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第1160話
JY54
投稿日: 02/08/03 00:04 ID:NxJZTkun
「アーリアIN無名都市」
吹きすさぶ砂風が、私のマントを浚おうとする。
延々と歩き通した私が、その廃墟にたどり着いたのはすでに夕刻だった。
今日の夕日は、微かな雲に阻まれながらも、ひどく荒野に映えていると思う。
平坦な寒々しい荒野に無造作に積み上げられた巨石群は、遊びつかれた子供が放棄した積み木のように、不安定にたたずんでいた。
やがてこれらのシミのようなその影は伸び、地を染め上げ巨石群に何万度目かの夜をもたらすことだろう。
さて、私はこの捜し求めた遺跡の地でキャンプを張ることとしよう。
この名さえ忘れ去られた無名都市は、逃げることなどしないのだから。
時に、忘れ去られた廃墟には人々の思念が宿るという。
折からの荒野風がテントを打ちすえる中、私はいつもとは違うどこか奇妙な眠気を感じていた。
・・・この都市遺跡は語継ぐものも無く、無名都市と・・・そう呼ばれている。
かつて「理想」とまで呼ばれた文献上・考古学上の伝説の都市、・・・
しかしいつの頃からか・・・・歴史から消えうせ、現在・・・すべては砂に飲まれる運命に・・・・ある。
無知な者は、・・・これは古代史の呪いであるとまで云って・・・忌み嫌う・・・。
「塔を建てるのだ!
神の神殿に至る道を!
灼熱の太陽の照る中、櫓上の指導者は言う。
私は太陽照る平原にいた。
陽炎の中に数百、数千の群集。
その中の私の周りには我が愛しのニホン、そしてロシアノビッチ、アメリー、カンコ、・・・・・・そして兄さん。
なぜかいつものみんなが一緒だ。だが私は不思議には思わない・・・。
私達はどこかで見たようで、それでいてどこか違う民族衣装を着ている。
「石を積み、天空への道を!」
私達はこの熱さに操られ引き寄せられたように従い、そして働いた。
この土地では太陽は炎のように照る。
地が切り開かれ、地ならしがされる。
人々は力を合わせ大石を運び、せっせとレンガを積み、木を切り板とし、漆喰とアスファルトを練り、想像を働かせ図面を描いた。
時は流れる、それはまるで滴る私の汗のように。
ある時は、アメリーやロシアノビッチのように力の強い者がリーダーとなり、
またある時は、わたしやニホンのように知恵を持つ者が指揮をとった。
人々はローテーションを組み、互いに語り合い力をあわせ作業を進める。
やがてかきりなく伸びてゆく塔。
垂直に高く、高く、遥かに高く。何よりも高く偉大に、太陽に挑むかのように。
その時、この石で出来た都市と美しく調和の取れた塔は全世界すべてであり、私達のすべてであった。
そして、紛れもない勝利の証であった。
私達は神の足元にいたる道を作り終えることだろう。
が、しかし唐突にある夜、地震、雷雨、落雷そして火事、思いつく限りの天災が我々と塔を襲う。
私には多くは語れない。語り尽くす言葉は、私の語彙の中には無いのだ。
地が真っ二つに割れ、空からは大いなる力降り注ぐ。
陳腐な言葉だが、無力な私にはそれを天罰と言うしかないのか・・・。
私たちが見上げる中で、ついにその運命は到来した。
・・・塔は倒れた。巨石が街に降り注ぐ。
石材がスローモーションのように落下し固定される。轟音と地響きは雷雨の音を貫き、私の意識を奪った。
最後に見たのは、何かとてつもない力(これは、神と置き換えてもいいかもしれない・・・)が、塔を呑む様子・・・。
気が付くとそこは朝。
開かれた視界、そこには粗末なテントの下、兄が私に寄り添っているのが見えた。
急ぎ握り返した手を解き、幾ばくかの水を、私の口に運ぶ。
「き、気がついたか、アーリア。」
「・・・ぅぅん・・・・・・兄さん・・・。」
「ああ・・・・・・よかった・・・。」
「・・・・・・・・・・・み、みんなは?」
「ああ。・・・・・・だけど・・・アーリア、
アーリア、・・言葉が・・・言葉が消えた・・・。」
そう、それは突きつけられた残酷な事実であった。
私と兄の側では涙目のニホンが懸命に身振り手振りで話そうとしている。
しかし、口から発せられるのは母音の多い赤ん坊のような言葉ばかり。
そして周りを見わたすと、アメリーとエリザベスとフランソワーズはなんとか話せているものの、
ほかの者はやはりダメで、カンコにいたっては壊れた楽器よりひどい音。
私達の喉は、今までのように、皆の心を動かす歌を歌うことはない・・・。
残された人々は途方にくれる。
1つの言葉がなければ、1つの民は無力だ。
人々は小集団に分裂し、諦めと混乱は争い事を産んでいった。
そして欠乏と混乱の中で幾度目かの朝日が昇った時、兄さんは言った。
「もう・・・この場所にいても仕方が無い。
この地を・・・出よう。きっと、俺達と同じ言葉を持つ人々が、この世界のどこかに、、、いる。
この言葉を信じ街を出ようとする私達をきっかけに、みんなはそれぞれの「あるべき場所」を探すために散っていった。
後にはこの崩れた塔と大地だけが残されていく・・・。
かつてその塔は神へと続く理想であった。
そしてその崩壊後、人々はその都市と塔をただ混乱と離散の地『バベル』と呼んだ。
私は真夜中、目がさめた。
書きかけのノートには判別不可能な文字が書き付けられているる。かろうじて『バベル』という音だけが読める・・・。
目の前のではランプ炎が静かにゆれていた。
嵐の中で、私は今夜世界がきしむ音を聞いたような気がした。
END
なぜニホンちゃんの世界では、皆共通の言語を話しているのか?とふと思ったので書いてみました。
まったくの外伝ですのであしからず。
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