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第9話
どぜう
投稿日: 2004/08/05(木) 18:12
『あの暑かった夏休み』(前編)
それは、去年の夏休み直前のお昼休みの出来事でした。
「もうっ!うるさいんだよフランソワーズ!!
あたしはアンタの飼い犬じゃない!」
ばんっ、と机を叩く音と怒声が教室中に響き渡りました。
一瞬にして静まり返る教室。クラスにいる全員が声の方向に注目します。
窓側の一角にいがみ合う女子の影二つ。
腕を組んで立つフランソワーズちゃん。
そして、椅子の上胡座をかいて睨み上げているのは、アフリカ班のギニアちゃんでした。
二人は夏休みの自由研究の事で口喧嘩を始めたようでした。
気まずい雰囲気の中、何人かの他のアフリカ班の子たちがギニアちゃんをなだめようとしますが、
ギニアちゃんは怒り心頭のようです。
腕を振りほどくと立ち上がり、フランソワーズちゃんに突っかかっていきました。
「普段からああしろこうしろ!今日という今日は我慢できない!!」
フランソワーズちゃんもやり返します。
「使用人として貴女たちを使ってあげているのよ?勤勉に働きもしないくせに!
使用人なら、使用人らしく、分際をわきまえなさい!!」
「…なんだと…もういっぺん云って見ろ!」
「何度でも繰り返して差し上げます、使用人風情が!分際をわきまえなさい!!」
諍いはヒートアップするばかり、
実際の所、この手の喧嘩は二人に限らずこの頃は良く見られた光景でした。
またか…みんながそう思っていました。
しかし、今日は違ったのです。
ぼふっっ!!
ギニアちゃんがフランソワーズちゃんの顔に給食袋を投げつけたのです。
ざわめく教室。他のアフリカ班の子の何人かは、口に手を当てて青い顔をしている子もいます。
目にでも入ったのでしょうか?
フランソワーズちゃんは顔を押さえてうずくまってしまいました。
「もう沢山だ!奴隷になってなにか恵んでもらえるよりも、
あたしは貧乏になってでも自由を欲しいんだ!!」
「…やりましたわね…この、私に手を上げましたね?!」
片目を押さえながらフランソワーズちゃんが立ち上がりました。
「……許しませんよ…!今云った言葉、必ず後悔させて差し上げます!!」
肺腑の奥を締め上げるような声でした。
そしてそのまま、フラメンコ先生には「用事ができた」とだけ云い、
フランソワーズちゃんは家に帰ってしまいました。
『あの暑かった夏休み』(前編)
ギニアちゃんが、フランソワーズちゃんの「用事」の内容を知るのに、
さしたる時間はいりませんでした。
「ああ、ギニア、ようやく帰ってきたよこの子ったら…」
「なによう、あたし怒ってるの!ちょっと静かにしてて!」
まだ怒りが治まらないのか、お母さんを押しのけて、勉強部屋に入っていくギニアちゃん。
所が、いつもの子供部屋と様子が違います。
勉強道具が見当たりません。
机も、ノートも、鉛筆もなにもかもがありませんでした。
「…!」
ギニアちゃんの背中を冷たいものが走りました。
野兎のように子供部屋から飛び出すと、
廊下で様子を見ていたお母さんと鉢合わせしてしまいました。
「あたしの勉強道具は?!」
「…フランソワーズちゃんが持っていったよ…」
哀しそうな顔でお母さんがギニアちゃんに告げました。
そうです。
ギニアちゃんの勉強道具はその殆どが、
フランソワーズちゃんからの貰い物だったのです。
「……く、くそぉっ!」
ランドセルを廊下に叩きつけると、ギニアちゃんは勉強部屋に戻って、
部屋の扉を締め切ってしまいました。
「…う、う、ううう…っ…」
部屋の向こう側から、ギニアちゃんの声が聞こえてきます。
ギニアちゃんのお母さんは声をかけようかどうか、迷いましたが。
ため息を深く、深くつくと、そこから立ち去っていきました。
『あの暑かった夏休み』(前編)
「――て云う事がね、今日お昼休みにあったんだぁ…」
所変わって、ここは日之本家の食卓。ニホンパパが晩酌をしています。
ニホンちゃんはお父さんのお酒の肴を、少しずつご馳走になっているのでした。
もぐもぐと箸を齧りながらニホンちゃんがお父さんに今日あった出来事を話します。
もちろん話題はフランソワーズちゃんとギニアちゃんの事でした。
「そうかあ、そんなことがねえ…」
お父さんは眉根にシワを寄せて、真剣に聞き入っていました。
「なんですかさくら、行儀が悪い」
台所の後片づけを終えて居間に顔をのぞかせたママが、ニホンちゃんの舐り箸を注意しました。
「あ、はあい」ばつの悪そうな顔でお箸を口から離すニホンちゃん。
「もうこんな時間なんだから、早くお風呂に入りなさい、
夏休みが近いからって、夜更かしなんてママ許しませんからね」
「はあい、はい」肩をすくめながらニホンちゃんが居間から出て行きました。
「……」なにか考えごとをしながら、ビールを傾けるニホンパパ。
「なにか考えごとですか?」
「ん、いや。ちょっとギニアちゃんの家のことをね」
「さくらが云っていた話ですか?」
「うん…大変なことになるかもしれないと。ちょっとね」
「そうですね…あ、私にも一杯下さいな」
「あ、こりゃゴメンゴメン。ささ、お疲れさま」
「いえいえ、どうも」
日之本家では何事もなく、その日の夜は更けていったのでした。
『あの暑かった夏休み』(前編)
そして、次の日の朝早くのことでした。
アフリカ町の一角に轟音が響き渡りました。
「な?なんだ?なんだ??」
驚いたアフリカ町の人たちが家から飛び出して来ます。
「!」目前に広げられていたのは、息を飲む光景でした。
何十台もの重機が、ギニアちゃんの家の一角を取り壊しているのです。
陣頭指揮を取っているのはフランソワーズちゃんでした。
「なにするんだよっ!やめろよ、やめろっ!!」
フランソワーズちゃんに抗議しようと飛び込んでいったギニアちゃんですが、
あっけなく護衛の人達に取り押さえられてしまいました。
「あら、そんな所で何をしているのかしら?
ともあれ、お早うございます、ギニアさん、今日もいい天気ですわね」
地べたに押さえつけられたギニアちゃんを見下ろしながら、
フランソワーズちゃんは勝ち誇ったような微笑みを浮かべました。
「ふざけるなよっ!あたしんちになにするんだよっっ!!」
「ふ、あははは、あはははははは!」
その抗議の声を聞いたフランソワーズちゃんは、身をよじり、
愉快そうに笑いました。
「貴女の家、ですって?」フランソワーズちゃんが大仰に、意外そうに尋ねます。
「そうだよっ!あたしの家だ!あたしの家族の家だ!!」
「冗談も大概になさいな、この家を作ったのは私ですわ。
設計から何から何まで私が作ったの。
貴女は私の指図で石を運んだり、穴を掘ったり。
その程度しか手を付けていないのに、よくまあ、ぬけぬけと自分の物だと云い張れますわね」
「く…っ」
「けれど、安心なさいな。居間と寝室くらいは残して差し上げますわ。
ああ、そうそう。私が描いた家の設計図も持ち帰らせていただきますわね。
ピエール!ピエール?!」
「…は」影のように執事の一人がフランソワーズちゃんの側にあらわれ、
そして恭しくお辞儀をしました。
「見取り図は?」執事には視線を合わせず、フランソワーズちゃんが尋ねます。
「…ここに」差し出される、何枚ものジアゾで描かれた図面。
歯噛みをしながらギニアちゃんは、ただ壊されていく家と、
持ち出されて行く書類を見ていることしか出来ませんでした。
解説
どぜう
投稿日: 2004/08/05(木) 18:15
見切り発車でうpします。
元ネタ、ソースの説明は完成した後でと云う事で。
判る人には判ってしまうと思いますが。
世間一般が夏休み中にはなんとか終わらせたいです。9月までには…
この話、フランソワーズがひたすら外れくじ引いてます。
フランソワーズファンの方、申しわけないw
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(*^ー゜)b Good Job!!
(^_^) 並
( -_-) がんばりましょう
コメント: