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第1174話 ab-pro 投稿日: 02/08/10 01:06 ID:GAcXlV3x
 今日もシオンちゃんとアラブ班の子供たちの喧嘩は続いています。
 でも、いつからこの喧嘩は続いているのでしょうか?シオンちゃんの家に伝わる物語ので、シオンちゃんのご先祖がその住処を逐われたときからでしょうか?
 いえいえ、実は彼らの喧嘩はそんなに大昔から続いているわけではありません。
 そのきっかけは、第一次町内大喧嘩事件の時なのです。

 「あのカイザーのおたんこなすときたら、本当にどうしてくれましょう!」
 世界一の貴婦人であるビクトリアさんですが、今はどこか鬼気迫る物があります。

 それもそのはず、今は第一次町内大喧嘩の真っ最中。ビクトリア
さんの喧嘩相手であるカイザーおじさんは、ビクトリアさんの寝室
に爆竹を投げ込んで安眠を妨害したり、余所の町から買い寄せた嗜
好品を積んだボートを沈めたりと、最近は世界の海を統べるビクト
リアさんもたじたじの勢いなのです。
 「お嬢様。大変申しあげにくい事ですが、軍資金の方が心許なく
なって参りました」
 ビクトリア家の執事が、おそるおそる用件を申し出ます。
 「またですの!今回の喧嘩はなんてお金のかかる事でしょう!
 これ以上メリケンの家から借金するのも何ですし、またシオン家の人々からお金を用立て
てもらいましょう」
 「受けたまりました。エルサレム別荘をシオン家に与えるというニュアンスを強めておき
ましょう。ついでに部下も足りなくなって参りましたから、アラブ諸家の方にも新しい配下
を差し出すよう、申しつけておきます」
 「・・エルサレム別荘と言う餌を与えてね。インド別荘と同じです。ようはこの喧嘩に勝
てばよいのです!」
 さすがは日の沈まぬ家の主・ビクトリア壌。目的のためには手段は選ばない物言いです。
 そこに、1人のナイトが入ってきました。ビクトリア壌ご自慢の
ロイヤー・ネイビ君です。町内一のボート選手として、この喧嘩で
もビクトリア嬢の自慢の種だったのですが、今はカイザーおじさん
の意外な頑張りにヘキヘキで、いまだ実力を出し切れていません。
 「姫、申し訳ありません。カイザーの水中ボートに我が家の貨物
ボートが次々と沈められています。このままでは私のボートに積む
花火の火薬の材料が底をついてしまいます」
 そう言って悄然と俯くネイビ君。このままでは下手をすると町内
最強のネイビ君率いるボートチームが、新興のカイザー家のボート
チームに負けてしまうかもしれません。
 「キー!負ける事は許しません。善処なさい」

 ついつい言葉がきつくなるビクトリアさん。心なしか声が引きつっ
ています。ビクトリアのお家は多くの物をよその家から材料を購入して
作って儲ける家で、世界の工場とも言われていて何でも作る事が出来る
のですが、その材料が入ってこないとなるとどうする事も出来ないのです。
 今回の喧嘩は負けるかもしれない、と、ふと言いしれぬ不安に包まれ
るビクトリアさんでした。

 しかし、数日後。
 溌剌としたネイビ君が見知らぬ科学者風の男を連れてビクトリアさん
の謁見の間に現れました。
 「お喜びください、姫。このものが何とトウモロコシから火薬の原料
を作り出す事に成功いたしました。これで我がボートチームはカイザー
・ボートチームを追いつめる事が出来ます!」
 「まあ、それはまさに天佑。何と感謝して良い事か。そのほう、名は
何という?」
 ここで、初めて頭を垂れていた科学者が面を上げました。
 「お目にかかれて光栄です。私はハイム・ワイツマンと申します。ロシ
アノビッチ家で生まれましたがシオン家の一員でございます」
 「おお、シオン家にはお世話になっていますが、そなたの功績はそれ以
上です!お礼に何を差し上げればよろしいやら」
 そう言いつつ、満面の笑みを浮かべたビクトリアさんは、自分の大きな
お財布に手を伸ばそうとします。しかし、
 「いいえ、私は何もいりません。その代わりに、我がシオンの家の者に
本物の家をお与えください。それが私の唯一の望みです」
 そう言って神妙に頭を下げるワイツマンに、思わずビクトリアは快諾して
しまうのです。
 「分かりました。我が家の名誉にかけてそなたの望みを叶えて差し上げましょう」

 この約束が果たされるのは第二次町内大喧嘩事件が終わってしばらくした
後だったのです。果たしてそれがこの時の約束の成果かどうかは分かりませ
んが、シオンの人々が自分たちの家を手に入れる大きなきっかけになったの
は間違いありません。
 そして、ビクトリアさんの二枚舌に騙されて、最終的に土地を逐われたア
ラブ家の人々は、逐われた土地に住み着いたシオンの民と喧嘩を始めてしま
ったのです。
 実は、それ以前、シオン家の人々とアラブ家の人々はエルサレム別荘で仲
良く暮らしていたのですが、再び二つの家の人々が仲良く暮らせる時期が来
るのか、もう誰も予想できないのでした。

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