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第25話
どぜう ◆8jIdnlW2
投稿日: 2005/04/08(金) 19:04
1.
そう。
あの日僕は母さんに頼まれて、回覧板を届けにカンコの家へ行ったのです。
気は進みませんでしたが、まあ。暇だったので。
地球町は、春の薄ら温かい日ざしの中で、昼寝をしているようでした。
「あら、ウヨ…くん」
自転車ですれ違おうとした僕に声をかけた人影が一つ。
ぽつねんと影のようにたたずむ、ハイチさんでした。
「?…なんですか?」
あまり声をかけられる事も少ない人から、声をかけられたので、
ひょっとしたら、随分怪訝な顔を僕はしていたのかもしれません。
「…ニホン…ちゃんは…どこ?」
白々した日差しの中なのに、なんでこの人は顔に翳りがあるんでしょうか?
ともかく「ああ、姉さんなら、今アサヒと宿題やってますよ」と答えると、
ハイチさんは「あ…そう…」と、云い、夢見るように笑った後に、
ひらりと身を翻して、僕の家の方角へと歩いていきました。
「…?…」
しばらくその背中を僕は眺めていましたが、
いくら眺めていても、ハイチさんが何を考えているか判るわけでもなし。
諦めて、カンコの家へと、自転車をまたこぎ始めたのです。
広い地球町と云えども隣同士。すぐにカンコ家に着いてしまいました。
自転車から下りて、スタンドを下ろし、回覧板をカゴから取り出すと、
サッシの引き戸を僕は叩きました。
「こんにちわー、日之本ですがー」
2.
「開いてるから勝手に上がって来いニダ、今ネトゲの最中ニダ!」
と、家の奥から大きな声が響き渡りました。
なにか変です。形容しがたい違和感が、背中をざわめかせます。
ギシ…ギシッ…ギシッ…
「んぎゃー!!死んだニダ!この糞ネットゲーム!シッパル!!」
悲鳴は居間から聞こえてきます。
「もうやってられないニダ!返品ニダ!じぇったい返品してやるニダ!」
意を決して、僕は、居間のすりガラスの引き戸を開けました。
「なんだ、ウヨニカ」
居間のテレビの前で、フグのように顔を膨らませながら、
チョゴリちゃんが大の字になって寝ころがっていました。
「なんの用ニカ?ウリは今起源が悪いハセヨ?
中元歳暮なんかの貢ぎ物なら大歓迎ニダが、つまらん物なら賠償モンニダ!」
と、チョゴリちゃんはあぐらをかいて、うけけけ、と笑ったのです。
み、見えませんでした。目には入りましたが、パンツなんか見てません!
「ちょ、ちょっとチョゴリちゃん」
「ん、あー。チョゴリニカ。チョゴリは、ほれ。あっちに」
と、指さす先には、しなだれつつ気絶している、カンコが。
3.
「「ああ?!」」
と、叫んだのは、多分同時だったと思います。
「あ?あれ?アレはウリニダ…?じゃウリは誰ニカ?」
ちょ、ちょっと待ってくれよ…
僕は急いでカンコに駆け寄ると、嫌だったんですが、抱き起こしました。
うわ…なんだこの悩ましげな表情…
「んん…」と、薄い睫毛を震わせ、眉間にしわを寄せながら、
カンコがゆっくりと目を覚ましました。
「あ…ウヨくぅ…ん」
いや、そんな。潤んだ目で見上げるなあ…
「こんなの…きっと夢…ニダ…でもでもっ…これ…夢ニダから…」
と、弱々しく呟くと、
カンコの口元が、「ちゅー」の形に変わったかと思うと、
「ん…」と差し出されました。
「う、うわあああぁ!!」
それから先は、良く覚えてません。
カンコを台所の方に放り投げた気がするし、
チョゴリちゃんがなんか烈火のごとく怒っていた気もします。
とにかく、ごめんなさい、とか、さようなら、とか、
思いつく限り挨拶をしながらカンコ家を後にしたのは覚えています。
どこをどう走ったのか、判らないまま、家に帰りました。
【続く】
4.
「ちょっとウヨ!あんた、またカンコぶん殴ったんだって?!」
姉さんの聞こえがなんだかとっても懐かしく聞こえました。
ぱたぱたぱたと、踏みならしても可愛らしい姉さんの足音が近づいてきます。
「いや、あのさあ…」と、靴を脱ぎながら、
奥から出てきた姉さんを見上げると…
「私たち日之本家の過去の行いを忘れたの?!」
瓶底の眼鏡に…ひっつめ髪…
「いや…あの…」
「私たちに大切なことは!過去を反省することよ?!そのためにはね、
間違っ…ても、人様に手を上げちゃいけないの!!」
これは…つまり…
「アサヒ…か?」
「何云ってるの今更!」
「あ…ああぁ…」頭痛くなってきました。俺。
「とりあえずさ…姉さんは?」
「私と歴史の宿題してたわよ。あの子も宿題ほっぽり投げて、
途中で寝ちゃってて…あーもうどうしてこう、
この家は歴史にきちんと向き会わ」
「ごめん、ちょっと」
と、僕は早々に姉さんの格好をしたアサヒから退散して、
姉さんの勉強部屋に向かいました。
いたいた。やっぱり寝てます。
気付けで、アサヒの格好をしてる姉さんを起こしてみる。
「ん…ウヨ…?」ああ、やっぱり姉さんだ。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
…
……
………
5.
「カンコも実は気絶してたんだよね」
「私もそう…だけど…」身の上に不可思議な出来事が降りかかって、
気が気ではなさそうなアサヒの格好をした姉さん。
なんか意味もなく気分いいぞ。
それはさておき。
「気絶する前は?何してた?」
「だから勉強!」イライラしながら姉さんの格好をしたアサヒが声を上げる。
「あ!」ぱちんと手をたたいて…あーもうめんどい。姉さんが口を開いた。
「私たち、ほらアイス食べたじゃない?ハイチちゃんから貰った」
「ああ、あのアンズ味の?」
「そう『せっかくだからこの赤い方を選ぶわ』とかアサヒちゃんが云ってた」
「1個しかなかったから、私はそっちじゃなくて、グレープ味の青い方をもらったけど…
ほら、真ん中で割れるアイスキャンデー、あれくれたのよ、ハイチちゃん」
そう云って、えへ、とか云いながら姉さんは笑った。
当事者意識ないなあ…
「…で?」
「で…頭がきーんと痛くなって」
「気絶してた、か」
やれやれ、と、ため息をつきながら、
僕はもう一度外出の支度をし始めました。
「ん?どこ行くの?武士?」
「決まってるだろ、ハイチさん探しに行くんだよ」
「もう遅いから、明日にしましょうよ?」
「んな事云ってさあ、ったく。とにかく見つけて聞いてくるよ」
たぶんもう夕方だから、あまり家の遠くには出掛けていないだろう。
まずはハイチさんの家に行ってみよう。
そう思って僕は全力で自転車をこぎました。
6.
ごんごんごんっ。
ノッカーを叩いて、しばらく待ちました。
随分長いことまたされたような気もしましたが、
たぶん僕の思い過ごしだと思います。
「はあ…い」
と、ドアを開けて現れたのは、
今日の放課後に会った姿そのままのハイチさんでした。
ま、普通に考えれば夕飯の頃には家に帰ってるよなあ。小学生なんだし。
「で…なにか…ご用?」
とりあえず居間に通されて、なんだか得体の知れない飲み物を出されました。
手は出しませんでした。もとい、出せませんでした。
「いや…あの、アイスキャンデーの件なんですが」
と、かくかくしかじか、事の顛末を話すと、
「あら…まあ」と、
表情は変わっていませんでしたが、ハイチさんは驚いたようです。
ぶつぶつとなにやら思案顔で、台所(?)に入っていくと、
なにやらいろいろと調べていました。
やがて出てくると、少しだけバツの悪そうな顔で、
「ごめん…なさい。ちょうご、けほん。
…レシピを…間違え…て…作っちゃった…」
「う、あ、ああ。やっぱり。何を間違えたんですか?」
「こうも、えーと…香料の…種類」
「と、とにかくですね。なんとかしないと大変なことになると思うんですが」
いろいろ危険極まりない会話が交わされた後で、
結局僕はハイチさんの調合した、飴玉を一緒に作らされました。
7.
「青い…キャンディを、赤いアイスを…食べた…人に」
「食べさせればいいんですね、って、随分いますねえ」
アメリーさんとベガス、チューゴと香、カンコとチョゴリ、
エリザベスさんとフランソワーズさん。ゲルマッハさんとアーリアさん…
もちろん姉さんとアサヒもリストにありました。
こくり、と頷くハイチさん。
「今日…暑かったから」と、ちょっとだけしゅんとした顔で、
そうハイチさんが呟きました。
「じゃ、これは俺が配ってきますよ」と、苦笑しながら、
二つの袋にじゃらりと入った、2色の飴玉を自転車のカゴに載せて、
僕はハイチさんの家を後にしました。
「…誰か…忘れてる、気が」首をかしげながら、
ハイチがそう呟いたのは、
息せき切って自転車をこぐ、少年の耳には聞こえなかった。
…
……
………
「お、おい。カナディアン、お前今日おかしいぞ?」
「あたしは、おかしくないれすよー、えへへへへー」
「ってああ。俺のウォッカ全部飲んじまいやがった?!」
「ああもう!とららいれくらさいよー。
…だいたい兄貴は理解がないんれふよ?きいれます?
わらしはいつまれも兄貴にべたべたされるのは嫌なんれふ。げふー」
「? ??」
「最近フランソワおねー様…わらしよりも、
あのソフィアとか云う田舎モノと…ぐずっ…ぐずぐず」
「…はあ」
「ぐやじいいいいぃ、マスタあ、ますたああ!」
地球町の片隅で、喜劇は幕を閉じ、
しかして、ここからは、彼と彼女の喜劇が、始まるのだった。
【了】
解説
どぜう ◆8jIdnlW2
投稿日: 2005/04/08(金) 21:04
えー。辛い。
辛いです。
ちゃんとソースつけて来たなあ、無銘仁氏。
ソース?こっちにはないですよ。まるごとがぶりとどうぞ。
ちなみに、作話に費やされた時間は、作業のみで、だいたい2時間です。
途中で飯喰ったりしてましたw
にしても、あさぎり氏体調不良ですか…
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