉桜の向こうに見えるテレビ塔を見ていました。
「ねえ?姉さん?」
「あの人は?」
思い出したようにウヨ君に振り向き、ニホンちゃんが尋ねます。
「え?」
「あの、写真の人は、誰だったのかしら?」
無言のまま、ウヨ君は空を見上げました。
答えは、多分誰にも分かりそうにありませんでした。

解説 どぜう 投稿日: 2004/05/03(月) 18:26 ID:lXNLPoI.
『葉桜の人』解説

急ごしらえの上に長いです。着物姿のニホンちゃんで書いてみました。
適切な描写が出来なくて苦労しました。
なんだかピントがぼけた作品になってしまったと反省しています。
ttp://www.jah.ne.jp/~risuko/kazunomiya.html
ttp://www.h3.dion.ne.jp/~tammy22/sub66.htm
話の元ネタは和宮降嫁です。
人となりの詳しくはリンク先を参照下さい。
>>85
黄鉄鉱さま
速い!!速すぎるよママン!!
ともあれ、ありがとうございます。感謝!!

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