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第29話 無銘仁@謹慎継続中 ◆EheIeILY 投稿日: 2005/05/11(水) 18:32
 「ポリえもん」

 ニホンのお父さんとお母さんは、朝はやくから夜おそくまで
働いています。ニホンは、夕ご飯も毎日ひとりで食べていました。
 両親がいっしょうけんめい働いたので、ニホンの家にはお金が
どんどんたまってゆきました。新しい家も建てることができました。
お父さんはりっぱな車を、お母さんはすてきな洋服を買いました。
けれどもニホンは、いつだってひとりぽっちでした。

 ある日、ニホンが学校から帰ってくると、
玄関の前におとなくらい大きなダルマが、どっしりと座っておりました。
「なに、これ。ぶっさいくなダルマだなあ。」
「こんにちは、ぼくポリえもんです。」
 ニホンはびっくりしました。だって、ダルマがしゃべったんですもの。
「ねえ、ダルマさん。どうしてダルマなのに、言葉がわかるの。」
「ぼくはダルマじゃなくって、ロボットのポリえもんだよ。」
今日は、ニホンのお誕生日でした。優しいお父さんは、
さみしがり屋のニホンに、子守りロボットを買ってきてくれたのです。

 ポリえもんは、ニホンの遊び相手になってくれました。
ふたりは、一緒にテレビゲームをしたり、漫画を読んだりしました。
 しばらくして、お友だちのアメリーが遊びにやってきました。
お友だちはみんな、ニホンの家で遊びたがりました。
楽しいおもちゃがいっぱいあって、おやつだってもらえるからです。
ニホンはアメリーを部屋に上げると、「ちょっと待っててね。」と、
ポリえもんのところへ行きました。
「ポリえもん、あのね。わたし、学級委員になりたいんだけど、
 そのためにね、アメリーくんにどうしても味方になってほしいの。」
ポリえもんはうで組みをして、「ううむ。」と、うなりました。
「それじゃあニホンちゃん、これを使いなよ。」
ポリえもんは、お腹についている大きなポケットを、ごそごそ探りました。
まん丸の手に握られて出てきたのは、お札の束でした。
「アメリーくんや他のお友だちにお金をあげて、根回しするのさ。」
ニホンは急に、ポリえもんがけがらわしいもののように思えてきました。
「そんなの、おかしいよ。お金で心を買うなんて、まちがってるよ。
 このためにわたしは、毎日まじめに勉強して、みんなに優しくして。
 どんなに陰口を言われても、じっとがまんしてきたのに。」
 そのとき、家の外からおとなりのいじめっ子、カンコの大声が
聞こえました。「やいニホン、またいじめてやる。」と、どなっています。
カンコの家はびんぼうでしたから、なんでも買ってもらえるニホンがもう、
たまらなくうらやましくって、毎日いじわるをするのでした。

 どうしよう、どうしよう。ニホンは、アメリーの目の前で自分の悪口を
言われてしまうのかと思うと、気が気ではありませんでした。
ポリえもんのすぐれた電子頭脳は、ニホンの不安を感じとったようです。
「ニホンちゃん、このお金をいじめっ子にわたしておいでよ。」
カンコくんはいじわるだけど、でも、それはおうちがまずしいから。
だから、お金をわたすなんて、もってのほかなのです。
「ニホンはどろぼうのこどもだぞ。ちっとも反省してないぞ。」
外で、カンコがはやしたてています。
もしかすると、もう、アメリーに聞こえてしまったかもしれません。
 ポリえもんは、お札の束を握りしめて迷っているニホンに、
まん丸の手を突き出しました。その手は、ぐんぐん大きくなって――
「ドーン」「ギニャー」

「ドッボーン。」
「やったあ。わたしの勝ちだから、こっちに百円ね。」
その日の夜中、ニホンとポリえもんは、トランプで遊んでいました。
そこへ、お父さんとお母さんが帰ってきました。お父さんは、
ニホンが賭け事をしているのに気づくと、みるみる真青になりました。
「こら、ポリえもん。ニホンにおかしなことを教えてはいかん。
 いいか、ニホン。世の中には、お金よりも大切な物があるんだぞ。」
丸くて大きなポリえもんが、ふき飛んでしまいそうな勢いです。
ニホンには、優しいお父さんがこんなに怒るなんて、信じられません。
「お父さん、おねがい。ポリえもんをしからないで。
 だって、だってね、ポリえもんは、お父さんのまねをしただけだもの。」
お父さんは、鬼のように恐い顔をして、だまって部屋を出てゆきました。
 お母さんは、ぽろぽろと涙をこぼすニホンを、静かに抱きよせました。
生まれて初めて、ニホンはお母さんの胸で泣きました。

※低年齢向けです。推敲してるうちに賞味期限が切れましたorz

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