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第2264話
ab-pro
投稿日: 2005/06/10(金) 21:38:21 ID:J+S5DFjP
最近、妹のアーリアちゃんのご機嫌が最悪で、ゲルマッハ君を見る
目が痛いほど冷たい今日この頃。
理由も分からずほとほと困っていたゲルマッハ君は、思い悩んだ末
に、「その道のプロ」の元に足を運んだのでした。
「・・・で、だいたい事情は分かったが、それで何故、俺のところ
に来るんだ?」
体育館の裏手。
そう言いながら、律儀に首を傾げてみせるのは、誰有ろうロシアノ
ビッチ君です。
俺は何も知らないぜ、と、いかにも驚いた表情を作ってみせるロシ
アノビッチ君ですが、どういう訳かゲルマッハ君は冷徹な表情で、も
う一度ロシアノビッチ君に要求を突きつけるのでした。
「本来ならこんな事をお前に聞くのは気が引けるのだが、今回だけ
は他に手が無くてな。
ロシアノビッチ。アーリアのことで知っていることを、素直に話し
て貰えると嬉しい」
「だから、何で俺がアーリアが怒っている理由を知っていると思う
んだ?
それこそ、アーリアと仲がいいニホンちゃんにでも訊いてみたらど
うだ?」
いかにも心外、といったジェスチャーまでして否定にかかるロシア
ノビッチ君。でも、普段の粗暴のところがある彼からしてみれば、今
の態度はちょっと不思議な感じもします。
「ロシアノビッチ。ミナまで言わせる気か?
アメリーと並んで、この学校で1、2を争う、お前ご自慢の地獄耳
の実力を知らないとでも思っているのか?
お前の地獄耳と記憶力の実力は高く評価している。
ちょっとしたうわさ話に聞き耳を立てて、クラスの女の子の大好物
のおやつから、ご贔屓の駄菓子屋まで、全てを的確に把握しているお
前のことだ。
今回のアーリアことも何か掴んでいると思うんだが?」
このゲルマッハ君の直球勝負の発言に、ロシアノビッチ君も苦笑い
を噛みつぶしながら、やれやれと呟くしかありません。
「まったく。普通ストレートにそんなこと言うか?
まあ、仮に俺がアーリアの不機嫌の理由を知っていたとして、どう
してお前に教えてやらなければならないんだ?」
真実を告げられても、なお、おどけてみせるロシアノビッチ君。
しかし、そんな彼に、ゲルマッハ君はシニカルな笑みを浮かべて、
こう切り返しました。
「・・・最近、複数の女の子にちょっかいを出しているそうだな、
ロシアノビッチ。
でも、女の子全員に『お前だけだぜ』と言う口説き文句はいただけ
ないな」
「うっ!」
「それに、女の子とのデート資金に困って、親から貰った給食費を
使い込んだのは、まだ親にばれていないようだな?」
「お、お前・・・・」
さっきまでの態度もどこへやら、歯に衣着せぬゲルマッハ君の言葉
に、あっという間に窮地に陥ってしまったロシアノビッチ君。
(参ったぜ。全て調査済みという訳か。
しかし、ここまで手堅い奴が、なんでアーリアが、ゲルマッハとフ
ランソワーズの仲に焼き餅焼いているって気付かないんだ?
まったく、唐変木な野郎だぜ・・・
・・・しかし、本当に参った・・・・)
冷や汗を垂らしながら、究極の選択を迫られるロシアノビッチ。
普通ならここまで弱みを握られれば、余地も無く真相を教えるべき
ところなのですが・・・
こと、この事に関しては、絶対に俺から教えてはいけない、と、心
の奥底で彼の良心が叫んでいました。
「さあ」
答えを聞ける、と確信をもってロシアノビッチに迫るゲルマッハ君。
その時、追い詰められたロシアノビッチは!
ものすごい勢いで回れ右をすると、全速力で駆けだしたのでした。
「・・・逃げた」
予想外の展開に、暫く立ちつくしたゲルマッハ君は、やおらポケッ
トの中の携帯手を伸ばすと、彼の罪状を関係者に知らせるメールの送
信ボタンを押したのでした。
「さて・・」
この件に一区切りつけたゲルマッハ君は、今度は魔法のようにもう
一つのポケットから拳銃を抜き出すと、近くの茂みに向かって猛然と
引き金を引き続けます。
「痛い、痛い、痛いアル!」
押し殺した悲鳴のような声が、かすかに茂みの中から聞こえてきま
した。
ゲルマッハ君の放った拳銃・・・銀玉鉄砲の弾丸は、茂みの中で先
ほどの会話に聞き耳を立てていた何者かに的確にヒットしたようです。
しかしゲルマッハ君は・・・
「なんだ、てっきりクラスの誰かが盗み聞きしていたと思ったが、猫
だったか・・・」
「・・・・・・・・・
にゃー、にゃー、・・・・アル」
一瞬の静寂。
その後、ゲルマッハ君は無言で銀玉鉄砲の全弾を茂みの中にたたき
込んだのでした。
ゲルマッハ君がアーリアちゃんの不機嫌の原因を察知するのは、まだ
まだ先の話のようです。
end
解説 ドイツの治安当局者曰く。
「ドイツの国会議員が携帯電話で何を話したか知りたかったら、ロシ
ア人に訊いてみろ」
と言うほど、ロシア大使館の屋根の上の特殊アンテナは強力だとか。
ロシアノビッチ君の元ネタは、去年、ロシアのハンブルグ駐在領事が
スパイ活動を行っていることを掴んだドイツ当局が、領事の「金と女」
の弱みを掴み、二重スパイになるように接触した事件から。
通常であれば二重スパイに転ぶほどの弱みだったのですが、領事はつ
いに首を縦に振らず、仕方なくドイツはロシア外務省に事実を指摘して
領事は本国召還になったとか。
領事が二重スパイを断った理由は、情報漏洩はロシアでは重罪で長期
の懲役刑になるため、それを恐れたものと推測されます。
チュウゴ君のソースは、今年四月、ドイツでスパイ行為を行った中国
大使館員をドイツ当局が摘発したというもの。
スパイ天国、日本では一体・・・・・
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