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第1952話 シェロ 投稿日: 04/08/11 02:52 ID:ECaGbeGC
〜 Granpa's memories 5 〜
あの花火が家の一部を消し飛ばすのを見て、私達の心は折れた。
「いい年した大の男が、何やってたんだろな」
ニッテイが呟く。
理不尽な要求を突きつけられたから噛み付いて、後付けでアジア町を本当に自分らの町にするという夢をつけて、
色々な物を失って、結局残ったのは家の残骸と挫折感だけ。
「さぁ、何だったんだろうな」
もう、溜息しか出てこなかった。

「まぁ、まだ戦いは終わりきってないんだけどさ」
ニッテイが立ち上がる。
「けじめ、つけなきゃな」
これから始まるのは、この喧嘩の後始末。この町のルールは意外と残酷で、喧嘩に負けた人間は
勝った人間に負わせた怪我の責任を取らなければならない。
私達の相手となったのは、アメリー家を筆頭とした地球町のリーダー格のほとんど。
ただ頭を下げるだけでは済みそうもない。ややもすれば、私達の存在が全否定されることも考えられる。
しかし、それでも行かなければならないのがこの町のルール。
負けた人間は勝った人間に絶対服従の世界のルール。
「そうだな。行くかニッテイ」
私も腰を上げた。日ノ本家の長としての最後になるだろう仕事をやりに。
しかし、ニッテイは怪訝そうな目で私を見る。
「なんでお前も来るんだよ?」
「当たり前だろ。この喧嘩の責任は私にあるのだから」
「は?ねぇよ。俺がリクとカイ連れて勝手に始めたんだから」
ニッテイはとぼける。
「何を今更言ってる。私が一家の長なんだから」
「止めようと必死になったけど俺らが聞く耳持たなかったからこうなっちまったんだろ?
ヒロ達にとってはとんだとばっちりだったなぁ。ワリィワリィ。じゃあな」
私の言葉を遮ってニッテイは捲くし立て、踵を返して歩き出そうとした。
「待て!」とっさに彼の肩を掴む。するとニッテイは振り返りざま、

ぼすっっ・・・・・・
「おぉ・・・・・・・・・・」
私の鳩尾に拳を叩き込んだ。息が詰まる。私はそのままくず折れた。
「わかってねぇなぁ。お前までいなくなったら、誰がこれから家を仕切るんだよ。
お前さえいれば、家は何とかなんだからよ。ここは俺とリクに任せとけっての。
ったく、最後くらい孝行させろよな」
そう言い残してニッテイは歩き出す。言いたいことは山ほどあるのに、息が出来ず口に出せない。
私はやっとの思いで声を振り絞った。
「・・・・・・お前の娘、身ごもってんだぞ!!」
ニッテイの足が止まる。
「・・・・・・マジかよ」
「・・・もうじき、3ヶ月になるって・・・。娘がそんななのに、置いていくのか!?
・・・・・私が、行くから、お前は家に、残れ!」
よろよろと私は起き上がる。思い切り兄の急所に入れやがって、会話が出来ないじゃないか。
もう一度肩を掴むと、ニッテイは何か吹っ切れた顔でこちらを向いた。
「じゃあ、なおさら行かなきゃな。お前じゃああいう殺伐とした場は荷が重いしな。
いいか、これから始まるのは俺らの今を守る戦いじゃなくて、未来を守る戦いなわけよ。
あいつらは喧嘩に勝ったのをいいことに、俺らの存在を全否定しにかかってくる。
喧嘩の動機も、俺らの言い分もな。大切なのはこれから先だよ。
俺らのやってきたことが全否定されて、俺らが一方的に悪者扱いされたら、この先一生虐げられるだろ?
撫子も、娘も、孫も、一族すべてが。そんなの許さねぇ。不幸になるのは俺らだけでいいんだ」
ニッテイは私の肩を掴み返し、目を見据えて続ける。
「兄さん、最後のわがままだ。あなたは残ってくれ。俺に行かせてくれ。
俺は、みんなを守りたいんだよ」
カイグンの面影がダブる。アイツが最後の戦いに行ったときと同じ目。死すら厭わない覚悟の目。
なんて目をするんだ。こんな目をした男を、誰が止められるだろう。
「馬鹿野郎が・・・・・・」私は呟いた。「じゃあな、兄さん」そういい残して、ニッテイは立ち去る。

「ニッテイ!」
私は立ち尽くしたまま叫んだ。その声にニッテイは、右手を振って応える。決して振り返ることなく。       (続)

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