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第1381話 KAMON ◆9awzJSYC0I 投稿日: 03/01/22 03:55 ID:6MQjPyL7
「抗えぬ力 その2:怠惰と焦燥と」

「・・・父さん! 母さん!」
突然の地震で崩れてしまった「神戸の間」。
中に取り残されたお父さんやお母さんの運命は・・・?
「とうさ・・・うわあっ!」
後ろからひやっとした感触が。
まだ錯乱しているニホンちゃんが、後ろから抱きついてきたのでした。
「やだああああ! おいてかないでええええ!」

学ランのみを通して直に伝わってくる背中の感触に真っ赤になりながら、ウヨ君は冷静になろうと努めました。

「姉さんのこの怯え様は何なんだ・・・。」

彼はニホンちゃんのトラウマを知りません。
いつの間にか揺れは収まりましたが、ニホンちゃんは奇声を上げ、腕に込める力を強くします。
「やあああだあああああ! こわいよおおおおう!」
彼女の声は最早血管が切れそうなほど甲高くなっており、何を言っているのか分かりません。

「こんな時に・・・そうだ! サヨックおじさん!」
その頃は、鬱気味だったお父さんに代わり、サヨックおじさんが家のことを仕切っていたのでした。
ウヨ君はサヨックおじさんが大嫌いでしたが、今頼れる大人は彼しかいません。

ウヨ君はサヨックおじさんの部屋へ向かおうとしました。
が、ニホンちゃんはウヨ君を離そうとしません。
だんだん二の腕が痛くなってきます。明日には青あざになっていることでしょう。

「姉さん、落ちついてってば!」
ウヨ君が引き離そうとしますが、ニホンちゃんにはもう何も聞こえません。
「・・・御免、姉さん!」
ウヨ君は小さく呟き、頭を軽く下げると、ニホンちゃんの鳩尾に拳骨を一発食らわせました。
ニホンちゃんは意識を失って昏倒しました。ウヨ君があわてて抱き留めます。

ニホンちゃんを生き残った部屋に寝かせ、石油ストーブのスイッチを入れ、自分の服を上着だけ着せると、
ウヨ君はサヨックおじさんに助けを求めに行きました。
騒ぎに気付いているのやらいないのやら、サヨックおじさんの部屋には鍵がかかっています。
まだ寝ているのでしょうか。
「おじさん! おじさん! 父さんと母さんが・・・」
ウヨ君は乱暴にドアを叩きました。

「あー、はいはいはい」
大儀そうな声が中から聞こえ、ドアが開きました。
「なんだウヨか・・・どうしたんだよこんな朝早く」
「なんだじゃないよ! 父さんと母さんが生き埋めになっちゃった!」
「何、兄貴が、そりゃあ大変だなあ・・・」
人ごとのような、まるで危機感のない台詞まわし。
ウヨ君はだんだん腹が立ってきましたが、なるべく押さえて用件を述べました。
「早く助けないと手遅れになっちゃう! 早くリクジおじさんを呼んでよ!」

しかし、次の瞬間彼の口から出た台詞に、ウヨ君は耳を疑いました。
「・・・やだよ、俺、あいつ嫌いだもん。」

「・・・( ゚Д゚)ハァ? そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
「あいつは日ノ本家にいちゃいけない人間なんだ」
「でも今頼れるのはリクジさんしかいないんだぜ!?」
「ダメなものはダメなの!」

ばたん!
サヨックおじさんは乱暴にドアを閉めると、それっきり引きこもって出てきませんでした。
「ちいっ!」
小学校3年生とは思えない憎悪に満ちた視線をドアに向かって投げつけ、
ウヨ君は電話のあるところへ走りました。

「ダメだ・・・つながらねえ・・・」
何十回も同じ番号を回し続け、やっと繋がりました。
「もしもし・・・」

つるるるるるる。
ユーロ町のど真ん中、外界から遮断された高台。
そこにぽつんと立っている小さな家の電話が、けたたましく鳴り始めました。
「はい、こちらスウィッツランドルフ時計工房。時計のご相談なら何でもどうぞ。」
スウィッツランドルフ先生は、時計作りの手を休め、電話を取りました。

彼は5年地球組の副担任ですが、実は家が時計工房で、
学校の仕事が終わるとこうして時計作りに精を出すのでした。

電話の相手はウヨ君。
この緊急事態に、彼が時計の相談などするはずもありません。
「もしもし、スウィッツランドルフ先生ですか?
こちら日ノ本です。恐れ入りますがジュネーブ先輩に繋いでもらえませんか?」
ジュネーブ君の名前を聞いて、先生の目が不敵に光りました。
「日ノ本さんですか。どうしました?」
「えーとですね、突然の地震で両親が瓦礫の下敷きになりました。姉もパニックに陥ってるみたいです。
一刻を争う事態なので急いでお願いします!」
日ノ本・・・両親・・・その言葉を聞いて彼の顔色が変わりました。
「お母さんが!? 大丈夫なのかい?」
「分かりません・・・こちらからだとまったく・・・」
「分かりました。一刻も早くそっちへ向かわせますので、日ノ本君はお姉さんの方を頼みます。」
「分かりました。とにかく急いできてください!」

がちゃ。
スウィッツランドルフ先生は、相手の電話が切れると、静かに受話器を置き、天井を向くと、2階で勉強している息子のジュネーブ君に向かって大声で呼びかけました。

「ジュネーブ! 出動要請だ!」
途端、部屋のドアを開けてしめる音と、階段を駆け下りる音が聞こえ、ジュネーブ君が疾風のごとく現れました。
「どうした親父、場所は?」
「アジア町、極東通り東入ル・・・」
住所を聞いて、ジュネーブ君はしばし考え込みました。

「うん? ・・・と言うことは・・・まさか・・・」
「そう・・・場所は日ノ本ジミン邸だ・・・」

「・・・よし分かった。すぐ向かうから親父は家で待って・・・」
「・・・いや、今回は私も向かう。」

言うが早いか、先生は時計旋盤を救助用具に持ち替え、壁に掛けてある鍵の中の一つを取ると白衣を着込んで階段を駆け下りていきました。
「ジュネーブ! レッドクロスをつれてこい! デュナン1号を発進させる!」
「デュナンを出すか・・・ こりゃあ大仕事になりそうだ・・・」
ジュネーブ君はきっと前を見据え、愛犬レッドクロスの小屋へと走り出しました。

To be continued...

解説 KAMON ◆9awzJSYC0I 投稿日: 03/01/22 04:07 ID:6MQjPyL7
KAMONです。

阪神大震災の時の内閣は、社会党の村山富市内閣。
が、この緊急事態に村山はまったく気付かず、
気付いたあとも自衛隊の出動を渋りました。

スイスの救助隊と救助犬を呼ぶことになったのですが、
ここで思わぬ邪魔が入ります・・・

スウィッツランドルフ先生とジュネーブ君久々の登場になりましたね。
この親子のネタはあとで総督府スレに外伝を書きたいと思うので、
今回はその伏線を埋めておきました。

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