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第1234話
KAMON ◆wzJSYC0I
投稿日: 02/09/25 01:53 ID:3XrHUbjR
「家なき子ポーラ 後編」
一回目の大喧嘩のせいで両親と離ればなれになりシベリア孤児院で過ごすポーラちゃん。
彼女をうちへ帰したいという孤児院の人の要望を、ニッテイさんは快く引き受けました。
ニッテイさんは、ちょうどロシアノ家に駐屯していた部下に連絡し、ポーラちゃんを送り届ける手はずを整えました。
「・・・ふむ、ルートの目処がつき次第送り届けてくれるそうです。
・・・どうですかな、それまで、ポーラちゃんをうちで引き取るというのは?」
突然の話に、孤児院の人は驚きました。
「え?いいんですか?」
「うちのニホンも遊び相手ができて喜ぶでしょう。」
「ありがとうございます! 何から何まで気遣っていただいて・・・」
次の日、自分より大きいリュックをしょったポーラちゃんが、日ノ本家へやってきました。
「ポーラです。」
玄関で出迎えたニッテイさんは、言葉を失いました。
煤と垢まみれの顔。骨と皮ばかりの足は、リュックがもう少し重かったら折れてしまいそう。服は、幾万とも知れぬ虫食い穴と染みと継ぎ接ぎで、元の布地が分からないくらいでした。
「こんなになるまで誰も何もできなかったなんて・・・」
ニッテイさんは彼女の数奇な運命の前に、彼女のふけと虱だらけの頭を愛おしそうに撫でるしかできませんでした。
ニホンちゃんも、ニッテイさんと手をつないで彼女を出迎えていたのですが、
彼女のボロボロの服を見ると、おもむろに自分の服を脱ぎ出しました。
「これっ! さくら! 何をしておる!」
が、いつもは聞き分けのいいニホンちゃんがなぜか聞く耳を持ちません。
コートを脱ぎ終わると、今度はセーターとスカートを脱いでゆきます。
が、自宅の玄関先とはいえそこは通り。ニッテイさんが見かねて彼女を制止しようとしたそのとき。
彼女は、今脱いだ自分の服を、きれいに畳んでポーラちゃんに手渡しました。
「これ、あげる」
それは、ニホンちゃんの一番のお気に入りでした。
この間も、エリザベスちゃんのうちに遊びに行くときに、丁度この服をクリーニングに出していて、駄々をこねてニッテイさんを困らせたばかりでした。
ポーラちゃんはというと、彼女の思いがけない行動にとまどっている様子。
が、すぐにまだ暖かい衣類を受け取り、「ありがとう」と頭を下げました。
ニホンちゃんは、パンツ一丁のまま、にっと笑いました。
ニッテイさんは、制止しようとする手を引っ込めて、彼女の優しい笑顔をうれしそうに見ていました。
ポーラちゃんとニホンちゃんは一緒にお風呂に入り、洗いっこしたり、自分の境遇についていろいろ話したりしました。
お風呂から上がると、ニホンちゃんのおばあちゃん、ナデシコさんが浴衣を出しておいてくれていました。
「さあさあ、ニホンや。湯冷めしないうちに着替えなさい。ポーラちゃんの分もあるからね。」
ポーラちゃんにとっては、浴衣なるものは見るのも着るのも初めてです。
いつも着ている民族衣装と違い、前がゆったりしていて、袖の部分がぶらぶらします。
袂---つまり袖のぶらぶらした部分に、ナデシコおばあちゃんがこっそりキャラメルを入れてくれました。
「おじいちゃんとニホンには、内緒だよ。」
おばあちゃんの悪甘い笑顔に、ポーラちゃんは純粋無垢な笑顔で答えました。
その後も、日ノ本家の人たちの親切とおばあちゃんのおいしい料理で、ガリガリでみすぼらしかったポーラちゃんも、次第に本来の美しさを取り戻していきました。
そうこうしているうちに、ニッテイさんの部下たちから、ポーランド家へのルートの目処がついたという連絡が入ってきました。
「やだー! 帰りたくないよー! もっとニホンちゃんといるのー!」
出会いがあればまた別れもあるもの。
大人はいつの間にかその現実を知ってしまいますが、それは幼い彼女には酷なものでした。
今日、ニッテイさんの部下がポーラちゃんを送っていく日だというのに、ポーラちゃんは床の間の柱にしがみついて離れません。
「ほら、ポーラちゃん、お父さんやお母さんに会えるのよ。」
「やー! もっとここにいたいのー!」
子供って、こうなってしまったらもはや梃子でも動きません。
孤児院のお姉さんが2人がかりで引き離そうとしますが、まるでダメ。
立派な床柱が涙と鼻水でぐちゃぐちゃです。
孤児院のお姉さんたちがまたポーラちゃんを引き離そうとすると、ニッテイさんが制止し、ポーラちゃんの頭を撫でて言いました。
「ポーラちゃん、君のうちのお父さんやお母さんは、おうちを建て直そうと必死だ。でも、お父さんやお母さんだって、いつまでも君といられる訳じゃない。
そしたら今度は、ポーラちゃんがおうちを建て直さなきゃいけない。
だから、お父さんやお母さんはポーラちゃんが必要なんだ。分かるね?」
ニッテイさんの言葉は、難しくてよく分かりませんでしたが、パパやママがポーラちゃんを大切に思っている。そういいたいことだけは伝わったようです。
ポーラちゃんが床柱にしがみつく手足をゆるめると、ニホンちゃんがよってきました。
「今度、ポーラちゃんのうちに遊びに行ってもいいかな?」
「・・・また、あえる?」
「うん、約束する。」
靄が晴れるように、ポーラちゃんの顔がぱっと明るくなりました。
迎えの馬車がやってきました。
ポーラちゃんが名残惜しそうに乗り込むと、ニホンちゃん以下日ノ本家の人間が、馬車いっぱいのおみやげを持たせてくれました。
最後に、ニホンちゃんが進み出ると、ポーラちゃんが口を開きました。
「また、いつか、絶対、遊びに来るから。」
「うん、きっとだよ。」
そういうとニホンちゃんは、小指を鍵状にして差し出しました。
ポーラちゃんが同じまねをすると、ニホンちゃんはその小指を絡め、上下に降る仕草をしました。
指切り拳萬。これがニホンちゃんとの約束の印であることをポーラちゃんが知ったのは、もっと後のことです。
「ニホンちゃん、今まで、どうもありがとう。」
「またいつか、絶対会いに行くからね。」
馬車が地平線の向こうに見えなくなっても、二人は互いに手を振りあっていたのでした。
解説
KAMON ◆wzJSYC0I
投稿日: 02/09/25 01:57 ID:3XrHUbjR
長かった・・・KAMONです。
これは、この間書いた「家なき子ポーラ」の後編です。
よって、ソースは前回と同じです。
さて、すげえ長いですが、この後「後日談」が続きます。
その話はまた今度。
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