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第1224話 KAMON ◆wzJSYC0I 投稿日: 02/09/21 00:25 ID:mUzVftJ0
「家なき子ポーラ 前編」

物心ついた頃のポーラちゃんの記憶は、空腹と孤独だけ。

そのころ、彼女は、ロシアノビッチ家の敷地にあるウラジオ孤児院にいました。
お父さんやお母さんは、遠いところで、長い間ロシアノビッチ家の召使いとして働かされていたのです。
そのときは町内大喧嘩のどさくさに紛れてロシアノビッチ家から逃げ出していましたが、その後再びポーランド家とロシアノビッチ家との間で喧嘩が起こり、孤児院の人たちがどんなにがんばっても、ポーラちゃんはとてもおうちに帰れそうにありませんでした。

孤児院の人たちは、それでもユーロ町の人たちに必死で助けを求めました。
が、先の大喧嘩でどこも疲弊しており、だれも助けてくれません。
万策尽き、ダメ元で行ったのが、日ノ本家---ニッテイさんのところでした。

もう日も落ち始めたころ、引き戸を叩く音がかすかに聞こえます。
そのあまりにも望みのなさげな音は、最初ニッテイさんに、風の音かと思わせたほどでした。が、かすかに人間の声のようなものが聞こえます。
「・・・さい。ごめんくださいまし。夜分恐れ入ります。」
「はいはい、どちら様ですかな?」
草履をつっかけ、心張り棒をはずしながらニッテイさんが応答します。

引き戸を開けると、そこにはすらっとやせた・・・否、げっそりやせ細った壮年の女性が立っていました。
「夜分恐れ入ります。私はこういうものでございます。」
彼女はおそるおそる名刺を差し出しました。
「ふむ・・・ウラジオ孤児院の方ですな? 今日はどうしてまた?」
「はい、私どもで預かっているポーラちゃんという子のことなんですが・・・・」
「ああ、彼女のことはよく知っていますよ。親御さんのことで大変なんだそうで。」
「ええ、今日は折り入ってお願いが・・・」
その女性は話し始めました。大地主たちの間で虐げられてきたポーランド家の陰惨な歴史。
当主がソビエト氏に変わってからも未だ止まないロシアノ家との啀み合い。
そのせいで実の親と離ればなれになったポーラちゃんのこと。
「せめてこの子だけでも、無事に家へ帰してあげたいのです。
無謀な相談とは存じております。ですが、あなたが最後の望みなのです。
どうか、どうかこの子を・・・ううっ・・・」
彼女は畳に突っ伏し、その顔を涙でくしゃくしゃにしました。

彼にも同じくらいの年の孫---ニホンちゃんがいます。皮肉にも、ポーラちゃんを離ればなれにする原因となった一回目の大喧嘩で、日ノ本家は莫大な富を得、ニホンちゃんには何不自由ない生活をさせてあげられます。が、その裏で親にも会えない子供がいるのなら・・・。
ニッテイさん自身、ついこの間ロシアノ家と喧嘩をして、勝ちはしたもののボロボロになり、命辛々帰ってきたばかりです。ロシアノビッチの脅威は重々承知していました。
ポーラちゃんを助ければ、ニッテイさんが無傷ですむわけはありません。
が、しかし、彼の腹は最初から決まっていました。

「よろしい。ポーラちゃんはこのニッテイが必ず家へ送り返して差し上げよう。」
「本当ですか!?」
「左様。八紘一宇は我が家の家訓じゃ。困っている人を放っておかないのがサムライの精神ですからな。」
「ありがとうございます。なんとお礼を言ってよいやら・・・」
彼女の涙は、歓喜の涙に変わりました。

・・・後編へ続く

解説 KAMON ◆wzJSYC0I 投稿日: 02/09/21 00:29 ID:mUzVftJ0
KAMONです。
大作なので前編と後編に分けます。

http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Brush/6519/
こちらのサイトの、「大和心とポーランド魂」のFlashを見て感動し、書いたものです。

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