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第1269話 KAMON ◆9awzJSYC0I 投稿日: 02/11/06 00:25 ID:spaqCxLH
「トル子ちゃんの恩返し」

ある休日のこと。
トル子ちゃんは、オスマンじいさんに出前を頼まれて、
自転車でニホンちゃんのうちに向かっていました。

「うーん、アジア町って広すぎてやんなっちゃうわ。
このエルトゥールル号でも半日かかっちゃうなんて。
・・・えーと、極東通りはこの辺だけど、日ノ本、日ノ本・・・。」
トル子ちゃんは、迷路のように入り組んだアジア町の路地をすいすい走り抜けていきます。
彼女の愛車は、トル子ちゃんお気に入りの自転車、エルトゥールル号。
これさえあれば地球町のどんなところへもひとっ走りで行けるような気がします。

しばらく狭い路地を進んでいくと、大通りが見え、その先に「日ノ本」の表札を掲げた家が。
「あ、あれだあれだ。生ものだから早く届けないと・・・。」
が、その焦りがトル子ちゃんの判断力を鈍らせました。
路地を抜けて大通りに出たところで、トル子ちゃんは減速なしで一気に突っ切ろうとしてしまいました。

が、焦るあまり、横からすごいスピードで走ってくるスポーツカーの前に、躍り出てしまったのです。
スポーツカーの流線型のフォルムが土手っ腹に突っ込み、
車輪を薙ぎ払い、トル子ちゃんの小さな体を大きく跳ね上げました。
トル子ちゃんは、宙を舞った後、アスファルトの上にしたたかに打ち付けられました。
トル子ちゃんを轢いたスポーツカーが一瞬止まりました。中から話し声が聞こえます。
「どうするのよヒロムー。子供轢いちゃったわよー」
「この辺は人通りが少ないし、黙ってりゃばれないや、マキコ。逃げちゃえ逃げちゃえ。」
薄情なスポーツカーは、瀕死のトル子ちゃんを残していずこへか走り去っていきました。

一方そのころ、ニホンちゃんちではお茶の準備が着々と進んでいました。
「トル子ちゃんまだかなー。『オス饅堂』のお菓子ってすっごくおいしいの!」
ニホンちゃんが垂涎の表情でトル子ちゃんを待ちます。
「まあ、トル子ちゃんの料理のうまさは、フランソワーズちゃんやチューゴ君にも引けを取らないといわれているからな。」
パパも待ち遠しそうです。
「そろそろ来る頃じゃないかな。姉さん、玄関で待ってようよ。」
「そうね。」
ウヨ君に促され、ニホンちゃんはスリッパをつっかけて玄関へ向かいました。
「う・・・なんだか生臭い・・・って、うわ、大変だあああああ!」
ウヨ君がドアを開けると、玄関先に派手に飛び散った血飛沫が。
そして、目の前には大破した自転車と、血を流して倒れているトルコ帽をかぶった女の子。
「ウヨ? どうしたの!?」
「姉さん! 救急箱を持ってきて! 父さんと母さんに連絡を!」

救急箱と両親を連れて戻ってきたニホンちゃんは、その惨憺たる光景に言葉を失いました。
が、迷っている暇はありません。
ニホンちゃんも、ついこの間、エリザベスちゃんちのロールスロイスに乗っていて交通事故に遭いましたが、その時エリザベスちゃんたちは、ニホンちゃんを助けずに行ってしまいました。
その時の絶望感や悔しさは、ニホンちゃんが一番よく分かっているのです。
ニホンちゃんは、トル子ちゃんに包帯を巻いたり、体を温めたり、必死で手当をしました。

トル子ちゃんが意識を取り戻したのは、ニホンちゃんのベッドの上でした。
「あ、気が付いた! トル子ちゃん、大丈夫?」
ニホンちゃんが心配そうに顔をのぞき込みます。
「あ・・・あたし・・・生きてる・・・。」
トル子ちゃんはゆっくりと目を開くと、起きあがって辺りを見回しました。
「良かったー。このまま目を覚まさないんじゃないかと思って心配したよー。」
ニホンちゃんが半分涙目になって胸をなで下ろしました。
トル子ちゃんの方は、包帯だらけの自分の体を見回し、
さっきスポーツカーに撥ねられた時の恐怖を改めて実感しました。
「うう・・・こわかった・・・こわかったよおおおお〜。」
今まで押さえていたものをこらえきれず、トル子ちゃんはニホンちゃんにしがみついて泣きました。
「ありがとう、ありがとう、ニホンちゃん。」

「気兼ねしなくていいから、治るまでゆっくりして行きなさい。」
トル子ちゃんが泣きやんでから、ニホンパパが言いました。
「ありがとうございます。でも・・・。自転車滅茶苦茶になっちゃったから帰れないや・・・。」
「なに、大丈夫。私が車で送っていこう。」
「本当に何から何まで・・・」

「あーあ。でも、おす饅堂のお菓子が食べられなくなっちゃったのは残念だなあ・・・」
「これ! さくら!」
ニホンちゃんがぼそっと言ってしまったのを、あわててパパが咎めます。
「そうだったんだっけ、どうしよう・・・ そうだ!」
トル子ちゃんはしばらく考えた後、手を打ちました。

「今日届けるはずだった『スレイ饅』の作り方を教えてあげる!」
「ええ!? あの『おす饅堂』でも一番人気のお菓子を? いいの!?」
「本当は門外不出なんだけど特別にね。他の人には内緒だよ。特におじいちゃんには。」
「ありがとう!」
「じゃあ、用意するものは、小麦粉と砂糖と・・・」
トル子ちゃんがベッドの上で材料や作り方を指示して、ニホンちゃんがママと一緒になってメモし、秘伝のレシピができあがりました。
それを元にニホンママが焼き上げ、トル子ちゃんがベッドの上という以外は通常通りの楽しいティーパーティーになりました。

ニホンパパのカローラが、「おす饅堂」の前に到着しました。
連絡を受けていたオスマンじいさんは気が気ではありません。
車から包帯まみれで降りてきたトル子ちゃんを見て、泣きながら駆け寄ってきました。
「おお! トル子! よくもまあ無事で・・・よしよし。」
それから、ニホンちゃんやパパの方を見て、深々と頭を下げました。
「このたびはご迷惑をおかけしまして・・・何とお礼を申し上げて良いやら・・・」
「いえいえ。当然のことをしたまでですよ。こちらこそ遠いところをはるばる・・・」
「いやいやもうこのご恩は一生忘れません! トルコ魂にかけて必ずやいつかご恩返しをいたします!」
歯茎にめいっぱい力を込めて喋るオスマンじいさんに、ニホンパパは優しく微笑みかけました。
「『困った時はお互い様』が我が家の家訓です。いつかそのご恩に甘えることがあるでしょう。その時は宜しくお願いします。」

その後、オスマンじいさんの恩返しは意外な方法で実現されました。
それが何かはまた次回。

解説 KAMON ◆9awzJSYC0I 投稿日: 02/11/06 00:32 ID:spaqCxLH
KAMONです。 すいません、題名は「トル子ちゃんの恩返し 前編」としてください。
東欧キャラ萌えシリーズ第2弾、今回はトル子ちゃんです。
元ネタは、トルコの軍艦エルトゥールル号が、日本の潮岬沖で沈没、
ほとんどが死亡する大惨事の中、
串本町の住民たちがわずかに生き残った乗組員を必死で看病した話から。

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