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第10話 オシシ仮面 ◆gUNjnLD0UI 投稿日: 2007/01/07(日) 20:31:35
『○○を語るより××をかわそう』

1.
それは年末のことでした。
中華マンションでも有数の設備を誇る上海の間。
年末だというのに、急ピッチで改装工事が進められています。

「はい、みんないっせーせで笑うアル、はい、いっせーのー、せっ!」
にこー。
指揮をしているのはチューゴパパ。
一列に並べられた人々に混じって、香ちゃんもニーっと笑っています。
「グッジョブアル!押し迫った上海の間のパーテーを、
我らチューゴ家の朗らかな笑顔をもって是が非でも成功させるアル!」
「到(たお)!」ざざざざーっ!と、一斉に皆両手を掲げました。
「笑顔で!」
教練には厳しさがつきものなのです。
「にーっ」と満面の笑みを浮かべる、顔、顔、顔。
「好(はお)!では今日のほほえみ教練は終了アル!解散!」
三々五々散っていくチューゴ家の人々。

と、そこへ一人少年が現れました。
藍染の風呂敷包みを片手にもったウヨ君です。
「すいませんー。お歳暮お届けに上がりましたー」

気が進まない様子を隠しもせず、
棒読みでにゅっとチューゴパパに風呂敷を突き出します。
「ああ…これはこれは、謝々」
と受けとろうとしたチューゴパパですが、何か思うところがあったのか、
「香…香!ウヨ君にお茶でも出してあげなさいアル」
「はーい」
ててててっ、と駆け寄る香ちゃん、
恭しく風呂敷包みをウヨ君から受けとります。
「よいな香…ほほえみアルぞ…ほほえみ!」
こそっとつぶやくチューゴパパの目くばせに、
小さくうなずく香ちゃん。
「…謝々」と小首を傾げ微笑むと、笑みは牡丹か紅梅か、
ウヨ君はかあっと顔を赤らめながら、
「ぃゃ…その…ごにょごにょ…」と口ごもります。
「パーパ、大成功アル…!」
「でかした、娘!」成功の喜びに、がっきと重なる腕と腕。
「???」良く判らず困惑顔のウヨ君でしたが、その時――
『○○を語るより××をかわそう』

2.
きゃあ〜あ、へんたーい!!
と絹を引き裂く乙女の悲鳴が中華マンションに響き渡りました。

「あ、あれは姉さんの声!」
引き絞られた弓から矢が射られたように、
一目散にウヨ君が駆け出していきます。
一方チューゴパパは冷静に、
壁に取りつけられたボタンをぽちりと押すと、
中華マンション全体にベルが鳴り響きました。
「声は北京の間からアル、人民ガードマン出動!」

じりりりりりりりり!
と警報ベルが鳴り響く北京の間に、
息せき切って現れたウヨ君が見た光景は――
「ムム…無料の抱擁、人呼んで『フリー・ハグ』アル…
恥じらわずにニホンは、朕の好意を受け入れるがヨロシ…っっ!」
「そ、そんな行為…いりませ、んん〜っ!!」
なにをどう考えるとそういう好意になるのかは、知るよしもありませんが、
チューゴ君がフガフガと鼻息も荒く、
ニホンちゃんに覆い被さっていました。いわゆる大ピンチの構図です。
しばらくしてチューゴパパと人民ガードマンによって事態は収拾し、
「…この事はぜひご内密に!アル…」と、
チューゴパパに念を押された二人でした。

その後、チューゴ君は反省房に入れられ、
自己批判の甲斐もあって、幸いにして、
無料の抱擁の再発は今のところないようです。

めでたし、めでたし。
【了】

解説 オシシ仮面 ◆gUNjnLD0UI 投稿日: 2007/01/07(日) 20:33:26
ttp://excite.co.jp/News/odd/00081166434514.html
>路上で笑うボランティア活動 上海
>2010年に上海万博を控えて外国からの観光客を歓迎するべく、
>上海市は「笑うボランティア」チームを路上に送り出し、
>仏頂面の市民たちに笑顔のつくりかたを教えようとしている。
(後略)

初投稿失礼します。明けましておめでとうございます。
オシシ仮面と申します。
ほほえみ任務と無料の抱擁の順番が逆になってますが、ご容赦ください。

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