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第1967話 マンセー名無しさん 投稿日: 04/09/03 07:41 ID:4mDmKg9L
俺が分別もつかない子供だったころも正義を守るためにってパパは喧嘩していた。
パパは町内ではかなり若いほうだったから血気盛んだったのかもしれない。
ニッテイって爺さんとナッチってヒゲオヤジ、両方と喧嘩してた。
どっちも完膚なきまでに叩きのめしてやったZE!HAHAHA!ってパパは随分自慢していた。
町内大喧嘩に勝ってちょっとした頃、今度はカンコの家に喧嘩しに行った。
キッチョムの家がカンコの家に喧嘩吹っかけて騒ぎになってるから止めにいくって言ってパパは出て行った。
喧嘩を止めにいくって言って出て行ったはずのパパは、なぜかソビエト一族の家とチューゴの家も巻き込んでの喧嘩をカンコの家で繰り広げていた。今にして考えると不思議な話だ。
しばらくして俺とベトナは喧嘩になったが、パパを見て育った俺には当然の成り行きで、俺にとっては自分の喧嘩は正義だった。
「アイツ」と初めて会ったのはこの頃だった。

2.
小さい頃の記憶はハッキリしねえ。
ナッチってヒゲの男と喧嘩して、随分殴りあったとオヤジは前に言ってた。
オヤジはソビエト一族の代表として色んな所に顔を出しては「あの新参者が!」と腹を立てて帰ってきてたような気がする。あとの記憶は頼りになる姉貴と可愛い妹達の顔。まったくお坊ちゃんだったんだろうよ。
俺の生活は実に安穏としていた。輝かしい歴史と伝統に守られた我が一族の繁栄は永遠だと思っていた。
ある日オヤジはベトナ家に行くからお前も来なさいと言った。俺はハイ父上とついていったんだ。知らなかったからな。オヤジの仕事を。オヤジは商売のやり方を俺に教えようとしていたんだろう。
余談だが、喧嘩のやり方はもっと幼い頃から教わってた。姉貴は強くて速くて喧嘩慣れしていたから、俺にも釘バットの作り方やら目潰しの効果的な方法を教えてくれた。姉貴は怖がられることが多かったけど俺には優しかったんだ・・・話を元に戻そう。
そして俺はベトナの家で「奴」を見たんだ。泥だらけで戦う「奴」を。
3.
ベトナの家の庭で泥だらけになってたときにベトナ家の向こうに「アイツ」はいた。
見たとこ良いとこの坊ちゃんって感じだったけど体は俺よりも大きかった。町内で俺よりデカイやつは近所にはいなかったから驚いたが、同時にムカついた。
俺よりデカイ体で建物から泥まみれの俺を見下していたんだ。
結局ベトナの家での喧嘩は俺の負けになった。俺もクーロイもパツキンも疲れきっていたし、家ではヒッピーかぶれのママが帰って来いとうるさい。随分と意地を張ったが帰らざるを得なかった。
俺は正義の喧嘩に家で初めて負けた。パパもグランパも負けなかったのに…
凹んで家に帰った途端ママに説教食らったのには正直閉口した。もっとも説教食らわなくても当分の間は喧嘩なんてごめんだと思ってた。ベトナの家の泥や虫にはパツキンもクーロイも辟易していたし、いままでたっぷり貯めてた小遣いは、喧嘩に使って殆ど残ってなかった。

4.
ベトナの家との商売は上手くいったようだ。オヤジは久しぶりの笑顔を見せながら
「あの新参者に一泡吹かせてやったわい」と呟いていた。オヤジが何かしたわけじゃないんだがな。あの泥だらけの奴がオヤジの言ってた新参者なのか?俺と同い年くらいだったが…
オヤジはしばらく同じような商売を続けていた。俺も子供の悪戯みたいなことは良くやっていた。ちょいと乱暴にしたり、いいかげんなことをやって近所に迷惑をかけることもあったが…。
この頃の俺はちょっと素行がよろしくなくってよ。金も力もあったから大概のことは俺の望みどおりになった。WTOなんてグループ作ってリーダー気取ってた。
全てが上手くいってた筈だったんだ。
5.
ベトナの家の件からしばらく喧嘩をしない日々が続いた。縄張り争いみたいなのは良くやっていたが、相手はいつも決まってアイツで、アイツのWTOグループと俺がリーダーのNATOチームとでよくやってた。
ペットの優劣は縄張り争いの重要なポイントで犬の品評会でも当面のライバルはアイツだった。「たいがー」「ふぃっしゅべっと」「ふぁんとむ」「ふろっがー」「いーぐる」「ふぉっくすばっと」etc etc...
そういえばペットボトルロケットで競り合ったときの相手もアイツだったな。目に見える一番高いところにロケットを送り込むんだって、意地張り合ってた。
俺はアイツが気に食わなかった。パパがソビエト一族を嫌ってたので、もとからあまり仲良くしようとは思っていなかったが、アイツが俺よりデカイのがとにかく気に入らなかった。俺がNo.1じゃないなんて!

6.
そのうち家の商売が上手くいかなくなったらしい。小遣いが減り始めた。オヤジは妹達はそっちのけで俺ばかり可愛がっていたが、その俺の小遣いが減ってきたのだから、妹達はどんなことになっていたのだろう?
一度オヤジに聞いたことがあるが、我がソビエト一族は絶対に大丈夫だ、と胸を張って言うので大丈夫なんだろうと思っていた。
俺の小遣いはその後も順調に減りつづけ、オヤジは俺の小遣いにウォッカを渡すようになった。思えばこの頃からオヤジはおかしくなっていたのかもしれない。
ある朝起きたらリビングで妹達がオヤジに一生懸命にお小遣いをねだっている。俺でさえ小遣いの代わりにウォッカを貰っているくらいだからオヤジが可愛がってなかった妹達には、もう何ヶ月も何もあげていないのだろう。
「お前達、父上をあんまり困らすなよ」と言おうとして一歩踏み出したところだった。オヤジは無言で立ち上がると、まだ足元にすがりつく妹を一瞥した後、蹴り上げたんだ。
それから後のことはよく覚えていない。ウォッカを一息に煽ってオヤジに殴りかかったのだけは覚えている。
7.
最近の新聞は面白い。
何が面白いってアイツの家の記事がよく載っているんだ。デカイ屋敷なんだが、いつも門が閉じてて中の様子がよく分からなかったあの家だ。情報公開ってこういうことか?
アイツがあの屋敷のお坊ちゃんだったんだってことも新聞で初めて知った。お坊ちゃんはスポーツ万能で中でもスケートが得意とか、妹がやけに沢山いるんだとか、なんだか思ってたよりもいい奴みたいだ。
家の景気は悪そうだったけど・・・そういや最近は縄張り付近にも姿を見せないけど、どうしたんだろう?
そんなある日、いつものように新聞を見て俺は口に含んでいたホットドッグを落としたりした。まあ、ホットドッグはまた買えばいいんだ。それよりこの記事だ。
「ついに倒産!一家離散か!?」「当主は暴行事件を起こした後、行方不明」「長男は意識混濁」
長男ってアイツのことか!?一家離散って・・・?行方不明って・・・?アイツは・・・?

8.
目が醒めたときには誰もいなくなってた。リビングは閑散として、キッチンで母親が一人さめざめと泣いていた。
あのクソオヤジは逃げ出して帰ってこないらしい。帰ってこなくたっていい。話がちょいとこんがらがるが、今日からオヤジは勘当にでもしちまえ。
妹達はみんな引き取られてしまった。俺がぶっ倒れてるあいだに家の連中がぞろぞろとやってきて、当主が逃げ出して、長男が粗暴では先が思いやられる、こんなところに置いては娘の将来に関わる、引き取らせてもらう、と。
母親は一生懸命に拒否したが、当主がいないのでは養育費も払えないでしょう、と言われると返す言葉もなく、引き取られてしまったらしい。
姉貴は警備期間を終えて家に帰ってきた途端に、警備会社の仕事を辞めてもっと稼ぎのいい仕事に就くんだ、と言って家を出ていった。それきり会ってねえ。毎月仕送りはあるが、どこで何をしてるかは誰も知らない。
仕送りだけじゃあ生活していけねえ。母親は農場で朝から晩まで働いて、黒パンとチーズと僅かなルーブルを持って帰ってくるようになった。おかげで家には殆どいない。
俺の手元に残ったのは、だだっ広い屋敷とウォッカだけだった。
9.
「おいロシアノビッチ、起きろよ。授業終わったぞ」
「んあ・・・?アメリーか・・・もうちょっと寝かせろよ・・・」
「オマエ飲んで寝てばっかりだなHAHAHA!なあ、今日ウチに来いよ!」
「なんでオマエの家に行かなきゃいけねえんだよ・・・あー頭痛え」
「ラスカが今日の家庭科でドーナツ作るって張り切ってたんだ。美味しく出来たら持って帰ってくる筈さ」
「・・・」
「まあ、ラスカが失敗しててもママのパンケーキご馳走するぜ。来いよ!」
「おい、ふざけんなよ。ラスカが失敗するわけねえだろ。ロシアンケーキだって作れるぜ」
「じゃあ決まりだな!」

(・・・俺の家が昔のままだったら・・・俺も家でロシアンティーでも淹れて妹の持って帰るお菓子を楽しむんだろうか・・・)
(キルギス、グルジア、トルクメニス、モルドバ、ウクライナ、アゼルバイ、ウズベキス、カザフス、ベラルーシ、タジキス、アルメニア・・・みんな可愛い妹達・・・元気でやっているんだろうか・・・)
(姉貴・・・たまには帰ってきてくれよ・・・シベリアは随分綺麗になったんだぜ・・・)

10.
「なにボーっとしてるんだよ。早く来いよロシアノ」
「うるせえ。俺だって考え事くらいする」

アメリー君は知っています。ロシアノビッチ君がぼーっとしている時は大概昔のことを思い出していることを。でもそれには触れません。
ロシアノビッチ君は知っています。アメリー君が時々自分を見て悲しそうな寂しそうな顔をすることを。でもそれには触れません。
そして、今日も2人はなんとなく張り合うのです。

「おい、アメリー今度はウチに来いよ。この前生まれた子犬を見せてやるよ」
「楽しみだな。ウチの「らぷたー」には敵わないだろうけどね」
「いってろ」



解説 マンセー名無しさん 投稿日: 04/09/03 07:49 ID:4mDmKg9L
ロシアノビッチ君萌えだけで書き連ねちゃいましたオナニーです。
男の子の友情ってのが好きなんです。

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