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第1270話 KAMON ◆9awzJSYC0I 投稿日: 02/11/06 02:47 ID:spaqCxLH
「トル子ちゃんの恩返し 後編」

ニホンちゃんちへ出前に行く途中で交通事故に遭い、瀕死の重傷を負ったトル子ちゃん。
必死で看病したニホンちゃん一家に、オスマンじいさんは必ず恩返しすると約束。
さて、オスマンじいさんの恩返しとは・・・?

時は過ぎていき、日常に埋没していくうちに、ニホンちゃんたちは、トル子ちゃんの事故を、
大して気にもとめなくなってきました。
そんな中、ニホンちゃんは、用事でイランちゃんのうちへ行っていました。
イランちゃんは、最近家のやり方をがらっと変えようとしている真っ最中。
そのやり方が気にくわないイラク君と、いつも喧嘩をしていたのでした。
「テヘランの間」で、ニホンちゃんはイランちゃんといろいろ話していました。

「イラク君のことはどうなの?」
「大っ嫌い! 箸の上げ下ろしにまでいちいち文句を言ってくるのよ!? 信じられない!」
「でも、仲良くした方がいいよー。中東町のみんなが迷惑してるみたいだよー。」
「やだ! イラクがいちゃもん付けるの止めない限りやだ!」
音便に事を済まそうとするニホンちゃんと、嫌なものは絶対に認めないイランちゃん。
別に仲が悪いわけではないのですが、二人の考えはイスカの嘴のようにすれ違うばかり。
その時でした。ぷるるるるる。イランちゃんちの電話が鳴りました。
「あ、ごめんね、ちょっと出てくる。
もしもし、イランですけど・・・イラク!? いったい何の用よ!」
イラク君、電話の向こうでかなりご立腹の様子。
「イラン! 貴様、ニホンちゃんを味方に付けて俺を潰そうとしてるだろ!」
「何を根拠に! 言いがかりはよしてよ!」
「うるさい! 明日の2時、それより後にイランのうちから出ていくやつがいたら、
誰であろうと2B弾ぶつけてコテンパンにしてやる!」
「・・・ちょっと待ってよ! 今、いろんなところからお客さんが来てるのよ!」
「知ったことか! 巻き添えを食いたくなければそれまでにとっとと出ていくよう言うしかないな!」

がちゃ。 つー、つー、つー。
電話はそれっきり、切れてしまいました。
イランちゃんの言うとおり、今、イランちゃんちには、いろんなところからお客さんが来ていました。
イランちゃんが電話でのことを話すと、みんなびっくり仰天。
「もしもし、ママ? 斯様然々こういう訳で、すぐ迎えに来て!」
みんなは、思い思いの方法で家族に電話をかけ、迎えを要請しました。
危なすぎて、または遠すぎて独りでは帰れない子ばかりだったからです。

「・・・もしもし、ウヨ? 今、イランちゃんちで斯々然々という訳で、すぐ迎えに来て!」
ニホンちゃんも、すぐ家に連絡しました。
「・・・分かった、姉さん、すぐ行くよ!」

・・・が、待てど暮らせど全く迎えが来ません。
エリザベスちゃんちのロールスロイスが、ゲルマッハ君ちのフォルクスワーゲンが、
マカロニーノ君ちのポルシェが、カンコ君ちの両班ネコ車が続々と到着し、各々を乗せてイランちゃんちを離れていきます。
「ねえ、マカロニーノ君、お願い、一緒に乗せてって!」
「愛するニホンちゃんのお願いとはいえ、それはできないな。
これは2人しか乗れないんだ。マミィと僕が乗ってそれでおしまいさ。
早く迎えが来るといいね。チャオ!」
マカロニーノ君は、その場を逃げるように立ち去っていきました。

「とんだ災難でしたわね。幸運をお祈りいたしますわ。」
エリザベスちゃんが優雅に走り去っていきます。
「ニホンはとうとう家族にも見捨てられたニダ! いい気味ニダ!」
薄情な捨てぜりふを吐いて、カンコ君は悠々と去っていきます。
そして、とうとうニホンちゃん一人だけになってしまいました。
「もう時間がないよ・・・どうしよう・・・何やってるのよ〜。」

そのころ、ウヨ君は、必死でパパを説得しているところでした。
「なんで迎えに行かないんだよ! このままだと姉さんは帰れなくなっちゃうよ!」
「でも、迎えに行っても帰ってくる時に無事である保証はないし・・・」
「そんなこと言ってる間にさっさと迎えに行った方が早いじゃないか!」
「でも・・・」
ウヨ君がどんなに説得しても、パパは返事を渋るばかり。
ついに、片道でイランちゃんちへ行くまでにかかる時間を過ぎてしまい、
日ノ本邸からニホンちゃんを迎えに行くことは不可能になってしまいました。
ニホンちゃんは、半分涙目になって迎えを待っていました。
もうこっちへはやってこられないし、来られても送っていけないことは分かっていましたが、
ニホンちゃんには他にすべき方法がありませんでした。

その時、遠くからプロペラ音が聞こえてきました。

(BGM→http://www.midi-box.com/midi/G059.mid

あわてて空を見ると、真っ赤な機体に三日月と星のマークのヘリコプターが。
ヘリコプターは徐々にこっちに近づいてくると、イランちゃんちの上でホバリングを始めました。
派手にジェッディン・デデンを流しながら、ヘリコプターはゆっくりと下に降りてきました。
ハッチが開き、中から見慣れた顔が。トル子ちゃんでした。

「大丈夫!? ニホンちゃん!」
プロペラ音に消されないように、トル子ちゃんは声を張り上げました。
「だっはっはっは! 迎えに来たぞい!」
器用にヘリコプターを操縦しているのは、何とオスマンじいさん。
「時間がないぞい! 早く乗れ!」
「はい!」
ニホンちゃんがヘリコプターに乗り移ると、トル子ちゃんが腕を引いて押し込み、ハッチを閉めました。
間一髪。本当にぎりぎりで間に合い、ニホンちゃんは無事イランちゃんちを離れることができました。
ニホンちゃんは、イランちゃんちを飛び立った後もしばらく、自分が助かった実感がつかめず、呆けていました。が、すぐ我に返り、深々と頭を下げました。
「ありがとう。トル子ちゃんたちが来てくれなかったら今頃どうなっていたか・・・。」
するとトル子ちゃんはにやっと笑って言いました。
「なに、エルトゥールル号の時の恩返しをしただけよ。」

そう言えばそんなこともあったっけ。ニホンちゃんは今まですっかり忘れていました。
「あんな事・・・まだ覚えていてくれたんだ・・・。」

「それだけじゃないぞい。」
ヘリコプターの操縦をしながら、オスマンじいさんが割り込みました。
「わしが若い頃は、ロシアノビッチに店を荒らされてなあ、わしはずっとロシアノビッチが嫌いだったぞい。でも、あのときはだんだん店の売り上げが落ちてきてなあ、何にもできんかった。」
「そのにっくきロシアノビッチを叩きのめしたのがニッテイさんだったぞい。
その知らせを聞いた時はほんとに胸のすく思いじゃった。」
オスマンじいさんは、本当に懐かしそうに当時のことを話してくれました。
一方そのころ、ウヨ君は半ば錯乱状態に、パパはニホンちゃんを見捨てたことに激しく罪悪感を感じていました。
「もうおしまいだああああああ! 姉さんはイランちゃんちから出られない!」
「はああ・・・例え五体砕けようともニホンを迎えに行くんだった・・・嗚呼神よ仏よ!」
すでに二人とも正気の沙汰ではありません。

「号外! 号外!」
その時、珍しく本当のスクープを手に入れたアサヒちゃんが、号外をばらまきに来ました。
「父親にも見捨てられ、イランちゃんちに取り残されたニホンちゃんをおす饅堂店主が救う!」
「こら! この期に及んで資源の無駄遣いを・・・って、姉さんが助かった!?」
信じられないとでも言うような顔でウヨ君がアサヒちゃんに詰め寄りました。
「その話、本当に本当なんだろうな!?」
「ええ、記者クラブ会員証に賭けて。こんなの捏造・・・じゃなかった間違えようがないじゃない!」

その時、プロペラ音と共にジェッディン・デデンが聞こえてきました。
空を見上げると、そこには「おす饅堂全品半額セール」の垂れ幕を下げた、真っ赤な機体のヘリコプター。機首と側面に付いている三日月は、紛れもなくトル子ちゃんちのものでした。

異常に長い垂れ幕をするすると巻き上げながら、ヘリコプターはゆっくりと下に降りてきました。
完全に着陸すると、ハッチが開き、中からトル子ちゃんとニホンちゃんが。
さっきまで半狂乱になっていたウヨ君とパパが、泣きながらニホンちゃんに駆け寄ります。
「ごめんよ、ごめんよニホン! 今度は例え宇宙の果てまでも迎えに行くから! 不甲斐ない父さんを許しておくれ!」

トル子ちゃんの交通事故のことを知らないアサヒちゃんは、何故トル子ちゃんがニホンちゃんを助けたのか分からず、首を傾げていました。
「ニホンパパがトル子ちゃんちにお金を援助してるからかしら?」
でも、そんなことが分からなかったところで彼女のイデオロギーには何の差し障りもなく、
あとはろくにトル子ちゃんを取材しないまま放置してしまいました。
「思わぬところでご恩返しができましたな。」
ニホンちゃんに抱きついておいおい泣いているパパに、
オスマンじいさんは後ろからそっと声をかけました。
「いえ、あのときのご恩返しだとしても有り余るほどのご恩です。ご迷惑をおかけしました。」

「さて、トル子、帰って半額セールの準備ぞい! ノルマはスレイ饅5000個!」
「げ・・・忙しくなるなあ。」
「あの・・・、お邪魔じゃなければ、お手伝いに行きましょうか?」
ニホンママが控えめに提案しました。
「作り方ならある程度分かりますし・・・。」
「ほうそれは・・・ん? 何故日ノ本さんが? さては・・・トル子!」
「はいいいいい!」
「あれほど漏らすなと言ったのに漏らしおったか!」
「ひいいいい! ごめんなさいいいい!」
「でもまあ・・・日ノ本さんにならしょうがない。」

「では・・・お願いできますかな?」
「ええ、喜んで。」
ヘリコプターは、ニホンちゃん一家を乗せて、トル子ちゃんちの方へ飛んでいきました。

解説 KAMON ◆9awzJSYC0I 投稿日: 02/11/06 03:05 ID:spaqCxLH
KAMONです。トル子ちゃんの恩返し、後編です。
3月20日午後2時以降、
イラン上空を飛んでる飛行機を無差別に撃墜するという警告をイラクが発したことに端を発し、多くの邦人がテヘランに取り残されましたが、彼らを救ったのがトル子航空でした。
邦人救出の理由については、エルトゥールル号事件の恩返しだとの事です。

http://www.kyoto.zaq.ne.jp/sasakisama/swf/Japan-Turkey.swf
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h11_2/jog102.html

トルコといいポーランドといい、東欧の人って、受けた恩をいつまでも忘れないものなんですね。どっかの国とはおおちが(PAMPAM

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