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第1176話 KAMON ◆wzJSYC0I 投稿日: 02/08/12 00:41 ID:IGEJiK4h
「ニホンちゃん救出作戦」

ある日の昼休み。
もうすぐ取り壊される予定の旧校舎に、怪しい人影が2つ。
「何もたもたしてるニダ、ニホン! 急がないと謝罪と(略」
「やめようよカンコ君〜。ここ、古いし、今にも崩れそうだよ〜。」
「ニホンは意気地なしニダなー。これだけ古い校舎なんだから、金目のものなんかたんまりあるに違いないニダ。先生はそれを知ってて隠してるニダ。」
「そんなの無いよ〜。帰ろうよ〜。」
カンコ君が、無理矢理ニホンちゃんを連れて探検していたのでした。

「ケンチャナヨ。それに、宝を見つけたらニホンにも半分分けてやるニダ。」
そう言って、校長室の引き戸を開けようとしますが、開きません。
「結構硬いニダ・・・うりゃ、キムチパワーーーーー!」
ミシ、メキメキ。ドアは開きました。
しかし、同時に鴨居が真っ二つに折れ、両脇の柱が倒れてきます。
どうやら老朽化して鴨居も柱も腐り果てていたようです。

「ア、アイゴーーーーーーーーー!」
何百個、何百キロとも知れぬ瓦礫が、カンコ君の頭上に降り注ぎます。
それを見て、ニホンちゃんはとっさに身を投げました。
「カンコ君、危ない!」
「えーと、あとはヘキサシアノ鉄酸カリウム・・・。沈殿反応の教材はこれで全部ね。」
フラメンコ先生は、次の授業のために薬品を揃えていました。
「化学は苦手なのよねー。ええと、銅イオンを含む水溶液にヘキサシアノ鉄酸カリウムを落とすと沈殿の色は・・・」

ずずーーーーーーん!
「ひっ!」
フラメンコ先生はびっくりして硫酸を教科書の上にこぼしてしまいました。教科書の紙が見る見る真っ黒くなっていきます。
「ビックリした・・・。下手したら私の顔がこうなるところだったわ・・・」

硫酸の始末をし、予備の教科書を取り出し、音のした方を見て、フラメンコ先生は二度ビックリしました。今度は手ぶらだったのが勿怪の幸いです。
そこには・・・何もありませんでした。そう・・・つい1時間前まであったはずのものすらも。
「旧校舎が・・・無い・・・」
校庭に野次馬が集まります。
古びて苔生してはいたが荘厳なたたずまいを見せていた旧校舎が、今は木屑と煉瓦屑の山と化していました。面々は、凄惨たる瓦礫の山を見て言葉を失います。
「悲しいことですが・・・。一人のけが人もいなかったのは幸いでした。」
コクレン校長先生がつぶやきます。

「全員いるわね! 戻って教室で授業よ!」
フラメンコ先生は生徒を叱咤しています。
が、その矢先、タイワンちゃんの顔が真っ青になりました。
「先生・・・ニホンちゃんとカンコが・・・いません・・・」
フラメンコ先生の顔色は、紙のように真っ白になりました。
「まさか・・・あの瓦礫の中に!? 嫌あああああああああ!」
悲鳴を上げ錯乱た彼女を、誰も止められぬまま傍観していました。
その時、2階のベランダから、ジュネーブ君が飛び降りてきました。
彼は、興味がないからと、今まで一人教室で授業の予習をしていたのです。

ぴりぴりぴりーーーーー!
高らかにホイッスルを鳴らすと、救急箱を首から提げた犬が、すごい勢いで走ってきます。
「来たか、レッドクロス。飛び込んでニホンとカンコを探せ!」

しばらく瓦礫に鼻を近づけてかぎ回っていたレッドクロスでしたが、やがて、一番立派そうなドアにさしかかったところで、ジュネーブ君の方に向かって吼えました。
「分かったな? よし、今すぐ行く!」

「ダメよ・・・ジュネーブ君・・・危険だわ・・・はっ!」
やっと正気を取り戻したフラメンコ先生が止めようとすると、大きな手が彼女の肩をつかみました。
それは、彼の父親、スウィッツランドルフ先生でした。
「早く止めないと・・・」
あせる彼女の肩を一層強くつかんだまま、普段は中立の彼が、ゆっくりと首を横に振りました。
「ジュネーブは・・・もう止められませんよ・・・。」
しばらくドアの下でごそごそやっていたジュネーブ君でしたが、やがて、2人の人間を担いで立ち上がりました。そのうち一人をどさっと地面に投げ出します。タイワンちゃんが駆け寄ってみると、カンコ君でした。
「気を失っているだけだ。レッドクロス、救急箱をおいてこいつを保健室へ連れて行け。
タイワン、水でも飲ませてやれ。いや、ぶっかけろ。こいつには少し灸を据えてやらないと行かん。」
タイワンちゃんは、カンコ君を背負ったレッドクロスについていきました。
「さて・・・問題はこいつだ・・・」
残りの一人、ニホンちゃんをそっと犬走りのコンクリートに寝かせると、救急箱を開きました。
額から大量の血が流れ、呼吸も脈も停止しています。
「あんな奴をかばったばかりに・・・莫迦な女だよ。」

「何だと貴様!」
ジュネーブ君の胸ぐらをつかんだのは、アーリアちゃんでした。
「貴様・・・この期に及んでまだそんなことを・・・」
「お前こそ、この期に及んで何だ? 愛しのニホンちゃんを救うのが先じゃないのか?」
「くっ・・・」
アーリアちゃんは振り上げた右手をそっと下ろしました。
「そうだ、それでいいんだ。で、兄貴の方! さっさと額の止血をしろ!」
今度はゲルマッハ君に怒鳴ります。
「何だお前、何時も組むのを拒んでおいて虫がよすぎないか?」
「口答えは許さん!」
ニホンちゃんの容態を見たゲルマッハ君は、素直に彼に従いました。

ゲルマッハ君は、慣れた手つきで手早く包帯を巻いていきます。
「よし。X線を撮ってみないと分からないが、頭蓋骨に損傷はないようだ。」
「分かった。ご苦労。さて、今度は心肺機能か・・・。
俺が心臓マッサージを行う。アーリア、お前は人工呼吸だ。」
アーリアちゃんにライフセーバーを寄越しつつ、ジュネーブ君は心臓の位置を探します。
アーリアちゃんは、ライフセーバーをニホンちゃんの口にあてがい、準備をします。
「俺が10回やったらお前が1回だ。いいな。1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,はい!」
「ぷぅ〜。」
どれくらい時間が経ったでしょう。ジュネーブ君とアーリアちゃんがいくら献身的な処置をしても、ニホンちゃんはいっこうに息を吹き返しません。
「・・・ちょっとストップ。呼吸は?」
「・・・無い。」
「脈も・・・無いか・・・。もう一度!」

みんなが固唾を呑んで3人の様子を見守っていました。
アーリアちゃんは涙目になりながら、汗だくになりながらニホンちゃんに息を吹き込み続けます。
「頼む・・・ニホン・・・生き返ってくれ・・・」
さらに時間はすすみ、みんながダメかと思ったその時。
ジュネーブ君が突然アーリアちゃんの制止しました。
「ちょっと待て・・・」
ジュネーブ君がニホンちゃんの手首に指を当ててみると・・・
わずかですが鼓動を感じます。
「やった、脈が回復した! よし、次は呼吸だ、替れ。」
「断る。最後までここは私がやる。」
「なら勝手にしろ。お前なら任せても大丈夫そうだからな。俺は・・・寝る・・・」
ジュネーブ君は額の汗を一拭きすると、そのまま倒れて高いびきをかきはじめました。

さらに小一時間。アーリアちゃんがひときわ大きく息を吹き込み、ニホンちゃんの胸がだんだん低くなっていくのを確かめ、次の息を吹き込もうと身構えていると・・・。
一番低くなったニホンちゃんの胸が、再び盛り上がっていきました。
また低くなり、また盛り上がり、彼女の胸はそれまで無かった、そして皆が願ってやまなかった動きを始めました。

「いやったああああああああ!」
クラスのみんなは手を取り、抱き合って喜びました。
フラメンコ先生はらしくなくその場に泣き崩れます。

「やった・・・呼吸復活・・・もう安心だ・・・。」
アーリアちゃんはつかれた顔でにっこりほほえむと、そのまま後ろへ倒れます。
それを後ろからゲルマッハ君が抱き留めました。
「よくやった、アーリア。しばらく休め。」
そのまますうすう寝息を立てるアーリアちゃんに、ゲルマッハ君が囁きました。

「・・・おい、ジュネーブ、起きろ。ニホンちゃんが生き返ったぞ。」
スウィッツランドルフ先生がジュネーブ君をつつきます。
「そうか。よかったな。」
ジュネーブ君は起きて伸びをしました。
「ああ眠い。おい親父、今日は帰って寝るぞ。早退するとフラメンコ先生に伝えてくれ。」
「馬鹿者。授業どころか下校時刻がとっくに過ぎてるぞ。」
「関係ない。寝るといったら寝る。」
「一つ忠告しておく・・・風呂入れよ! 歯磨けよ! 宿題やれよ!」
「あ゙あ゙? 何処で覚えた?」
「代理でやってた時にニホンちゃんに教わった。彼女の家では大受けだそうだ。」
「普段はまじめくさってるのに・・・変な奴・・・。」
病院に担ぎ込まれたニホンちゃんは、その後48時間眠り続けた後に、意識を取り戻しました。
ニホンちゃんが目を開けると、そこにはニホンちゃんの両親の姿が。
「気がついた・・・よかった・・・」
ニホンママは安堵の表情を浮かべます。
目を覚ましたニホンちゃんは、事態を把握できていないようです。
「あれ? カンコ君は?」
「お前のおかげで軽い打撲程度で済んだそうだ。」
ニホンパパが言うと、今度はニホンちゃんがホッとしました。
「そう・・・よかった・・・」
「今度学校に行ったら、ジュネーブ君とアーリア兄弟にお礼を言っておくんだぞ。
あと15分応急処置が遅かったらどうなっていたか分からなかったそうだ。」
「うん! 分かった!」
ニホンちゃんは、いつもの明るい笑顔に戻ってうなずきました。

解説 KAMON ◆wzJSYC0I 投稿日: 02/08/12 00:53 ID:IGEJiK4h
・・・というわけで、長かった・・・。
スウィッツランドルフ先生は、時計作りが得意ですが、
保険委員のジュネーブ君、得意分野は人命救助。
いつもは共同活動に消極的な彼も、
もしもの時は大活躍します。

おまけが続きますが、おまけも長い・・・。

おまけ:
ばしゃっ!
タイワンちゃんがバケツに5杯目の水をぶっかけた時、カンコ君は目が覚めました。
「気がついたわね・・・。」
が、カンコ君の目に真っ先に映ったのは、タイワンちゃんではなく、ジュネーブ君の愛犬レッドクロスでした。
「うまそうな犬ニダ・・・」
すると、危険を察知したレッドクロスは、カンコ君の頭に深々と噛みつきました。
「アイゴーーーー! 頭から血が出たニダ! この犬は謝罪と(略」
「命が助かっただけでもありがたいと思いなさいよ・・・
ニホンちゃんをあんな目に遭わせて・・・
バカンコの方こそニホンちゃんに謝罪と賠償をしる!」
「ニダ?」
「謝罪と賠償をしる〜〜〜〜〜〜!」
「これじゃあべこべニダ、アイゴーーーーーーーーー!」

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