戻る <<戻る | 進む>>
第1223話 雉虎 ◆KIJIcyP2 投稿日: 02/09/20 01:09 ID:CW+8eoTY
歴史は動いた

 夏も終わり夜風も肌寒くなった頃
ニホンちゃんの元へ一通の手紙が届きました。
「誰だろう?」
ニホンちゃんは訝しがりつつも封を開けるとそこには・・・

「話がしたいニダ。タクシーで来るハセヨ
              キッチョム」

と書かれています。
ニホンちゃんは少々驚きましたが、ニホンちゃんは
「望むところよ!」
と意気込みました。

 ニホンちゃんは少し前に東シナ池で何処からとも無く
やって来て勝手に沈んだ謎のラジコンボートをお小遣いで引き上げて
いたからなのです。
よく調べてみると『どうもキッチョム君の物らしい』という結論を
ニホンちゃんは出しました。
それをどうやって聞いてみようかと思っていた所だったのです。
 最近、学校での話題は専ら、キッチョム君と中東組のイラク君の話題が
のぼります。
アメリー君などは過激です。
「イラクは引き篭もりで何を考えてるか判らない。だからブッ飛ばーす!」
「キッチョムも同じだ!」
などとみんなの前で高らかに宣言したぐらいなのです。
「暴力はいけないよ〜。あたしがキッチョム君と話をしてくるよ〜。」
とニホンちゃんは、アメリー君を諌めていたのです。

 ニホンちゃん家の猫が度々居なくなるのです。
それも突然に・・・
ニホンちゃんの家の猫は自由に飼っています。
結構、頻繁に他の人の家まで遊びに行く事があるのです。
でも、ニホンちゃんの家の庭で寝ている筈の猫が居なくなったり
フラメンコ先生の家に遊び行ったまま帰ってこなかったりした猫もいました。
ニホンちゃんは、長い時間をかけ調べた結果・・・
『猫を最後に見た人は、キッチョム君がいつも側にいたらしい』
という事が解ってきたのです。
そこでキッチョム君に

「猫を知らない?」

という手紙を書いてみたりしたのですが
キッチョム君からの返事はいつも決まって

「そんなモノは知らないニダ。またウリを悪く言うニホンの陰謀ニダ!」

と言う殴り書きに近い返事が返ってくるだけです。
こんなやり取りを数週間も続け、ニホンちゃんも一度ちゃんと会って
問い質さない駄目だという気持ちになっていたのです。
ニホンちゃんは、「明日、伺います」と返事を書きキッチョム君に
送りました。
「でも、なんでタクシーなんだろう?いいや、ウチの自転車で行こうっと」
ニホンちゃんはあっけらかんと独り言を言うと翌日を待つ事にしました。

 そして翌日・・・
ニホンちゃん、ここに来るまで一騒動ありました。
サヨックおじさんが自分も連れて行けと騒いだのです。
訳の解らない奇声を上げて「うお〜!地上の楽園〜!」と大騒ぎでした。
そんなこんなもあったのですがニホンちゃんはキッチョム君の部屋の前まで
辿り付きました。
無論、アメリー家製のニホンちゃん専用自転車でです。
 「おじゃましま〜す。」
ニホンちゃんは初めてキッチョム君の部屋に入りました。
昔、ニッテイおじいさんが日の本家の家長だった頃、一時期だけ
このカンコ家は日の本家の一部だった時があったと言う事はニホンちゃんも
聞いていましたが、ニホンちゃん自身が入るのは初めてです。
緊張の趣で、部屋に入ったものの中には誰もいません。
「あれ〜?」
ニホンちゃんは呼び出されたので既に待っているものとてっきり思っていましたが
部屋の中はもぬけの殻です。
どうしたものかと途方に暮れてた時、スパーンと音を立てて押入れの引き戸が
開きました。
「ひぃ!」
これには、ニホンちゃんもびっくりです。
なんと押入れからキッチョム君が出てきました。
「やあ!悪いニダね。忙しい所、呼び付けてしまったハセヨ」
キッチョム君は、ニコニコとしながら押入れから出るとギュっとニホンちゃんの
手を握りました。
一方、面食らったニホンちゃんは更に動揺します。
普段なら、たまに街中で会っても会話どころか「テポドンLOVE」と
書かれたナイフをポケットから取り出し、見せびらかすように脅してくる
キッチョム君なのですが、それが今はニコニコとしながら握手している・・・
ニホンちゃんは何か悪い夢でも見ているような気分になりました。
キッチョム君は握手していた手を離すとすかさず、ニホンちゃんの背中に手をやり
テーブルまで誘導し、更に椅子まで引き出してくれます。
普段であればニホンちゃんも実に紳士的な行為だと感心したのでしょうが
この時、ばかりはこの行動が、えもいえず不気味さとなって感じてしまうのでした。
お互いがテーブルに付いたところでニホンちゃんは今だニコニコと笑顔を絶やさない
キッチョム君に切り出しました。
「キ、キッチョム君、今日はどう言った用件なの?」
ニホンちゃんは笑顔を絶やさないキッチョム君の不気味さを押さえつつ聞きました。
「いや、そんなに大した事は無いニダ。アジアの平和についてご近所のニホンと
話をしたいと思っただけニダ」
笑顔を絶やさないキッチョム君はさらりと言ってのけました。
『あじあのへいわー!?』
ニホンちゃんは、心の中で叫びます。
何故ならキッチョム君から生涯をかけても聞けそうもない言葉をニホンちゃんは
耳にしたのですから無理もありません。
「そ、そうね。とても大事なことよね」
さすがニホンちゃん、多少、声に動揺がありますが大人に振る舞います。
「でもね、キッチョム君、それにはね幾つかの解決しなきゃいけない問題があると思うの・・」
ニホンちゃんはキッチョム君に話はじめました。
アメリー君のこと・・・ニホン池や東シナ池に出る謎のラジコンボート・・・
そして行方不明の猫のこと・・・
ニホンちゃんは一つ一つ、決して威嚇せず怯えず、淡々と話します。
「でね、今、話した事を解決しないとあたし・・・キッチョム君に協力、出来ないな。」
キッチョム君は真顔で腕を組み考え込んでいます。
しばらく、「う〜ん」と唸っていると、突然にポンッと手を叩き言いました。
「ニホン、お茶にしようニダ。ウリが用意するニダ。」
とまたニコニコしながら言いました。
ニホンちゃんはここまで来たらもう何も驚きません。
「ううん、あたしは家から持って来てるから・・・へーき」
と言ってキッチョム君に持参した向日葵がプリントされた水筒を見せました。
キッチョム君はちょっと残念そうな顔をしましたが、またすぐに笑顔に戻ります。
「そうニダか?じゃちょっと失礼して持ってくるニダ。」
キッチョム君はそう言うとまた押入れの中に入っていきました。
ニホンちゃんは、あの押入れの中がどうなっているのか気になりましたが
藪を突いて蛇が出るのがイヤだったので覗きたい衝動を押さえました。
しばらくするとキッチョム君が白のティーカップに紅茶を淹れて押入れから出てきました。
ニホンちゃんはその香る紅茶に憶えがあり、キッチョム君に尋ねます。
「いい香りね。アールグレイ?」
キッチョム君はずずずと音を立てて啜っていたティーカップから口を離し言いました。
「さすがニホンニダ、教養があるニダね。」
ニホンちゃんは普通なら喜ぶところなんでしょうが、どうしてもキッチョム君に言われると
背筋に寒いものしか感じませんでした。
しばらくの時間、二人は無言でお茶を啜っていましたがその空気を壊したのはキッチョム君
でした。
「ニホン、さっきの答えニダが・・・」
キッチョム君は、例の笑顔で話し始めます。
ニホンちゃんも水筒のコップをテーブルに置き、姿勢を正しました。
「ニホン、ウリはアメリーと仲良くしたいと思っている。だからアメリーがウリの部屋を
見たいと言うのであれば構わないハセヨ。」
ここまでの言葉、ニホンちゃんは予想はしていました。
「それから、ニホンの家の猫の事ニダ。あれはやっぱりウリの部屋に来たニダ」
ニホンちゃんは度肝を抜かれました。
猫とラジコンボートの件は絶対に否定すると思っていたからです。
それをいともあっさりと認めた。
この言葉には、さすがのニホンちゃんも思わず口をパクパクさせてしまいました。
その様子を見てキッチョム君は一瞬、ニヤリと笑いましたがまた顔をニコニコさせながら
話を続けました。
「でもウリの所為では無いニダよ。ラジコンボートが勝手に捕まえてきたニダ。」
「後、ラジコンボートも確かにウリの物ニダ。でも暴走して何処へ行ったかわからなかった
ニダ。ウリがニホン池に走らせた訳では無いハセヨ。」

 今まで何度も尋ねていた事を、いとも簡単に認めている。
今までのキッチョム君は一体、なんだったのか?
ニホンちゃんは、驚きのあまり呆然としてしまいました。
しかしある事にふと気が付きました。
その考えを口に出そうとしましたが、その答えを聞くのがニホンちゃんは怖かったのです。
でも聞かなければいけない・・・
ニホンちゃんは頬に冷や汗が辿るを感じましたが、その汗を拭いもせずにキッチョム君
に聞きました。
「で、今、ウチの猫達は何処に?」
ニホンちゃんは、キッチョム君の部屋の中を見回しましたが猫のいる雰囲気はありません。
キッチョム君は相変わらず笑顔で答えます。
「残念ニダ。ニホンの家から遊びに来た猫は11匹居たニダが、8匹は死んでしまった
ニダ。ウリが丁重に埋葬したニダ。本当に遺憾に思うニダ。後の4匹はウリの部屋で
幸せに暮らしているハセヨ。」
ニホンちゃんは、この時ほど怒鳴りたい衝動に駆られた事は無かったでしょう。
キッチョム君は、平然としかも笑顔で言っています。
その上、「遊びに来た」と言われては一生懸命に探したニホンちゃんの立場がありません。
ニホンちゃんは心の中で怒鳴りました。

『それを拉致って言うんだぁ!しかも8匹は死んだ?殺したんじゃないのぉ!』

ニホンちゃんは今すぐにでも立ち上がってテーブルの上に方膝を立て中指を立てた
手の甲をキッチョム君の顔の前に突き出してやりたい気持ちでいっぱいです。
でも98%の怒りの中に2%の理性が残っていました。
いけない・・・ここで怒りを表に出してはいけない・・・

心の片隅から声がします。
ニホンちゃんは、冷静を取り戻しました。いや取り戻そうと努力しました。
「そ、それでお墓は何処に・・・」
やや、引き攣った笑顔でニホンちゃんはキッチョム君に尋ねました。
キッチョム君はテーブルからティーカップを取り上げると一口啜り言いました。
「それが判らなくなってしまったニダ。探しておくニダ。判ったら連絡するニダ」
ニホンちゃんは、キッチョム君の不気味な笑顔の正体がここではっきりと解りました。
キッチョム君はまたティーカップをテーブルに戻すとニホンちゃんに言います。
「それでニダ。是非、ニホン家と正式な交流を行いたいニダ。どうハセヨ?ニホン」
ニホンちゃんは『来た!』と思いました。
まさにキッチョム君の笑顔の裏にある思惑とは正式交流の事だとわかったのです。
正式に交流をするとなれば日の本家はキッチョム君が困っている時は助けなければ
いけないというルールがあるのです。
それを引き出す為のカードをキッチョム君は切ってきたと言う訳なのです。
ニホンちゃんは考えました。真剣に考えました。
そして、キッチョム君にこう言いました。
「そんな大事な事、今すぐには返事出来ないよ〜。それはまた来月に話をしましょう?」
キッチョム君はニヤリと笑います。
「ウリはそれで構わないニダ。じゃ来月から話し合いをはじめるニダ!」
ニホンちゃんは、キッチョム君のニコニコ顔がニヤニヤ顔になったのに気が付くと
げんなりとしてしまいました。
「キッチョム君、今日はもう帰るね・・・」
ニホンちゃんは椅子から立ち上がり入り口の引き戸を開けた時、キッチョム君から
声が掛かりました。
「ニホン、来月にまたニダ。」
「うん」
ニホンちゃんはそう返事をするとキッチョム君の部屋を出て行きました。

帰り道、ニホンちゃんは来る前に決めていた回答はほぼ得られたものの、なにか釈然としない
ものを感じました。
そしてニホンちゃんは、キッチョム君の部屋で客死した8匹の猫にふと思いを馳せると
涙が溢れるのでした。
そしてニホンちゃんは、溢れ来る涙も拭かずに唇を噛み締め来月から始まるキッチョム君との
話し合いを決意するのでした。

おしまい


解説 雉虎 ◆KIJIcyP2 投稿日: 02/09/20 01:17 ID:CW+8eoTY
どうも、雉虎です。
北朝鮮ネタを書いてみました。
ソースは特にありません。
今回の件を私なりにまとめてみた結果です。
駄文の上に長文で読みずらいかもしれませんが
ご感想、ご意見などありましたら今後の参考にさせて頂きます。
よろしくお願いします。

この作品の評価を投票この作品の評価   結果   その他の結果 Petit Poll SE ダウンロード
  コメント: