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第1989話
ab-pro
投稿日: 04/09/20 20:20:11 ID:tSwoXzuS
「ナニワ 後編」
あれから時は流れました。
「ここがハワイ家か。
南国の楽園を期待してたのに、岩だらけの海岸に、鬱蒼とした
木々しかない。この家を別荘にしたら、俺好みの部屋にリフォー
ムしないといけないな」
そんな未来構想を練りながら、太平洋池に浮かぶハワイ家にや
ってきたのはメリケン君です。
本家の跡取り息子を出迎える、ハワイ商店の白い色の肌をした
重役たちに、メリケン君は宣言します。
「さあ、仕事を始めようか。
こんな野蛮な家を文明化するのが、われわれ白い肌を持った人
間の、神から与えられた使命だ。まずは民主主義という自由をこ
の家に与えてやろう」
この言葉に、わが意を得たりとばかりに、得意げにうなずく重
役たち。こうして悲劇は始まりました。
「これはどういうことです?!」
声を荒げるカラニちゃん。
カラニちゃんは麗しい妙齢の少女へと成長を遂げましたが、幼
いころの天真爛漫な瞳の輝きは、今まさに失われようとしていま
した。
場所はハワイ商店の社長執務室。カラニちゃんを取り囲む白い
肌の男たちの手には、物騒な銃が握られています。
「社長によるワンマン経営は、当の昔に我々の間では時代遅れ
の過去の遺物になっているんだよ。このハワイ商店を発展させる
ためには、経営権を経営に長けた重役会議に託すべき。
それが民主主義、自由でもあるのさ」
さも当然といわんばかりのアメリー君が示したのは、突然のハ
ワイ商店の改革案です。
「では、その重役会議に立候補できるのが、あなた方だけとい
うのはどうしてですか?」
「それは正しい表現じゃないな。日雇いの従業員を重役会議に
は入れることはできないだけさ。ちゃんと正社員としての基準を
満たせば誰でも重役会議に立候補する権利はあるのさ」
唇をきゅっとかみ締めるカラニちゃん。なんとか従業員のため
に家を立て直そうと努力しても、その努力が報われることはなか
ったのです。
よその家々はそれが当然であるかのように、メリケン君の家の
非道な行為を追認しています。唯一、日ノ本家から多くの従業員
が移り住んできて、店を手伝ってくれるのが救いといえば救いで
したが、結局それだけでしかなかったのです。
「さあ、ご承認を。カラニ若社長」
銃で武装した男たちに囲まれるカラニちゃんに、どんな抵抗が
できるというのでしょう。カラニちゃんは力なくうなだれて、頷
くしかありませんでした。
「よし、これでハワイ家は実質的に家の物になったな。後はダ
ディーを納得させるハワイ家併合の理由を、カラニの方から作っ
てくれるのを待つだけだ。
・・・それにしてもあの若社長、蛮族の酋長にしてはなかなか
美人じゃないか・・」
社長執務室から意気揚々と引き上げるメリケン君の笑い顔は、
少年には似つかわしくないものでいした。
それでもカラニちゃんはまだ諦めていませんでした。重役会議
のことをよく勉強したカラニちゃんは、重役会議にすべての社員
が立候補する資格を得られるように、会社の決まりを変更しよう
と決意したのです。
その知らせに、多くのハワイ家の元からの従業員が集まって、
カラニちゃんを支持する集会を開きました。
「よし。これを口実にしよう。そうだな、無知で野蛮な女社長
が、合理的な重役会議を否定して、おろかなワンマン経営にハワ
イ商店を戻そうとしている。俺たちはそれを阻止する。
・・これぐらい報告すれば、ダディーもハワイ併合を許してく
れるだろう。」
早いところハワイ家を併合したく仕方なかったメリケン君は、
さっそく部下を引き連れて、集会に殴り込みをかけました。
銃を片手に容赦なく、浅黒い肌をした従業員たちを殴り飛ばす
メリケン君一党たち。武器も持っていない相手にやりたい放題で
す。
「お願い、もうやめて!!」
突然の惨劇に、慌てて飛び出してきたカラニちゃん。従業員た
ちを助けたい一心でメリケン君の前に立ちはだかります。
「おや、カラニ社長。これはまたとんでもない騒動を引き起こ
してくれましたね」
「よくも抜け抜けと、そのような事を真顔で言えるわね!」
「おやおや、錯乱されておられるのか。もはや貴方には社長と
いう大任を任せるのは無理のようだ。重役会議は全員一致で社長
の退陣を要求します」
澄ました顔で、あらかじめ用意しておいた言葉を投げつけるメ
リケン君。厚顔無恥をまさに絵に描いた光景ですが、彼らの手に
している銃がそれをごり押ししています。
「・・・ここは私たちの家。何故、そっとしておいてくれない
の」
その銃を前にしても、たった独りでなお従業員の為にメリケン
君の前に踏みとどまるカラニちゃんの姿に、従業員たちが彼女を
守ろうと人の壁をつくろうとしました。
「おやおや、この期に及んでまだ抵抗するのか。しょうがない
人たちだ」
やおらあごをしゃくってメリケン君が部下に一瞥すると、彼ら
は一斉に手にした銃をカラニちゃんを守ろうとする従業員に向け
ました。
「さあ、退任してください、カラニ社長」
すうときの沈黙。
「・・・分かりました」
自分を守ろうとする従業員たちの後姿を見回しながら、すべて
の気負い失ったかなのよう、力なくうなだれるカラニちゃん。
「私は社長を退任します。・・だから、従業員たちは許してや
ってください」
最終的な敗北宣言を引き出して、ニヤニヤと下品な笑みを漏ら
すメリケン君。
「・・そうだね。元の社長といえど、今はただのハワイ家の住
人。そんな奴のお願いなど本来聞く耳を持たないところだが、お
前が俺の下女になるというのなら、特別に聞き入れてやろう」
そんな悪魔の言葉に、顔面蒼白になるカラニちゃん。もうどう
抗うこともできません。
その時です。
「大変です、メリケン坊ちゃん!!」
この混乱の場に、一人の白い肌の男が慌てて駆け込んできまし
た。
「日ノ本家の戦舟が港に現れました。俺たちに挨拶に来るよう
に言っているのに、完全に無視してやがる。・・あいつら、殴り
こみに来たのかも知れねえ!!」
「何!!」
それはまさに青天の霹靂でした。日ノ本家といえば、地球町の
外れの小さな三流商店です。地球町でも大店に引けを取らないメ
リケン君の家に手出しできる力はないのです。
・・・しかし、現実に、今のこのハワイ家に限定すれば、メリ
ケン君の家の部下や戦舟はそう多くありません。
もしかしたら本当に・・・
「チッ、折角のいいところを!!
いったんアジトに戻ってこっちも喧嘩の準備だ。
それから、カラニ。お前はもうハワイ商店の社長じゃない。こ
れからは俺たちがこの家を切り盛りする。分かったら部屋ででも
大人しくしていろ!!」
それだけ言い残すと、慌しくこの場を去るメリケン君一党。
その後姿を呆然と見送るカラニちゃん。
「・・・・日ノ本家??
ニッテイ君なの・・・・!?」
それだけ呟くと、耐え切れない緊張から開放されたカラニちゃ
んは、まるで事切れたかのようにその場に倒れこんだのでした。
日ノ本家がハワイに差し向けたのは、「浪速」と船体名が書か
れた戦舟でした。ハワイ家での出来事を移住した日ノ本家の元社
員から知らされて、慌てて駆けつけたのです。
その浪速はここ数日の間、メリケン君の家の戦舟のすぐ隣に泊
まって、まるでメリケン君の暴挙を威圧するかのように鎮座して
います。
しかし、
「今、日ノ本家に出来る事はここまでです、ニッテイ君」
「・・・残念です、東郷船長」
いてもたってもいられなくなって、この戦舟に乗り込んでハワ
イ家にやってきたニッテイ君は、ギュッと握りこぶしに力を込め
て、荒れ狂う気持ちを押さえ込みます。
たった数日間でしたが、一緒に過ごした少女を助けたい一心だ
ったニッテイ君ですが、浪速に乗ることを許してくれた両親から、
事前にメリケン君とは絶対に喧嘩をしてはならないときつく約束
させられていたのです。
「幸い、メリケン君もこちらに注意のすべてを向けているよう
で、ハワイ家の従業員たちには、初日の騒動以来危害は加えられ
ていないようです。
カラニちゃんは社長の座を追われたようですが、ひとまず無事
のようです」
東郷船長の説明も、ニッテイ君にはあまり慰めにはなりません。
初めて会った時に『良い友達』になった少女を守ることも出来
ない悔しさを残して、今日にも浪速は日ノ本家に戻らなければな
らないのです。
結局、船から下りることも出来ず、船上からハワイ家を眺める
ことしか出来なかったニッテイ君。
ゴメン、と心の中で何度も謝りつつ、ついに出港の時間を迎え
ました。
その時です。
「ナニワ!!」
聞き覚えの声に、岸のほうに目を向けると、そこには昔の面影
を残した少女が、涙を流しながらも、笑顔でこちらに手を振って
いるではありませんか。
一瞬で二人の視線は絡み合いました。
少女の名前を叫びたくなるの心をぐっとこらえて、ニッテイ君
は静かに、メリケン君たちの監視を潜り抜けてお別れにやってき
た少女に対して敬礼しました。
気がつけば、多くのハワイ家の従業員たちが、船体の名前を読
み取ったのでしょう。『ナニワ!!』と叫びながら、ハワイ家から
離れていく浪速に手を振っています。
そんな人々に対して、いつまでもいつまでも敬礼した手を下げ
ることなく応え続けたるニッテイ君は、強くこう思ったのでした。
『もっと強くなりたい』
と。
「・・・・
それから、ハワイの人々の間では、「ナニワ」が「ありがとう」
の意味で使われ始めたと聞いていたんだ。もちらん実際に使われ
ているのを聞いたのはさっきが初めてだったけど」
「・・・・・・」
今までずっとハワイの間は初めからアメリー君の家の一部だっ
たと思っていたニホンちゃんは、静かにパパの話を反芻していま
した。
その時です。
一陣の強い風が、ニホンちゃんの麦藁帽子をさらって行きまし
た。慌ててその行き先に駆け出すニホンちゃんの前に、さっきの
男の子が、不思議そうに空から舞い降りた麦藁帽子を掴んでいる
光景が飛び込んできました。
さっきとは逆の展開です。
何故だか照れながらも、麦藁帽子を差し出す男の子に、ニホン
ちゃんは満面の笑みを湛えてお礼の言葉を告げたのでした。
「ナニワ」
お仕舞い
解説
ab-pro
投稿日: 04/09/20 20:32:52 ID:tSwoXzuS
謝罪と訂正。巡洋艦ナニワの漢字は「浪速」でした。訂正する
とともにお詫び申し上げますが、賠償はご勘弁をm(_ _)m
今回のソースはこちら。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h14/jog226.html
あと、遠い昔に世界不思議発見でもやっていましたね。ハワ
イの砂浜とかはアメリカが人工的に作ったものだとか。
なお、登場人物については、無意味な新キャラを作らないよ
うに幾人かを一キャラにまとめています。
本来浪速に乗り込んだのは、カイウラニ王女との婚姻を申し込
まれた日本皇族・山階宮定麿親王だったと記憶しています。
ちなみに参考にしたハワイの歴史はこちら。
http://www.uraken.net/rekishi/reki-sekai003.html
ところで、数個見たハワイの歴史を紹介するページは、なんだ
か微妙ですね。まあ、奥は語りませんが・苦笑
それでは、次は修理に出しているパソコンが帰ってきてから!
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