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第9.1話 青風 ◆BlueWmNwYU 投稿日: 2006/12/25(月) 23:06:30
『夢の祝祭』

 聖なる夜。
 きらめくイルミネーションがツリーを彩るアメリー家パーティ会場。
 味はともかく、量だけは不足のない料理や飲み物。
 趣向を凝らしたイベントと音楽に、イヤでもパーティは盛り上がります。
「ひっく。おい、ネーデル! オマエは私が勧めるワインが摂取できない。
 今、確かにそう言ったのだな?」
 ゲルマッハ君のすっかり座った目が、ネーデル君をにらみ据えます。
 ネーデル君は、にっこり笑ってゲルマッハ君の腰に手を回しました。
「イヤだなぁ、誤解だよ。それより、ねぇゆっくり話をしよ……」
「――キサマ、その手を放せ。三つ数えるうちに兄上から離れろ!」
 飛び交う声は歓声か怒号か。
 どうやら、色々な意味で無礼講です。

 そんな騒ぎをやや醒めた目線で見つめる参加者が、ここにひとり。
 黒いドレスに身を包む壁の花。ルーマちゃんです。
 彼女は”夜の眷属”です。
 本来なら、聖なるものは身の毒になります。
 彼女自身はディウォーカーなので、聖なる印にも全く平気ですが、
それでも一族を取り仕切っていた伯父さんは禁を破ることを赦してはくれず
他の家のクリスマスがどんなものかは想像するしかありませんでした。
 その伯父さんも、ついこの間灰になってしまいました。
 だから今夜、初めて聖夜の宴に参加できた彼女でした、が。

「う〜ん。私が想像していたクリスマスと少し違うんだよなぁ」
 困惑するのも無理はありません。
 静かに祈りのうちに暮らす夕べを想像していた彼女にとって、
目の前に繰り広げられる喧噪の全て――サンタ役のニホンちゃんとカンコ君
が小さなプレゼントを配りはじめると、何故かカンコ君がプレゼントの袋を
抱えて走り出し、怒ったニホンちゃんに足蹴にされるとか。
 その一方で、ベルギー君は静かに愛犬と抱き合いながら大きな宗教画
を見上げ、涙ぐんでいたり。
 かと思えば、ツリーの飾り付けの功績をやや大きすぎる声で淑女の
巨頭二人が競い合ってみたり。
 そんな騒動の全てが物珍しく驚くべきものなのです。


あぷろだ No.673 より



「ルーマさんにも、あれはちょっと賑やかすぎですか?」
 突然、彼女の肩より少し下あたりから声がしました。
 見れば、白い法衣を着た小柄な少年。
 優しい微笑みを絶やしたことがない、ヨハネ君です。
「クリスマスの主役にしては、ずいぶんと隅っこにいるじゃない。
 てっきり、みんなを仕切ってお祈りでもしているのかと思った」
 ヨハネ君は軽く頭を振りました。
「これはアメリーさんのパーティなんです。
 だから、うちの教会とはあまり関係ないんですよね」
 ヨハネ君は、ちょっと困ったようにそう言いました。
「だから、ああ言う騒がしいプレゼントの配り方は嫌い?」
「う〜ん、博愛とか気前の良さは、神さまも愛されると思いますよ」
「じゃ、あれは?」
 ヨハネ君の顔が引きつりました。
 ルーマちゃんが指さす先で、アーリアちゃんがネーデル君に暴発寸前。
 どうやらネーデル君、三つ数えても兄上から手を離さなかったようです。
「ルーマさん、ちょっと失礼しますよ。
 ――アーリアさん、落ち着いて。ネーデルさんも早く逃げて下さい!」
 暴力の罪から人々を救うべく、ヨハネ君は駆け出しました。

 ヨハネ君を見送りながら、ルーマちゃんはちょっとだけ何かが
判ったような気がしました。
「そっか。私なりの過ごし方で良いんだ」
 機嫌が良くなった彼女は会場の中央へ、喧噪の輪に加わるために進んで行きました。

解説 青風 ◆BlueWmNwYU 投稿日: 2006/12/25(月) 23:10:09
解説など
 「クリスマスにプレゼントをするサンタクロース」のイメージは、
その原型、聖ニクラウスのイメージがオランダ系プロテスタントによって
17世紀に今のニューヨークに持ち込まれ、イギリスにあったクリスマスの
プレゼントの習慣と合成されて、19世紀に完成したようです。
 その前に、クリスマスとギフトの習慣を結びつけたのは、宗教改革後
の北ドイツのプロテスタントらしいです。
 つまり、サンタクロースにまつわる一般的なイメージは、プロテスタント
によって造られたものと言えそうです。

 さて、ルーマちゃん関連です。
チャウシェスク政権下では宗教的祝日は公式には認められず、
全て個人で祝っていた、という話を下敷きにしています。
 国民同士を監視させていた体制の元なら、さぞ窮屈だったでしょう。

ああ、もう一日早く投稿すれば、イブに間に合ったのになあ。

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