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第1410話
ナナッシィ
投稿日: 03/02/12 21:08 ID:tlO6KhLK
『大好きなおじさん』
私がそのおじさんに初めて会ったのは、随分昔のこと。
おじいちゃんに連れられてきたぼさぼさ頭と髭のおじさんは、
「初めましてさくらちゃん。会えるのを楽しみにしてたんだよ」
と言いながらとても人懐っこい笑顔で、出迎えた私の頭を撫でた。
おじさんは私の家でたくさんの人を相手にお話をしていた。
内容はあの時の私には難しくてよく分からなかったけど、
おじさんの声と話を聞いているだけで、私は楽しかった。
そういえば、おじさんは私を膝の上に座らせて、みんなにこんなことを言っていた。
「可愛い女の子を膝の上に座らせると1時間が1分に感じるけど、
熱いストーブの上に座ると1分が1時間に感じるだろう?」
みんなが笑っているのを見て、すごく恥ずかしかったのも良く覚えている。
その後のおじさんの歓迎会で、おじいちゃんやお父さんが日ノ本家流の隠し芸を見せると、
お礼にと言っておじさんはバイオリンを聞かせてくれた。
その途中で、おじさんは私のほうを見ながらいたずらっぽくウインクしてきた。
だから私もウインクで返したんだけど、慣れてなかったから
もしかすると両目でまばたきしただけだったのかもしれない。
だって、おじさん大笑いしてたんだもの。
そんなある日、私はお家で勉強中、お母さんに難しい算数の問題を出された。
分かるまでおやつは御預け、と言って少しいぢわるな笑みを浮かべたお母さん。
困っていた私を助けてくれたのは、おじさんだった。
部屋で何かの研究をしていたおじさんは、嫌な顔一つせず丁寧に教えてくれた。
驚いてお詫びに行ったお母さんに、おじさんは笑顔で答えた。
「いや、私が教えたこと以上に、私はさくらちゃんに教えてもらっているのですよ。
さくらちゃんがどんな勉強しているかとか、お家でどんなしつけを受けているかとかね。ねー?」
「ねー♪」
あの時は可笑しくておじさんと一緒に笑っちゃったけど、
今思えば、そのまま真っ赤になって俯いていたお母さんには悪いことをしたと思う。
一ヶ月ほど滞在した後、おじさんは帰る予定になっていた。
お別れの時、おじさんは片膝をついて、私の頭を撫でながらこう言った。
「さくらちゃん、君の純粋で素直な心、それをずっと無くさないでいてね」
おじさんがどんな顔してそれを言ったのかは覚えていない。
私はもう涙が滲んで、おじさんの顔がはっきりと見えなかったから。
意味はよく分からなかったけど、私はただ頷くことしか出来なかった。
そして、おじさんは去っていった。
それから暫くして、お父さんと一緒におじさんに会う機会があった。
またあの茶目っ気たっぷりな笑顔に会えると思うと、それだけで嬉しくなってくる。
だから、お父さんの顔がとても強張っていたことも、あまり気に留められなかった。
おじさんは前に会った時と比べて、随分と白髪としわが増えていたように思う。
でも、そんなこと気にしている暇は無かった。
おじさんはお父さんに駆け寄り両手を握ると、頭を下げて
「すまない、申し訳ない」と声を詰まらせながら繰り返した。
お父さんは何も言わないまま、唇を噛んで、おじさんをただ見つめていた。
そんな二人を見て、私は大声で泣いた。
それは、悲しかったからでは無く、むしろ怖かったから。
二人が、私の知らない二人になってしまいそうだったから。
おじさんは両膝をついて、泣いている私の体を両腕で強く抱きしめた。
その手が服越しに、治りかけの背中の火傷痕に触れる・・・
私が痛みに身を捩ったのに気付くと、おじさんは手を離して泣き崩れた。
両手で頭を抱え、激しく全身を震えさせながら、床に幾つもの涙の跡を作っていた。
「ごめんよ・・・ごめんよ・・・・・」
それ以上はもう、言葉として聞き取れなかった。
私も泣いていたからかもしれない。
それ以来、おじさんと会うことはなかった。
何であの時おじさんが泣きながら謝っていたのか、
その事について、この前お父さんは教えてくれた。
おじさんがアメリー君の家で花火を作ることに賛成していたこと、
それは家族を守りたい気持ちからだったこと、
それの使用を止められなかったこと、
そして・・・
おじさんは亡くなるまで地球町中を回って、
二度と同じようなことが起きないように話し合いを続けたらしい。
その頃には「幽霊みたい」なんて言われる位やつれていたという話も聞いた。
でもそんなおじさんの姿、私にはとても想像できない。
私のおじさんのイメージはそう、ちょうどあの写真・・・
いたずらっ子の笑顔で舌をべえって出しているあのおじさん・・・
「おじさん・・・私もおじさんのこと、大好きだよ・・・」
終。
解説
ナナッシィ
投稿日: 03/02/12 21:16 ID:tlO6KhLK
(解説)
いつもと違う作風に挑戦してみました。というわけで笑いは当社比3%に大幅カットw。
このおじさんというのはもうお分かりかとは思いますが、アルバート=アインシュタインのことです。
第一次世界大戦敗戦後のドイツでは、その敗因をユダヤ人と平和主義者にあるとする
反ユダヤ勢力が拡大していきました。
その中で、ユダヤ人であり平和主義者であるアインシュタインは、その偉大なる業績も
政治的な影響下において正当な評価を得ることが難しかったのです。
しかし、極東の日本ではそのような政治的圧力などほとんどなく、
講演旅行中何処に行っても温かな歓迎を受けました。
また彼は、日本人の質朴さ、簡素さ、純粋さにとても好意を寄せていたそうです。
その後、拡大した反ユダヤ運動から逃げるためアメリカに移住した彼は、
世界が第二次大戦に突き進んでゆく中、ドイツが核兵器を開発することを恐れ、
原子爆弾の先行開発を、当時の合衆国大統領ルーズベルトに提案する書面にサインします。
一方で、ドイツが降伏した後も戦闘を続けた日本に対し
原子爆弾を使用することについては反対の姿勢をとりました。
しかし結果として、原爆は広島・長崎に落とされ、その一報を聞いた彼は
「オー・ヴェー・・・(なんと痛ましいことか)」と言って口をつぐんだそうです。
その後、湯川秀樹と対面した時には彼は涙を流しながら謝罪したといいます。
彼は晩年、「世界政府」を設立して超国家的権力のもとに恒久的平和を目指そう
という活動に尽力し、核兵器根絶の運動にも重要な役割を果たしました。
彼の平和主義については、彼がドイツとの戦闘・核兵器の開発を促した事を取り上げて
言行が一致せず、自己矛盾すると指摘されることもあります。
それは一つの真実かもしれません。
しかし、愛する家族を守るために戦いを選んだ事、
自らの理論と大統領への進言が自分の好きな日本を大きく傷つけたことに苦悩する姿、
その後、その生涯をかけて世界平和と核兵器根絶の運動を続けたこと、
そこに、天才アルバート=アインシュタインの人間味というのを私は感じるのです。
お陰で本とネットの情報を元に、著しい脳内美化がされてる鴨・・・
って、やたら解説が長いやんコレ!
これだけ書いて既出だったら首吊って氏ぬしかないですな・・・w
ttp://homepage2.nifty.com/einstein/
ttp://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20021127205.html
ttp://www.coara.or.jp/~itoshima/ainsyutain.html
ちなみに、幾つかのエピソードは無理矢理ニホンちゃんと絡めてあります(歪曲ニダ!)。
事実誤認がありましたらご勘弁をw。
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(*^ー゜)b Good Job!!
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