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第2288話 ab-pro 投稿日: 2005/07/04(月) 00:41:07 ID:e2lbbjzT
 放課後の帰り道。
 僕の隣には、今日もフランソワーズが居る。
 屈託もなく笑っていたり、冗談半分の口喧嘩を楽しんだり、一緒に悩んだり。
 ・・・一体、いつから僕は彼女の隣にいる事が、待ち遠しくてしかなくなっ
たのだろう?
 ゲルマッハ君は、ふと記憶をたぐってみたくなりました。

 時は遡ります。

 「やーい、やーい、お前の爺ちゃん極悪人!」
 幼い、だからこそどこまでも無慈悲な子供達の声がゲルマッハ君を囃し立て
ます。
 ほんの気紛れで始まる子供どうしのたあいのない、けれど容赦のないじゃれ
合いに、幼いゲルマッハ君は拳をぎゅっと握りしめて耐えるしかありませんで
した。
 黄色い帽子をかぶった小学校低学年の下校風景。
 幼かった頃、ゲルマッハ君の両親は、決して彼の前でお爺ちゃんの話をして
くれませんでした。
 でも、最近になってたようやく分かってきました。ゲルマッハ君のお爺ちゃ
んが、とてもとても悪い人であったことを。
 「やーい、やーい・・・」
 終わる気配のない子供達の大合唱。
 しかし、ここでまた喧嘩をしたら、またお母さんに悲しい思いをさせてしま
います。
 こう言うとき、ゲルマッハ君は走り出したくなるのを懸命に我慢して、後ろ
を振り向くことなく、早足に家へと向かうのでした。
 やがて、あっさりと別のものに興味が移ったのでしょう。子供達の声が遠の
いていき、ほっとゲルマッハ君が息をついたときでした。

 「・・なぜ、何も言い返さなかったのかしら?」
 
 目の前に、縦巻きロールの女の子がいつの間にか立ちはだかっていました。
 お隣の家のフランソワーズ。 
 僕のお爺ちゃんに家を滅茶苦茶にされたご近所さんの一人。
 「・・・・」
 ゲルマッハ君はきつく口を結んだまま、彼女を睨み付けました。どうせさ
っきの奴らと一緒で、彼女もお爺ちゃんの悪口を言うに決まっています。
 でも、彼女は何も言わずにゲルマッハ君を見つめるだけでした。
 ただ静かに、表情もなくゲルマッハ君を見つめるフランソワーズちゃん。
 ついに沈黙に耐えきれなくなった少年は、
 「・・・お前には関係ない事だ」
 それだけ言って、自分の家に向かって駆け出したのでした。

 それから時が流れ。
 東西に分かれていたゲルマッハ君の家がまた一つになって、別れ別れになっ
ていた妹も一緒に暮らす事になりました。
 今日はその事をお祝いしてゲルマッハ君の家でパーティーが開かれいます。
 でも、ゲルマッハ君は独り庭の外れにいました。
 そこには、小さな慰霊碑が、誰からも忘れられたかのようにひっそりと佇
んでいます。
 昔、お爺ちゃんの部下だった人たちの慰霊碑。
 パーティーの賑やかさからは完全に無視されたその場所で、ゲルマッハ君
だけはせめてお掃除だけでもしてあげようと、独りハーティーを抜け出して
きたのでした。
 そして、掃除も終わり、ゆっくりと慰霊碑に祈りを捧げる少年。
 その時でした。
 彼の背後から声がかけられたのは。
 「こんな処にいましたの?」
 
 少年は、心臓を鷲掴みにされたかのように驚いて、後ろを振り向きました。
 「フランソワーズ・・・、いや、ここにいたのは、その・・」
 しどろもどろに言い訳を考えようとして、言葉に詰まるゲルマッハ。
 まさに最悪でした。
 ご近所からその存在自体が否定されている、お爺ちゃんとその一党。折角
の祝いの席で、ゲルマッハ君がその慰霊碑にお参りしていた事が知れ渡った
ら、一体どんなご近所さん達の非難が彼と家族に降り掛かる事か!
 
 しかし。目の前の少女が口にした言葉は、彼の予想を超えるものでした。
 
 「私も、お参りさせて貰って良いかしら?」

 そう言って、少年の横に並んだフランソワーズ。よく見れば、少女の手に
は百合の花束が握られていました。

 「・・いや、待つんだフランソワーズ!
 ここにお参りした事がしれたら、君まで虐められてしまうかも!」
 慌てて止めようとするゲルマッハ君に、少女は静かに頭を振ります。
 「それは貴方には関係ない事よ」
 少女の意志のこもった言葉の前に、凍り付いたかのようにその場に立ちつ
くしたゲルマッハ君。
 その少年の目の前で、少女は厳粛に慰霊碑に花束をお供えしました。
 やがて、祈りを終えた少女は、まだ凍り付いたままの少年に向き直りま
す。

 「私のした事は貴方には関係ない事。
 そして、貴方のお爺さんのした悪事と、貴方には何の関係もない。
 ・・・これからも宜しく」
 
 そう言って、微笑みながら手を差し伸べたフランソワーズ。

 その光景が、彼が具体的に記憶しているこの出来事の最後の場面でした。
 少女の手を握りしめた瞬間。少年は今までの長い間のつかえを一気に流し
尽くしてしまうかのように、大粒の涙を流しながら、少女にとりすがって、
いつまでもいつまでも泣き続けたのですから。

 そして・・・・

 「・・ねぇ、私の話を聞いていますの?」
 記憶の旅に浸っていたゲルマッハ君の目の前で、フランソワーズちゃんが
頬を思いっきり膨らませて拗ねていました。
 どうやら少年は、少女の大切なお話に生返事を返していたようです。
 「ええと、ゴメン。何の話だっけ?」
 その少年の言葉に、少女は完全におかんむりになってしまいました。

 「ナンでもないですわ。貴方には関係のない事よ!!」

 一瞬のデジャブー。
 ふっと、気配変わった少年に、少女は不思議そうにキョトンとしてしま
います。
 そんな少女を大変に愛おしく感じながら、少年は高らかに宣言しました。
 「・・・関係あるよ。大ありさ!!」

 やがて辺りに響く二人の楽しげな笑い声。
 最近の、二人の下校途中で巻き起こる、良くある光景の一コマでした。
                              end

解説 ab-pro 投稿日: 2005/07/04(月) 00:43:13 ID:e2lbbjzT
 ソースは六月の朝○新聞(アサヒにあらず)のコラムから。
 東西統一直後のドイツを訪問した、当時のフランスのミッテラン大統領が
ナチス親衛隊の慰霊碑をお参りしたお話より。
 この慰霊には、アメリカを始め多くの国々がミッテランを非難したそうで
すが、当時のコール首相はその場でミッテラン大統領に握手を求めると、大
粒の涙を流して大統領を抱きしめたそうです。
 その光景はテレビ中継されており、この事が、今のドイツとフランスの蜜
月の発端だったとか。
 大戦当時の世情を考えれば、国を守るために親衛隊に入る事は、犯罪行為
とは言えないでしょうから。
 仮にカンコ君が日ノ本家で同じような事をすれば、ウヨ君でも脱帽する快
挙なのでしょうけど(その後ならカンコ君の多少の無理なお願いも喜んで聞
いてしまいそうで怖いですが^^;)、我がアジア班では起こりそうもない
出来事ですね。
 ウギャ!
 大切なところで大チョンボ><
 ご指摘の箇所は正しくは「貴方には」です。「に」を打つつもりが隣の「ら」を押していたようで><
 フランソワーズちゃんの最後の台詞とデジャブさせるために、「貴方には」を強調したかっのです
が、頭の中で文が出来上がっていたので、かえってミスタイプを見逃していたようです^^;
 ナンノ=フランソワーズちゃんと言う、イメージ崩させて申し訳ありませんでしたm(_ _)m

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