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第2271話 あさぎり ◆WOaKOSQONw 投稿日: 2005/06/15(水) 21:17:18 ID:4qgXG7z8
『Operation Sledge Hammer!』

「なんだかなあぁ…」
 溜息つきつつ店頭に荷物運び真っ最中のベトナちゃん。
 フエの間とダナンの間のあいだは廊下が狭く曲がりくねっていて、お手伝いの際の
隘路になっていました。
 しかもママンは何度ベトナちゃんが狭い廊下に不満を漏らしても聞く耳なんか
持っていません。
「ママンもあすこは狭いと思ってるよ。でも皆我慢してるじゃない」
 つまりまあ、皆苦労してるんだから我慢しろという事です。
 とはいえ最近家の商売が上向いてきて、やたらと往来が増えたのと、扱う商品が
大型化したせいで、さすがにママンも何とかせねばと考えるようになりました。
早い話自分が苦労するのが厭になったんでしょうけどね。
 早速受話器を取り上げアジア町の信頼できる工務店に電話となったようです。
 それから3時間、電話口での熱い攻防戦が展開され、ベトナちゃんの家に腕利きの
大工さんがやって来ることになったのでした。…が、

 ぴんぽーん
「はいはーい、ああ、ニホンちゃんいらっしゃ…」
「現場はどこだべ?」
「へ…」
 玄関開けて第一声がアレなニホンちゃん、その御姿は黄色い安全ヘルメットにランニング、
首に手ぬぐい、足袋に鳶さんのズボン、そして身の丈以上の道具箱を肩に抱えています。
「オラの現場がここだって聞いてきたべ?ベトナ(語尾↑)ちゃん、案内してけろ」
「げんば…あ、大工さんってニホンちゃん?」
「んだ」
「あ、そうなんだ、う、うん、わかった。こっち…」
 何か無闇に関わらない方がいいという心の声が聞こえてきて、ベトナちゃん深くツッコまず
にフエの間辺りにニホンちゃんを案内します。
「ここ」
「あぁー、こらいかん、廊下せめえな、よぐおうちの人我慢してたなぁ」
「どうするの?」
「そらおめえ、ぶち抜くしかあんめ」
「はぁ…」
「ほうれ、そったらとこ突っ立ってたら危ねえべ、よいたよいた」
 おもむろに道具箱からでっかいバールのような金槌を取り出したニホンちゃん、ぽかんと
見守るベトナちゃんを軽く無視して壁に向かいます。

「ハァァンマァァーーーーーーーーーー!!!!」

 突如性格が変わったかのように絶叫すると、歪んだ笑顔でスレッジハンマーショット。
 ずがぁぁぁん!という大音響、もうもうと立ち込める土煙、シルエットになっている
安全メットのニホンちゃん。小さなニホンちゃんは遠心力を使ってカレイにハンマー乱舞
させています。しかも笑いながら。
「ベトナちゃん、なしておらをうつろな目ぇで見てるんだべ?」
 虚ろというより怯えているんです。
「ええとね、それ金槌というには大きすぎ。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎ。
それは正に鉄塊…って、ニホンちゃんフツーに怖いよ」
「現場は怖いトコだべさ。それしんねえとアブネエとこだべ」
 ニホンちゃん微妙に勘違いな答えをしつつ、ズボンのポケットからシガーチョコを取り出し
うまそうに咥えます。
「んだども安心するべ、ベトナちゃんも、こん先立派な大工にしてやんべ」
「え……私見てるだけでいいから」
「見てるだけじゃ現場のことわがんねえべ、おらがおすえてやっから、ま、大船に乗った
気持ちで言うこときいてりゃいいべ。なんせベトナちゃんのママンのお願いだべ」
「え…ママンそんな事言ってたの?」
「んだ」
「チョイヨーイ…」
 それからベトナちゃん、1週間にわたってニホンちゃんに付きっ切りだったそうです。学校が
終わると問答無用で即下校。逆らったり不平不満漏らしたりしようものなら、でっかい金槌に
ニホンちゃんが手を伸ばす…
 一度本当に怖くなって逃げ出しましたが、『おやつ出してやんべ』というニホンちゃんの甘言に
瞬時に篭絡されてあっちゅうまに職場復帰。
 最初嫌々ながら手伝っていたベトナちゃんですが、なんだかんだと住宅リフォームにヨロコビ
を感じ始めてしまいました。
「ん、これで完成だべ」
「すご・・・できちゃった」
「ベトナちゃんはやればできる子だべ。そっだらことは最初からわがってた」
 にっこりと笑いながらニホンちゃんはそう言うと、ベトナちゃんの背中をぽんと叩きます。
その仕草はまさにオヤジそのもの。
「ま、また一緒に大工できたらいいべ」
「お、おやかたぁ」
「なぐなベトナちゃん、なぐでねえ。んま、またどっかの現場で会うべ、な?」
 別に明日になれば教室で顔を合わせるんですが、ベトナちゃんにもプロXなノリが移ってしまった
ようです。
 ニホンちゃんは道具を片付けると、夕日に向かって南シナ池のほとりを歩き去ります。
「おやかたーーっ、ありがとーーー!」
 叫ぶベトナちゃんに片手を上げて答えて、ニホンちゃんが見えなくなりました。

めでたしめで…
え?まだ終わりじゃないんですか?

「さあってとベトナ、良かったねえおうちひろーくなって」
「うん、やっぱ新築はいいよねママン」
 見送るベトナちゃんを後から優しく抱きしめ、ママンも満足そうです。
「これで明日からお手伝いの効率がぐっと上がるのかな?」
「うんまあ、最初は慣らし運転とか…いるし…」
 ベトナちゃん何となく嫌な予感。なんだかお手伝いサボリの言い訳を一つなくした気分になって
きました。
「ベトナのお仕事だった荷物運びね、ホーにも手伝ってもらえるようになったんだよ。ここでうちも
大々的に商売に乗り出そっかなって、忙しくなるぞー、ベトナもがんばれー!」
 ママン超上機嫌。ベトナちゃんはママンの言う『大々的』がやたらと琴線に引っかかります。
「あ、それだからって宿題さぼったら承知しないからね。あと、せっかく大工さんの仕事覚えたんだから、
どこかでアルバイトとかできるねこれで!」
「ハハ…そだね…」
 ベトナちゃん心の中でチョイヨーイと絶叫しつつ、ママンとおうちに戻ります。仲良く手を繋ぎ…
ではなく、心なしか肩を掴むママンの手に力が込められていたようですが…

おしまい

解説 あさぎり ◆WOaKOSQONw 投稿日: 2005/06/15(水) 21:21:38 ID:4qgXG7z8
□解説・貫通・隘路克服
※ 大工は解体なんかしません、たぶんwこんばんわ、弟子が出奔しやがったあさぎりですw
※ 本日はベトナムのODA事業、バンドントンネルのお話をば。既に2期工事のお話もあるようです。
【お金の都合がつけば】らしいのですがw
※ ひも付きODAと呼ばれる事業ではありますが、実質ベトナム国内に単独施工可能な事業者がいない
のもひも付きになった理由ではあると思います。実際ベトナム人技術者の育成も行っていたようですし。
※ なんか労働条件云々でスト起こしたりしてますが、最近は労組の組織があっちこっちで出来上がって
るんだとか。社会主義国って労組なかったのね。ちょっと意外w
※ ニホンちゃんの喋りは創作方言ですんで、どこの言葉かとかは正直おっちゃんわがんね。

□メタルカラーなソース
ベトナムの悲願、ハイバントンネル開通までの軌跡【Hotnam!News】
ttp://www.hotnam.com/news/050611021901.html
↓主体工事業者はゼネコンのハザマだったよーです
ハザマ組の現場レポート
ttp://www.hazama.co.jp/japanese/hazamag/genbarepo/0504/genbarepo01.html
↓んーまあ、労組のサイトですがw
全労連 世界の労働者のたたかい
ttp://www.zenroren.gr.jp/world/asia/vietnam2003.html

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